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白状

ex.よるの船

2024.02.25 06:26

 頭の神経を繋げる糸が端もわからないほどこんがらがってしまって解きほぐし不可能、おまけに心の目が疲れ眼になってよく見えない。無色曖昧な圧迫感。重力に完敗した全身をクッションに沈めて、ひたすら眼を閉じて時が経つのを待った。眠い訳じゃない。耳をぞろぞろ歩き回る雨の音が辛いのに、今じゃどうすることもできない。全くの空白の時間がじりじりと過ぎてしばらく、玄関のドアが開いて一瞬だけ雨音が大きくなった。ベタベタとフローリングに裸足が張り付く気配がする。よそ様の家に履物なしであがるとはなんたる不潔、と怒鳴り散らす気力もない。

「ひのわさ、チョコアイスがいいって言った?」

 低い低い声がしみてやっと瞼が持ち上がる。

「言ったよ」

「だよね、じゃあこれ」

 極小ビーズのでっかいクッションの上で寝返りながら見ると、そばに置かれたアイスの蓋は明らかに白がメインでちょっといい挨拶ができそうにない。

「おれにはチョコが見えねぇんだけど、お前には見えてんの?」

「おれのこのシャーベットよりはチョコに近くない? 交換してあげても良いけど」

「近いとか遠いとかねえんだよ、チョコじゃないものはみんなチョコから等距離だよ」

 チョップの一つも下したいが、伸ばした腕は肩より上にあがらなくて、結果アイスを引き寄せるしか無い。無言で氷菓を舌に乗せ続ける男同士の休日。雨。湿気が増してむさ苦しくてむせそうだ。しかし呼んだのは俺だしアイスはこいつの金で買ったのだから文句は言わない。こいつの金は俺の金だけど。

 雨。水分に奪われる酸素。むせそうになるくらいが今は丁度いい。一人で居たら深すぎて息ができなくなってしまう。紙のカップを見つめて空にして、ぼんやりとしているとゴミになった容器が回収されていく。気が利かないんだか利くんだか。

「雨のせい?」

 ゴミ箱のある方から投げかけられた声に、唇を全く使わないで返事をする。足がだるい。

「寝たらいいじゃん」

「お構い無く。適当にしてて下さい」

 戸惑いにぐらつく声がしたが、耳もはっきりしないしどうせ大したことを言ってないだろうから無視をした。使えない目でどこも見ずに黙っていると、クッションが圧迫されて変形した。後頭部に他人の髪の毛が触れてぞわぞわする。背中合わせの向こうから携帯のゲームの音がテロテロ聞こえ出し、部屋に充満していた死人の体内みたいな空気が軽薄にかき散らされていく。

 雨が嫌いだとかどうしようも無いことは言わないし、おれが極端に天候の変化に弱いのはおれ自身のせいでもない。だから自分も他人も何も責めないけれど、こんがらがって解けない糸が融解するまで一人きりで待つのは、誰だって嫌だ。絶対に言語にはしないけれども、この状態の効き目は抜群。フローリングに足跡がつこうが予期せぬバニラに喉が焼けようが、もう全部チャラ。チャラでいい。後でついでにゴミも出させるけどチャラ。だって上牧に、来て欲しかったんだもん。あ、言語化してしまった。