夜鶴3
「っあぁ!」
飛び起きた瞬間に上げた声が、耳に鈍く響いた。ついでに舌を噛んだ。
周りのことが分からなくて首を振るが、目の前がチカチカしてうまくものが見えない。俺は頭を抱えて、恐ろしく早い脈と呼吸の音を無心に聞いた。
「おお、起きたんか」
背中でカタカタと物音がして、聞き慣れた声がかけられた。
顔をこすりながら後ろを向くと、レポート用紙を抱えた竹富が立っていた。
「汗すげーよ、どうしたの?」
「何してんだよおまえ……」
「は?」
拭っても拭っても汗が止まらず、体がひどく冷えていた。寒いというと、竹富は暑いわ馬鹿と言いながら空調を調節してくれた。
「ありがとう……」
「タオルいる?」
「いる……」
今まで寝ていたソファを手のひらで触ると、じっとりと湿っていた。相当な寝汗だ。
あんな夢を見たんだから、当たり前か。竹富から渡されたタオルに顔を埋めながら、荒れた気持ちで呟いた。ピリピリする舌を出して、鼻から息を吐くと余計に汗が出てくる。
「どんな夢見てたの」
竹富がソファの前に座りながら、顔をのぞき込むようにして聞いてくる。
俺は洗いざらい話して、胸糞の悪さをすっきり流してしまおうと口を開いたが、その途端に、砂糖が溶けるように夢の形がサラサラとなくなってしまった。微かに残った尻尾を掴もうとしても、思いだそうとすればするほど分からなくなる。
何も言えないでいる俺に、まぁ嫌な夢だったんだろうな、と気の利く友人は一人頷いてくれた。
「昨日の酒が残ってんだべ」
テーブルの上にレポート用紙を置き、資料らしい写真を並べていく竹富を見ながら、俺は空白になった脳を少しずつ組み立てていく。
「昨日、そうか。飲んだか」
「飲んだだろ。割り勘にするの理不尽なくらいお前ばっか飲んだだろ。金返して」
「ごめん、あんま覚えてない」
「あぢきなきやつめ!」
悪態らしきものを吐きながら、竹富は嫌味のない顔で笑った。
その顔を見て俺はようやく、ゆっくり息を吐くことができた。汗もいつの間にか引いている。
弛んだ体を再びソファに横たえると、部屋の空気全体がのっそりと覆い被さってきた。見えない指に瞼が下ろされる。
「寝るの?」
「うん、金は後で……」
竹富がまた何事かを言って笑ったような気がして、俺は鉛のような瞼をもう一度こじ開けたが、適わなかった。
幾つもの層を落ちていきながら、俺は掠めるように見た写真の鮮やかな白と赤に、とろける思考を及ばせていた。