認知症 周囲に語り広がる世界 札幌の竹内瑠璃子さん、夫・真一さん 講座で介護談 近所が支えに
2024年2月22日 5:00
北海道新聞くらし面で昨年11月に紹介した、アルツハイマー型認知症と診断を受けた札幌市の竹内瑠璃子さん(77)と介護する夫の真一さん(78)。竹内さん夫妻は翌12月、空知管内上砂川町で開かれた認知症がテーマの町民講座で暮らしぶりを発表した。竹内さん夫妻が人前で思いを語るのは初めて。実名で公の場に出る認知症の当事者と家族は、道内ではまだ少ない。真一さんは「認知症になったことを本人も家族も打ち明けられる社会になってほしい」と強く願う。
竹内さん夫妻は講座当日、北海道認知症の人を支える家族の会事務局長の西村敏子さん(75)やレビー小体型認知症のハルさん(66)=仮名=らとともに上砂川町へ。札幌から会場まで列車とタクシーを乗り継ぎ、約1時間10分かけての移動。真一さんが「瑠璃子が認知症になってから、列車に乗って出かける機会はなかった」とうれしそうに話すと、瑠璃子さんも穏やかな表情でうなずいた。
講座の題名は「認知症になっても私らしく生きたい」。西村さんが竹内さん夫妻やハルさんにインタビューしながら不安や前向きに生きようとする思いを引き出し、参加した町民約50人が耳を傾けた。
真一さんは、瑠璃子さんにガスコンロの操作が思い出せない、曜日が分からないなどの症状が現れ始めて受診し、2019年11月に認知症の診断を受けたと説明。デイサービスやショートステイを利用し、介護している日常を紹介した。
どのような介護をしたか日記をつけるほか、瑠璃子さんの状態や介護サービスの利用状況などをまとめた一覧の作成もアドバイス。「症状の変化が分かり、介護について振り返ることができる」と利点を語った。
また、「認知症であると自分たちから打ち明けないと周囲の理解や協力は得られない」と考え、同じマンションの住人には瑠璃子さんの現状を伝えた。すると、これまでと変わらない近所付き合いが続き、声をかけてくれたり、見守ってくれたりしているという。
真一さんは自身の経験から「介護は楽しくするもの。嫌々していると本人に伝わる」と呼びかけた。参加した70代の女性は「竹内さんは同世代。認知症の人や介護する家族の気持ちの理解が深まった」と話した。
竹内さん夫妻が講座で発表したのは、上砂川町の担当者から認知症を正しく知ってほしいと相談を受けた西村さんの提案だった。竹内さん夫妻は「私たちが少しでも参考になるなら」と快諾。認知症の人や介護する家族が身近にいるともっと知ってほしいとの思いからで、新年度も研修会などで発表する予定だ。
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瑠璃子さんは今年1月、通っているデイサービスの行事で絵馬に「(真一さんと)ずっと仲良くいられますように」と願いを書いた。真一さんは瑠璃子さんが認知症になってから毎日、「大好きだよ」「愛してるよ」と伝えている。そのたびに、瑠璃子さんは「心にもないこと言って」と満面の笑みを浮かべる。
「瑠璃子より先には逝かない。いつもそばにいるからな」。真一さんの言葉には、妻を安心させながら二人三脚の生活を続ける強い思いが込められている。(熊谷知喜)
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