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(オリジナル記事)アメリカで寄附金控除の対象団体となるには?501(c)(3)について解説

2024.02.07 12:58

【サンプルメタコメント】本業絡みで調べた一般知識をまとめたものです。


日本国内で社会貢献活動を行っている団体が活動上でアメリカと関わっている場合や、アメリカに住んでいる構成員がいる場合などには、寄付が盛んなイメージのあるアメリカの人に寄付を募った方が効率的なのでは?と思うことがあります。

ここでは、アメリカ人から寄付を得るために必要な制度的な準備や条件について、簡単に解説します。



寄付に関する制度構築

社会貢献活動を始めるのは誰でもできる

アメリカ国内で単に社会貢献活動や慈善活動を行うことや、何人かで集まって団体となること自体は、外国人であっても、自由に行うことができます。対価を得ない活動であれば、ビザの種類も関係ありません。

ただし、アメリカに法人を設立する場合や、日本法人の支店を設置する場合には、相応の手続きやビザが必要になります。


アメリカの寄付文化は高い減税効果のため

アメリカの寄付文化とそれに伴う社会貢献活動・慈善活動が盛んであることには文化的・宗教的背景もありますが、長く続いているのは寄付による減税効果が高く、お得だからというのも大きいでしょう。

といっても、どこに寄付をしても減税されるわけではなく、寄付先となる団体には制限があります。アメリカで多くの人に寄付をしてもらうには、この対象の団体となることがまず第一歩です。

では、日本人や、日本人が運営する団体がこの対象団体となるには、どうしたら良いでしょうか。


日本の寄付金控除制度

日本にも寄付金控除制度があり、対象となる団体はホームページなどでその旨を記載しています。やはり日本でも、控除が受けられる団体の方が、寄付を得やすい傾向はありそうです。

日本の場合は、まず非営利活動を主目的とするNPO法人(特定非営利活動法人)という法人の形態があります。これは皆さんも聞いたことがあると思います。

しかし、すべてのNPO法人が寄附金控除の対象になるわけではありません。NPO法人のうち、寄付者数や活動の適切さなど一定の条件を満たしたものが、寄付金控除の対象となる「認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)」になれます。

また、NPO法人だけでなく、国や公共団体、一定の公益社団法人・公益財団法人への寄付や、一定の政治活動に関する寄付も、寄付金控除の対象となります。

日本の寄付金控除は、まず控除以前に営利目的ではない活動をする法人の種類を限り、その中でも公益性が高く健全なものを認定し、寄付金控除の対象とするというものです。


アメリカには「NPO法人」が存在しない

ところが、アメリカではNPO法人という特別な法人の形が存在しません。「非営利活動法人」にあたるnon profit corporationという単語はあるものの、実際にはそういう名前の法人格が存在するわけではなく、corporationのうち実態として非営利で運営しているもの、狭義では寄付金控除対象団体に認定されたものをnon profit corporationと呼ぶに過ぎません。

アメリカの寄付金控除の考え方は、どのような形態であろうとも一般的に人が集まった団体のうち、非営利性や公益性が高いものに対してお墨付きを与えるというものです。


そこで、あらかじめ非営利活動法人を作らず、法人格だけをもって特典を与えることもない代わりに、米国法人格を持たない団体でも寄付金控除の対象となり得ます。


そしてその「お墨付き」について定めるもののうち、特に非営利団体に関連するのが内国歳入法501(c)(3)という項目になります。本来この項目は課税を免除するというものですが、501(c)(3)に該当すると認められ登録されれば、この団体に寄付した人が寄附金控除を受けられることにもなります。

ちなみに、内国歳入という言葉が出てきたところで添えておくと、日本で言う国税庁はアメリカでは内国歳入庁と言い、略称はIRSです。501(c)(3)に関する手続きについても、IRSが詳しく解説しています(※リンク先は英語です)。



501(c)(3)団体になる方法

団体としての条件

501(c)(3)団体として認められるためには、まず団体が一定の条件を満たしている必要があります。日本でNPO法人を設立できる程度の団体であれば、まずこの点は大丈夫です。


・宗教、事前、科学、文学、教育、国内外のアマチュア・スポーツ振興、児童・動物虐待防止を目的とする団体
・利益を出資者や個人に分配しない

・残余財産を社員、出資者に分配しない

・過度なロビー活動や、政治活動に関与しない
(翻訳は内閣府


他にも、定款等の規程で必要な内容が定められていることや、会計帳簿をきちんと備えていることなどが条件として挙げられています。こちらも、日本でNPO法人を設立するのと同程度の条件です。


ビザ

アメリカで法人を立てるには、相応のビザが必要です。

しかし、501(c)(3)団体になる手続きのみのためには、特にIRSからのビザの条件はありません。求められるのは代表者が自然人(法人ではなく人間)であることのみです。

ただし、この点に関して細かい点は州にゆだねられており、一般的には自然人であることのみであるものの、細かい条件が変わって来る可能性はあるようなので、その点は確認してください。


雇用者識別番号の取得

501(c)(3)団体になるには、その前段階として雇用者識別番号(EIN)を取得する必要があります。
この番号自体は、申請すればそれほど難しくなく発行されるようです。これも特にビザの要件などはありません。外国人でも必要になれば取得できます。また、現に雇っている人が一人もいなくても、雇用者番号を取得することは可能です。


501(c)(3)申請様式の入手、申請

申請用紙(様式)は2種類あります。

ひとつは小さい団体用のもので、1023-EZという名前のものです。こちらを使って申請する場合、手数料は275ドル(執筆時現在。以下同じ)です。

もうひとつは一般用のもので、後ろに何もつかない1023という様式です。こちらを使って申請する場合には、手数料が600ドルになります。

ただ、IRSの原則的な説明では「財政的な規模が小さければEZ」なのですが、日本の団体からの申請では注意が必要です。アメリカから見て外国法に基づいている組織や、メールアドレスが外国のものである場合には、EZ様式の対象外となります。


「パブリック・サポート・テスト」の日本とアメリカの違い

寄附金控除対象団体には2段階ある

さて、ここまで読んできた方は「あれ?ということは、日本では『認定NPO』にならないと寄付金控除の対象にならないのに、アメリカでは単にNPOと同等でも対象になるの?ユルくない?」と思ったかもしれません。

実は、アメリカの寄附金控除対象団体には2段階があります。単に501(c)(3)団体となるだけでも対象になりますが、下の段階に該当します。寄付をする人にとっては控除の割合が低く、団体自身にとっても税金の免除割合が低くなります。


では、上の段階に進むには?

そのためには、「パブリック・サポート・テスト」に合格する必要があります。

501(c)(3)団体のうち、パブリック・サポート・テストによって認められた、日本の認定NPOに相当するものを「パブリック・チャリティ」と呼びます。


「パブリック・サポート・テスト」の内容の違い

日本では認定NPOになろうとする団体がテストを受けますが、アメリカでは実質的に日本のNPOに相当する501(c)(3)団体のほとんどが、税金の還付申請に付随する形でテストを受けることになります。

日本とアメリカのパブリック・サポート・テストは、内容も違います。

寄附金等の収入に占める割合の条件は日本5分の1以上、アメリカ3分の1以上でアメリカの方が厳しいですが、運営の適正性、書類の提出状況などの条件は、アメリカでは少なくとも目立つところには明記されていません。もちろん違法なことをしていれば別でしょうが、そもそもアメリカでは取扱いが国税庁にあたる機関なので、お金に関する点を特に重視しているところがあります。

一方、日本では寄附金等収入の割合が満たない場合でも寄附者の人数などによって認められる余地がありますが、アメリカの場合は人数の要件についての記載は見当たりません。


厳しいのはどちらなのかと言えば、お金についてはアメリカ、総合で見ている点では日本と言えます。ただ、日本ではこのテストにパスしないと控除対象にならないのに対し、アメリカではこのテストにパスできなくても一定の範囲での控除対象にはなるため、目的からすればむしろ厳しくはないと考えても良さそうです。


日本とアメリカの寄附金控除制度の違いをもう一度整理

ここで、もう一度日本とアメリカの寄付金控除制度のしくみをおさらいします。

日本の場合は、まず「NPO法人」という特別な法人を認めます。NPO法人になれば、法人に対する課税等は一部免除されます。
NPOをはじめとしたいくつかの公益的と認められる法人のうち、特に優良な運営体制や寄附金収入割合が認められる場合に、寄付金控除対象団体になります。パブリック・サポート・テストを通過した認定NPO法人もそのひとつです。

つまり日本では、公益性の認定については2段階あるが、課税免除と寄付金控除対象団体は1段階であると言えます。


一方アメリカは、法人に限らず広く団体のうち、社会貢献や慈善活動をメインに行っていると認められるものを501(c)(3)団体として、一定程度の課税の免除と寄付金控除の対象とします。そしてその中でも寄附金等が一定以上の割合を占めるパブリック・サポート・テスト通過団体には、より大きな寄付金控除の対象とし、団体への課税の優遇も多くします。

つまり、アメリカでは公益性の認定と寄付金控除や課税免除の認定が一体化していて、どちらも2段階あるということになります。

また最初のほうでお伝えしたとおり、アメリカでは法人格がない場合でも対象となる点が、日本と大きく違っています。


日本のNPOはアメリカで寄付金控除対象になれる?

あらゆる条件を無視して結論だけを言うなら、日本のNPO法人レベルの団体がアメリカで寄付金控除対象団体になることは「可能」と言えます。NPO法人が設立できる程度であれば501(c)(3)の条件をほぼ自動的に満たすものと考えられ、あとは申請するだけだからです。

ただし、日本のNPO法人格との連続性の確保や、実務上の外国人としてのハードルなどを考えると、決して独断のみで進むべきではなく、日本国内と現地の両方で、各分野の専門家を頼るべきであると言えます。


たとえば、いくら501(c)(3)の認定上で可能だったとしても、本拠地が日本にある場合、日本のNPO法人の登記上、アメリカでの認定団体は一体何に当たるのか、手続が必要になるのか、などは、司法書士の分野になります。

税金の問題も国際的になると複雑化します。日米両方の税理士に相談しながら進めないと、法外な税金が急に降って来ることになりかねません。501(c)(3)をいつ誰の名前で申請するのかによっても、誰に何についての税金がかかってくるのかが大きく変わってきます。

そういった複雑な状況の中で、しかも言語的にもハードルの高い外国人の申請となれば、501(c)(3)の用紙だけでも、どのように記載すればいいのか、アメリカ側の手続きは本当にそれだけで良いのか、日本法人との関係をどう捉えられるのか、登録後の手続や寄付者への対応はどうするのが良いのかなど、現地法に詳しい専門家の介在なしに行うのは不安が大きくなります。


本記事では、まずは501(c)(3)という項目の存在や、日本人が運営する団体でもアメリカの寄付金控除対象になり得る可能性について紹介しました。逆に言えば、あくまでも可能性について理論上の結論を出したのみで、実務として個々の条件に合わせても可能かどうかはまた別の話です。
もし本当にそういった展開の仕方を考えるのであれば、今回この記事で紹介したキーワードをもとに、身近な専門家に相談してみてくださいね。