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白状

僕たちあいしあっているんです

2024.02.25 05:10

 浩太郎くんがアイスが食べたいというので、自転車で5分徒歩で約15分のコンビニまで僕は向かっている。

 自らの足を電車の車輪のように激しく回転させながら走っているわけだが、昨晩ひどく酔って自転車を駅に乗り捨ててきてしまった浩太郎くんは3分で戻って来いと言った。獰猛な食欲と高貴な自我を持つ彼のためにひた走りした。信号は可能な限りないものとし、砲丸みたいに突っ込んでくる鉄の塊は飛ぶなり旋回するなりして避けていった。

 ハードなミッションをこなす一流のソルジャーのような精神でやっとのこと、じれったくもたつくガラス戸を突破した時点で、いかにも安価な時計を見上げたところ、ちょうど出立から3分が経過した瞬間をこの目で捉えたのである。

 僕は今にも破裂してバラバラになりそうな呼吸器をなんとか沈めようと、滴り落ちる汗を拭いながら雑誌のコーナーの前で肩幅に足を開き、昨日発売された分厚い漫画誌を手にとった。

 近頃とんと、この手のものを読んでいなかったために、作家一覧はピンとこない名前ばかりが並んでいるが、とりあえず先頭の作品から目を通していく。

 どうにも息が乱れ、酸素の供給が追いつかないばかりか、脳が茹だるような暑さに内容がなかなか入ってこない。どうしたものかと思案しつつ、できるだけキリリとした表情を保ってページを繰った。なんと粗悪な紙質だ。

 ようやく鼻の穴が通常までに収縮してきたころ、突如おしりのポケットで鳴り出した携帯電話を画面を見ずにひらいて耳に当てた。

 漫画雑誌の方は片手で持ちつつ、少し好きな絵柄を見つけてまじまじと読んでみる。

『佐々木ぃ!なんでこんな遅ぇんだよ!3分っつったろうよぉ!』

 ファンタジーもののようだが全体的にどんよりとした雰囲気が好ましい。主役らしい男の子が女の子の太ももに目を奪われている。その内側の影に僕も引き込まれてしまった。

『今どこだよ!着いてんだろもう!すぐに帰って来い馬鹿!』

 ただ女の子の背中から生えている怪物のグロテスクさが、行き過ぎている気がして首をひねる。バランスがとれていない世界観は苦手だ。面白みがないと思う。

『聞いてんの?おい、……ねえ、ねえぇ!』

 なんだかやるせない気持ちになって雑誌は棚に戻した。こういうふうな見方をするようになったから漫画を買わなくなったのだと思うし、面白みがどうのこうのと考えてしまう自分にもげんなりするが、好みの変化だから仕方ない。ため息をついてジュースの陳列されている冷蔵庫に向かった。

『ねえ、ごめんってばぁ、俺んとこ帰ってきてよお、佐々木君、ねえ……』

 値札に新発売のポップが貼られているものの中から、ハーブのお茶と乳製品を数度見比べて、乳製品の方を手にとった。あまり味に期待できるものではないだろうが、何事も経験である。まずいならまずいで話のタネくらいにはなるだろうし、このようなものを作り出した人間の感覚と思考回路について思案することで、空いた時間をつぶすのにも使えるだろう。

 乳製品のペットボトルを親指と人差し指でつまみ、続いて寄った冷凍庫で、二人で分けて食べられるアイスを中指と薬指のあいだに挟んでレジに提出した。

 流石に会計は片手では無理そうなので、携帯電話を首と肩で押さえながら小銭をより分けた。

『さ、』

「今日一日喋ったら殺すよ」

 とたんに半径2m以内が静かになる。

 ちらりと前を見ると店員が引きつった顔をしている。お前に言ってねーよブス。

 財布をポケットにしまい、ビニール袋を受け取って歩き出す。

 沈黙したまま歓喜の雰囲気を寄越してくる、携帯電話を気持ちが悪いと思いながら、これもしまった。

 駐車場で軽い屈伸をする。

 自転車はどうせもう顔も知らない誰かに取られてしまっていることだろう。

 ともあれ帰り道は2分で帰ろう。僕の足なら大丈夫。