夜鶴2
夜道を歩いていた。
しこたま体にそそぎ込んだアルコールが足の感覚をぼやけさせている。右足に梅酒。左足に焼酎。胴体は日本酒でいっぱいだ。
大丈夫か?
白く霞む頭の中に茫洋と声が響く。
わからん。疲れた。
転ばないようにするのが精一杯で足下を見つめながら返した。ともすればビーチサンダルの先がコンクリートに巻き取られてしまい、つま先は少しすりむけてしまっていた。酒のせいか、痛みはない。
しっかり歩けよ。飲み過ぎなんだよ。
左脇に腕が差し込まれて、重力に従うままつぶれかけていた体が持ち上げられた。曖昧なお礼を言いながらなんとか頭を持ち上げる。
トミ?
見慣れた友人のTシャツに名前を呼ぶと、なんだよ、と俺を支えてくれている男が答えた。ああ、竹富の、声だ。
そっか、そっか、俺今日トミと飲んでたんだ。
お前本当にしっかりしろよ。
ろれつの回らない俺を竹富が叱る。
ジワジワとアブラゼミが鳴いている。その声を聞きながら歩くうちに、だんだんと目の前がはっきりしてきた。今歩いている道が、土手沿いの道だということもわかった。街灯はまばらで、光が重ならない場所はどろりとした闇が溜まっている。
知っている道のような気がした。
トミ。
なんだよ。吐くのか?
ちげえよ、もう、大丈夫。歩けるよ。
脇から竹富の腕を外して、ふらふらと足を出した。
街灯の柱に手をついて、揺れる脳が落ち着くのを待った。やっぱり吐いてしまうかも知れない。
ジワジワジワジワジワジワジワジワジワジワジワジワジワジワジワジワ。
内耳が割れ鐘のような音で一杯になる。胸がつかえる。吐き気とは異なる感覚。なんだろう。ここは、どこなんだろう。
大丈夫か?
竹富が後ろから近づいてくる。砂利を踏むような足音が妙にぼやけていた。
なあ、トミ。
俺は地面から視線をあげられなかった。つま先にざらり、かかる長い髪。うつぶせの首から目が離せない。
なあに?
竹富が答えて、さらに近づいてくる。
あっけらかんとしたその声に、俺は引き剥がすようにして、無理やり首を巡らして振り返った。街灯に照らされた狭い範囲、そこに入ってくる竹富を。
彼はごく自然な笑顔で、右手を自分の首の前で水平に引いた。
どろりした血を、吐いた。
何も見えない。