「西朝鮮」たる中国、金正恩と同様に「祖国統一」など諦めたらいかが?
中国は「西朝鮮」だという若者たちの悲嘆
習近平の中国は今、「西朝鮮」と呼ばれていることをご存じだろうか。
北朝鮮があれば、「南朝鮮」すなわち韓国があり、さらにその西には「西朝鮮」、つまり独裁者・習近平率いる全体主義専制国家、今や北朝鮮の「金王朝」とそっくりの前近代奴隷制王朝があるというわけだ。
「西朝鮮」という呼び方は、中国の若いネットユーザーたちが自分たちの国を自嘲して使い始めた言葉だという。「習近平思想」でがんじがらめに縛られ、いたる所にある監視カメラとスマートフォンの通信データで徹底的に行動や思想まで統制・管理され、一部の共産党中央にコネをもつ「貴権階級」(貴族特権階級)だけが豊かになり、その他おおぜいの庶民(中国語で「百姓」)は、建設工事がストップし住むこともできない不動産物件の借金だけを背負わされ、大学を出てもその半数には就職先がなく、愛国主義教育や反スパイ防止法などの締め付けで、外国資本が次々に撤退しているだけでなく、大手IT企業の経営トップや大学教授など知識人も次々に国外脱出をはかっている。中国の若者たちは、そんな未来に何の希望も見いだせない自分たちの国を北朝鮮とどこに違いがあるのかと悲嘆に暮れている。
<朝鮮日報22年12月24日「『西朝鮮』になった国…『中国の夢』は実現しない」>
「中国=大きな北朝鮮」という共通点
中国が、いわば「大きな北朝鮮」に過ぎないという理由は山ほどある。まず中国の習近平独裁体制と北朝鮮の金王朝世襲体制は、合議制とか集団指導体制とは相容れない個人独裁王朝であり、金正恩が金氏一族の「白頭(ペクト)血統」の継続しか考えていないと同様に、習近平も自分の身内と取り巻き勢力の生き残りしか考えていない。北朝鮮が造反者を政治犯収容所などに簡単に収容するのと同様に、中国も異見者やキリスト教などの信仰者を裁判なしに刑務所や精神病院に隔離し、チベット人やウイグル人のように大規模に再教育施設に収容する。北朝鮮が韓国ドラマなど韓国文化の浸透を異常に警戒するように、中国も民主政治など西側の思想や文化の浸透を警戒しネット統制を強化している。軍事力は敵対国を脅す手段だと考え、不正な手段で外国の技術を盗み出し、経済効率や民生などまったく考慮せず、兵器開発を優先させる、中国は新型コロナの発生源になっても国際社会には何の説明もせず、「ゼロコロナ」政策と称して上海など大都市を含めて全土をロックダウン、その後「ゼロコロナ」をいきなり切り上げた挙句、数千万の感染患者と多くの死者を出した。北朝鮮も新型コロナ感染の流入を阻止するとして国境を完全に閉じて鎖国体制を敷くなど、中国も北朝鮮も極端な感染対策で国民生活に途端の苦しみを与えた。
中国は不動産不況と地方政府の財政難に対して何の有効な対策も打ち出さず、北朝鮮も核・ミサイル開発に集中する一方で、食糧配給問題の解決などには見向きもせず、民間の闇市場(チャンマダン)に頼るだけだ。それにも関わらず習近平と金正恩の指導に間違いはなく、中国も北朝鮮も党の政策は正しいという無謬性にこだわり宣伝に努める、など例を挙げたら切りが無い。
21世紀の世の中に、なぜこんな異形の国を作ってしまったのか。そこに住む住民がいまだに目覚めることなく、反旗を翻さないのが不思議でならない。
北朝鮮・金正恩の歴史を裏切る大転換
ところで、その北朝鮮の金正恩は1月15日の最高人民会議での施政演説で、韓国を「南朝鮮」ではなく「大韓民国」と正式名で呼んだ上で、韓国は「徹頭徹尾、第一の敵対国、不変の主敵」であることを憲法に明記し、「戦争が起きた場合、大韓民国を完全に占領、平定、奪還し、共和国の領域に編入させること」を憲法に反映しなければならないと指示した。さらに憲法にある「自主」「平和統一」「民族大団結」のような表現を削除せよと命じ、「共和国の民族の歴史から『統一』『和解』『同族』という概念自体を完全に除去しなければならない」とした上で、平壌直轄市楽浪区に立つ「祖国統一3大憲章記念塔」を「醜い、見たくもない」と言って撤去せよと指示した。その指示どおり、1月19日から23日の間に破壊されたことが衛星写真で確認されている。
「祖国統一3大憲章」とは、いずれも金正恩の祖父・金日成が提唱したもので、
<1>1972年の南北共同声明で提起された「祖国統一3大原則」(①統一は外部勢力に依存せず、干渉なしに自主的に解決する。②統一は互いに相手が反対する武力行使に頼らずに平和的な方法で実現する。③思想と理念、制度の違いを超越して、一つの民族として大団結を図る)、
<2>1980年の第6次党大会で提示された「高麗民主連邦共和国創立案」、
<3>1993年4月の最高人民会議第9期第5次会議で提示された「全民族大団結10大綱領」の3つを指す。
つまり「祖国統一3大憲章記念塔」は、南北朝鮮の統一政策に関連する金日成の遺志であり、父・金正日、正恩と引き継ぐべき「共同遺産」でもあった。その遺志・遺産を、金正恩の意向だけでいとも簡単に葬り棄てたのだから、これは歴史的大転換ということになる。北朝鮮には、金正恩のこれほどの独断専横を戒めることのできる大人もいないということだ。
早速、北朝鮮は対南政策を担当してきた「6・15北側委員会」と「汎民連北側委員会」という機関を閉鎖し、南北の経済協力などに関する法律を廃棄した。またテレビの天気予報の地図では、韓国の部分が別の色に変えられ、朝鮮半島は南北で別の国と目で見ても分かるようになった。
この歴史的大転換で困ったのは、民族統一を組織の存在理由(レゾン・デートル)に掲げてきた総連(在日朝鮮人総連合)と、「主体思想派」と呼ばれる親北人士を多く抱える韓国の左派政党や尹美香などに代表される親北反米団体である。まさにハシゴを外されるとはこのことで、総連などは今後の対応方針をいまだに明らかにしていない。
一方、金正恩の「有事には核を使って南朝鮮の全領土を平定する」などの発言を受けて開かれた尹美香主催の公開討論会では、「統一戦争で平和が実現するなら受け入れるべきだ」「北朝鮮による戦争は正義の戦争観」「北朝鮮が戦争してでも統一を決意した以上、われわれもその方向に合わせるべきだ」などの発言が相次いだという。発狂したとしか思えない、とんでもない言説が飛びかうのが韓国社会だ。
<朝鮮日報1月31日「韓国国会で尹美香議員主催討論会、出席者から「北朝鮮による戦争は正義の戦争観」などの発言相次ぐ」>
習近平は「祖国統一」を諦めた金正恩の決意を見習うべき
金正恩が今にも韓国に戦争を仕掛けるのではないかという観測が、米国の北朝鮮ウォッチャーの間でも出ているそうだが、韓国のマスコミの論者たちは、いまロシアに砲弾やミサイルを大量に供給している北朝鮮が、韓国に攻撃を仕掛け、全土を平定する能力などあるはずがなく、本音は「南北関係はもはや敵対関係でしかなく、統一は不可能なので、韓国の政権は静かにしていて欲しい」ということにあり、韓国が北を攻撃にしないように、「攻撃されたら核を使用して韓国を徹底的に破滅させる」と脅しをかけているに過ぎないという見方が大半で、従って韓国側に別段の切迫感はない。
何と言っても、尹錫悦政権が、北朝鮮が少しでも軍事挑発を試みたり攻撃を仕掛けてきたら、キルチェーンと呼ばれる最新の大量破壊兵器システムによる即応反撃態勢を発動し、北の政権を滅亡させると宣言していることが大きい。また米国はいま東アジア周辺に3つの空母機動部隊を配置しているといわれる。北朝鮮が少しでも核兵器の使用の兆候を見せたら、韓国も米国も北朝鮮への総攻撃を開始するという決意を、金正恩自身がもっとも深く認識し、恐怖におののいているのは間違いない。
ところで、「西朝鮮」たる中国の習近平には、北朝鮮の金正恩の方針転換から学びとってほしい点がある。金正恩が韓国を敵対国家だとし統一の対象ではないときっぱり宣言したように、習近平も「一つの中国」などという虚構に固執せず、現実に即して台湾は別の国だと宣言したらどうか。
台湾は歴史上、中国共産党政権と「一つの国」になったことはなく、台湾人が中国と一緒になろうなどとは夢にも思っていないと同様に、中国の国民もいま台湾と一緒になるために戦争をするメリットなど何もないと思っている。それこそ、台湾に対して武力を発動した途端、世界中の国々から閉め出され、世界中の人々から反発を買って、中国は世界と断絶するだろう。北朝鮮と同様に、それでも自給自足で生きていけるかも知れないが、それこそ、この21世紀の世の中で停滞した中世の暗黒社会を経験する覚悟がなければならない。賢明な中国人たちがそんな選択を許すだろうか?