凸と凹「登録先の志」No.29:山中祥悟さん(NPO法人ワークショップひなたぼっこ 事務長)
障がい者への悪意ある呼び方に嫌な気持ちになった
工業系の高校を卒業後、機械系の会社に就職しました。転職もしましたが、30代前半までは半導体等の機械系の会社で開発に携わっていたので、ずっと福祉とは関係ない世界にいました。
地元の天草へ帰ることになった際、叔母がひなたぼっこの活動をしている様子を帰省する度に見ていたことから、どうせ帰るなら叔母を手伝えないかと思いました。ちょうど兄が叔母の後継ぎとしてひなたぼっこで働き始めていたので、相談して一緒にやることになり、天草へ家族と引っ越してひなたぼっこで働くようになりました。
いとこに障がいがあったのですが、障がいを持った人に対しては、自分も最初はちょっと恐いなというイメージがありました。でも、叔母や兄の話を聴くにつれ、そういった偏見はなくなっていきました。熊本市内に住んでいた時は障がいを持つ方と街中で出会うことも多く、コンビニの前で叫んでいる人が周りに避けられている姿を目にしたことがありました。障がいを持つ方に対して悪意のある呼び方をしているのを見て、嫌な気持ちになったことを覚えています。
天草に帰ってきてから友人にひなたぼっこのことを話すと、「刑務所みたいな感じやんね」と言われたこともありました。今も障がいがあることを隠そうとする方がいたり、地域食堂で写真を撮る時も、障がいがある方のお顔はなるべく写さないように配慮することもあります。
障がいをもっと身近に感じてほしい
発達障がいのセルフチェックをやってみたことがありますか。障がいのない人でも、10項目があると平均で3つぐらいチェックが入るイメージがあります。私もやってみたら、5つチェックが入りました。
障がいをもっと身近に感じてほしいなと思っています。子どもが生まれると、必ず障がいがあるかどうかを調べます。障がいを持つ方はどこにでもいるし、芸能人でもカミングアウトする方がいらっしゃいます。そういった方を孤立させないことが大切ですし、特に地方では人材が流出していることもあり、地域の担い手としての期待もあります。
障がいがあるからということで家に閉じこもっていたり、施設と家の往復のみという生活の方も多いのですが、障がいを持つ方が地域に溶け込んでいけるようにしていきたいです。
私自身もひなたぼっこで働き始めた最初の1週間は、利用者の方とどう接していいかわからず、障がいのことも触れてはいけないと思っていました。でも、言葉を交わしていくうちに徐々に打ち解けていきました。
コロナで途絶えた地域とのつながりを取り戻すための地域食堂
「地域コミュニティの重要性」が世間的にも盛んに言われるようになりました。地域での活動には公的な支援がないので続ける難しさはありますが、補助金等を活用することもできます。天草の人口がこれ以上少なくなる前に利用者の働き口をつくるなど、地域活性化をしていく必要性を感じています。
障がいのある方の中には、地域行事に参加したいという思いを持っている方がけっこういらっしゃいます。例えば、何のゆかりもないのに、地域の高校の文化祭を見に行きたいというニーズがあったりします。障がいに関する認知が少しずつ高まってきている今が、地域での活動を広げていくのにちょうどよいタイミングだと思っています。
新型コロナの影響で販売会等がなくなり、障がいを持つ方と地域との交流がほとんどなくなってしまいました。そんな状況をどうにかしたいという思いから、地域食堂は生まれました。現在9割ぐらいの方がリピーターとして来てくれているので、今後は新規の方を増やしていきたいです。
天草に住んでいる方はもちろんですが、天草出身だったり、うちの地域でも地域食堂をやりたいと思っている人たちに応援してもらいたいです。人口が流出している分、地域外で天草出身の方に出会うことも多いと感じています。私たちと同じように、地方で奮闘している他の地域の方にも知ってもらえるとうれしいです。
取材者の感想
以前、理事長であるお兄さんにもインタビューをさせていただきましたが、障がいのあるいとこと叔母の存在をきっかけに、兄弟が一緒になって活動されていることが、まるで一つの映画を観ているように感じました。対外的なことが得意なお兄さんと、事務が得意な山中さんでバランスが取れているとお話されていて、それも魅力的だと思います。
「発達障がいのセルフチェックをやってみたことがありますか」と問われた時に少しドキッとしたので、私もADHDのチェックをやってみたら「ADHDの症状を持っている可能性があるかもしれません」と出ました。自分もそうかもしれないと思うと、まったく人ごとではないし、もっと知りたいなとも思いました。そうやって「知ろうとすること」が第一歩なのかもしれません。(長谷川)
山中祥悟さん:プロフィール
NPO法人ワークショップひなたぼっこ 事務長
2003年八代工業高等専門学校卒業。卒業後は主に半導体関連の業務に携わり、16年にNPO法人ワークショップひなたぼっこに入社。最初は支援員として業務を開始し、理事長交代を機に事務長に就任。17年に准認定ファンドレイザー資格を取得。障がい者だけでなく発達に不安がある子どもへの支援や、気軽に相談を行える相談支援事業など、幅広く障がいを持たれている方へ支援を行えるように理事長と一緒に事業を広げる。より地域の方などに支援いただけるように、24年度を目標に認定NPO法人となるべく寄付募集を実施している。
NPO法人ワークショップひなたぼっこは、凸と凹「マンスリーサポートプログラム」の登録先です。