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たくさんの大好きを。

拝啓 あなたへ 2(文 3.1加筆

2024.02.11 08:08

こんな事、起こるわけないって頭の中では非現実な目の前の光景が信じられない気持ちでいっぱいなのに、瞳の中に映る姿は夢でも幻でもなくて、ちゃんと此処に存在している

あたしより少し長い髪。

でも同じ姿、同じ瞳。

どう見たってあたしそのものだ。


真冬の冷え切った気温が体を冷やしていくが、胸の辺りは早鐘を打つような鼓動で火照りさえ感じた。

「……あっちのあたしって……」

口からこぼれ落ちたのは当たり前の疑問。

「そうだよね、うん、分かる。だってあたし

こういうの信じないしね」

あたしがあたしに、うんうんと頷きながら同調している。すごく真面目な顔をして。

「だって……、あ! もしかしてあなた銀狐!? それとも誰かが変装して──」

一つの可能性が浮かんで、体ごと後ろに少し引いて、身構える。でも──

「…あなたはあたしがあなたと同じ槇村香だって分かっているはずよ」

諭すような声。

そうよ、本当は分かっている。どうしてかなんかは分からないけれど、目の前のあたしを何処も否定はできない。

「あたしが槇村香だって証明したら信じてくれるのかしら?」

「……どうやって?」

試すような言い方に、あたしと同じ顔のその人に低い声で答えた。

「あなたしか知らない事、あたしは知ってる」

「…あたしの何を? そんな事何とでも──」

「あたし…ううん、あなた獠から離れようとしてる。そうでしょう?」


ザ───。雨音が戻り、耳に五月蝿く響く。


「なんで──」

「だってあたしはあなただから。……ううん、正確にはちょっと違うけどそれでもあなたがそうしようって思っている事は分かるわ」

「何を……」

「うーん、あたしが話せるのはこれくらいなのよ。でもね、あなたが思っているよりずっともっと、アイツ、あなたがいないとダメなのよ?」

そんなわけない。だって何でも一人でちゃんと出来るじゃない。あたしが居なくて困る事なんて、日々の家事が面倒になるくらいだろうなって事以外、何も見当たらない。

「…そんなわけない。何も困らないと思う。むしろ羽が伸ばせていいんじゃない?」

言いながら、言葉と裏腹に胸がキュッとする。

「でもさ、考えてみて。あなたがいなくなったら獠のヤツ、自堕落な生活まっしぐらよ。

いいの? 依頼人にちょっかい出しまくって評判落としちゃっても? シティーハンターの名前が地に落ちちゃうのよ? アニキがあっちで泣いちゃうわ」

「……アニキの事を出すなんてズルいと思うけど」

「…ごめん」

しゅんとした顔をされるとなんだかこちらが落ち着かなくて、早口で言葉を繋ぐ。

「とにかく、もう決めたの。だからあなたの望みは聞けない。ごめんなさい」

「はあ……そうよね、はい、そうですか。なんて言うはずがないものね。ほんとどうしようもなく意地っ張りなんだから」

そう言って呆れたようにため息をついた、あたしと同じであろう人を凝視する。

え? あたし? あたしがあたしに呆れてるの? え?────

「でもね、その意地っ張りなところ、もうちょっと直したほうがいいかも。…なんて、無理よね、だってあたしだもん。んー、でもさ、獠───」

「待て待て待て──!!」

プチと頭の何処かで鳴った。気が強いってよく言われるけど、流石にこれはあたしのせいじゃない、はず。

「黙って聞いてれば言いたい放題言ってくれるじゃない! 誰が!? 意地っ張りって!? あたしがそうだとしたら、あなたもそうなくせに!!」

フン! とわざとらしく鼻を鳴らして、腕組みをする。

「あたしだって! 散々悩んで、頭痛くなるくらい悩んで決めたんだから! あたしだって本当は───」

「本当は側に居たい?」


静かに問いかけられた。

優しい声。

泣くな。勝手に溢れそうになる気持ちの固まりを、かろうじて散らしていく。

側に居たいなんてそんな事、叶うなら、ずっと。そう願いたいに決まっている。


気持ちの吐露が体中に巡っていくようで気分があらぬ方向に高揚していく。


「お願い。あなたがいないとあの人はダメになっちゃう」

「そんなわけない」

あり得ない言葉の意味に、ピシャリと返す。

「……獠は……」

俯き加減の額に、はらりと前髪が一房落ちて影を作る。表情は読めない。

見つめていると、顔を上げて寂しそうに笑った。

「獠は…あなたが思う以上にあなたが必要なの」

「…嘘よ。そんな事ない」


だけど本当はほんの少しだけわかる気がした。あたしはきっと獠にとって『家族』みたいなものなんだろうと思うから、大事にされていたと思うし、だからこそ一人にしてしまう罪悪感はないとは言えなかった。


「本当よ?」

「そうだとしても、何も変わらない」

「……そうよね、一番大切なものを守りたいから。そうでしょう?」

はっと目を見開く。なんで? なんて今更なんだろう。多分目の前のあたしは全部分かっている。そんな気がした。

「あなたもあたしも獠が生きている事が一番大事だから」

ああ、やっぱり。

目尻が熱くなる。雨で張り付いたシャツがとても不快感を伴うけれど、そんな事はどうでも良かった。


雨音はもう聞こえない。

叩きつけるような音は消えて、涙雨のように静かな雨が空を包む。

あたしであろうその人が、熱を持った瞳を向ける。

「あなたしかできないの。お願い」

「獠が?」

「そう。あなたじゃなきゃダメ」

じわりと心に温かさが染み渡っていく。

分かってもらえてる気がした。

愛だとか恋だとか、あたしには本当はよく分からない。

でも願いが一つ叶うなら

あたしはそれを何度だって選ぶ

「…………」

上手く言葉にできなくて黙り込むと、労わるように優しい声が響く。

「側に居てあげて」

また温かい何かが胸を刺す。それでも。

「もう決めたの。それにあたしが居ないからって何も変わらないわよ」

むしろ獠はあたしを守るっていう、楔みたいなものから解放されて自由になれる。

「馬鹿よね、知ってるけど」

「そうね。多分あなたもね」

平行線は交わらないままで、二人の間にやんわりと冷えた空気が吹き抜けて、埋まらない溝に雨垂れが落ちていくように全てが冷たい。

「それでも何度でも願うわよ、諦めないから」

「何度来たって変わらない」


目を閉じる。

変わらない事を確かめるように。

ゆっくり開いた瞳の先にはもう何処にもその人は居なかった。




「あー、たまには遠出でもして羽伸ばすか」

三日後の昼下がりの昼食後の獠の一言に、シンクに皿を置いた手を止め、背後を振り返る。

「何? どうしたのよ急に」

「いや、別に……おまえ海の方まで行きたいって前に言ってたよなあ?」

そういえば少し前に言った気がする。だからって何で? と怪訝な顔を突き付けた。

「まあ、言ったけど、なんで今なのよ?」

「いいだろ? ほら、早く用意してこいよ」

「え?」

呆気に取られる香を、ニヤリとした顔で見ながらジャケットのポケットの中からミニのキーを取り出して、人差し指でくるくると回して見せる。

「用意っていっても…え? 着替えとか? でもあたしオシャレな服なんて……」

香の戸惑いに、獠が柔らかく笑う。

「ばーか、そのまんまでいいだろ? 上着ぐらい持って来いってこと」

春が近づいてきている季節とはいえ、日が落ちると冷え込みがまだ厳しい。獠の指摘に、なるほど。と納得しながらも、普段と違う行動に首を傾げる。

「ねえ、獠。何しに行くの?」

「何しにって……ドライブだろーが」

一呼吸分、動作が止まった後香が目をぱちくりさせる。

「ドライブ……」

「そ、ドライブ、海行くぞー」

楽しげな獠の声が耳の奥でくすぐったい。

気まぐれだとしても素直に嬉しかった。

「すぐ持ってくる!」

「下でエンジンかけとくな」

指で弄んでいたキーを握りしめて、獠が階下へと降りていく。追いかけるようにリビングを出て、跳ねるように自室に戻ってクローゼットを開いて少し明るめのコートを掴んで獠

が待つガレージへと急いだ。


車は都心を離れて、フロントガラス越しに見える景色が随分と夕焼けの赤が鮮やかに映えている。綺麗だなと思った。

「綺麗だな」

隣から発せられた言葉に驚いて、今の今までずっと無口だった真横の男を見つめる。

空の赤に照らされた横顔は、悔しいけれど綺麗に整っていて、見惚れそうになり慌てて顔を逸らした。

「…あたしも綺麗だなって思った」

香の言葉に返答することもなく、それでも獠の目尻がふっと緩む。

 

こんな時間が続くなら

本当は───

でも分かっている。気まぐれな時間はきっと長くは続かない。

飲み込んだ想いは気まぐれな時間に溶かしてしまおう。


「三日前、おまえどこ行ってた?」

ぼんやりとしていた頭の中に、不意に声が飛ぶ。

「三日前?」

聞き返した香の顔を視線だけ移して、獠がああ。と短く返す。

「どこって…買い物? だったかな?」

「……雨、降ってたよな?何処にいた?」

「何?」

少しきつい言い方になっているのは自覚している。獠の問いかけがやけに癇に障った。

こんな風な聞き方は普段はしないのに、と

今日はどこかおかしい気がする。

「会ったって言ってたろ?」

「誰に?」

「それ、俺が聞いてんだけど」

「三日前……」



雨の日。会ったのは───

あの日、雨が止んだ後に家まで辿り着いて冷えた体を温めようと浴室に向かうと、獠が目の前に現れた。ふらふらと歩いていて気づいていなかったようで、大丈夫か?と声をかけられた。

直前までの非現実な事に、軽く頭が混乱していたのかもしれない。誰かに聞いて欲しかった。だからつい口から零れ落ちた。

『会いにきたの』

『会いに? 誰がだ?』

『…………』

誰がって、あたしが、あたしに。

でもそんな事言えない。言ったって信じてもらえない。そんな色々な想いが交差して、

『体、冷えちゃった。お風呂溜めてくるね』

そう告げて逃げるように浴室に飛び込んだ。



獠が言っているのはその時の会話の事だろうか。あの後その事に触れる事なんてなかったのに。


顔を逸らして窓越しに外を見つめる。

 

『側に居てあげて』

あの人はどうしてあんな事を言ったんだろう。


黙り込んだ事に痺れを切らしたのか、

「香」

と、促されるように名前を呼ばれる。

「…知り合いに会ったの。それだけよ」

流れていく景色を瞳で追っていると、その先に夕焼け色に染まった海が広がっている。

閉塞感に包まれたような車内の空気を振り払うように話題を交わして、香は感嘆の声を上げた。

「海! ねえ、海が見えたよ! 獠」

言いながら、綺麗…と呟く香の横顔は屈託なく笑っている。それを横目に見ながら、無言のまま獠がミニを海辺の方へと走らせていく。途切れた会話は意味を持たないかのように宙ぶらりんのまま二人の間に小さな溝となっていくように思えて、獠の表情が僅かに曇るが香が気付くはずもない。

また話せばいい。そう結論づけて問題を後回しにすると、アクセルを強く踏み込み香の瞳の先に広がる綺麗な世界へと急いだ。



2024.3.1

題名仮でつけてましたが変更しました🙏題名ほんと苦手なので思考が固まります💦

少し加筆しました🙏

















ひとまず途中までアップします🙏

また追加で加筆します🙏🙏🙏

一つ前の記事は削除しました🙏やさぐれててごめんなさい😆ほんとバックアップだいじ、、、


2024.2.11