Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

白状

なにぬねの

2024.02.25 07:40

鳴かない鳥を飼っているのだと聞いてから、変わった人だとは思っていた。学校のない日に家業を手伝い、この家に野菜を届けるのが俺の役割だ。大きな家だが、迎えてくれるのはいつも奥さんだけで、女中や旦那の姿は見たことがない。ひっそりした靴箱の上で、鳥は首だけをしきりに動かしている。

忍耐強いらしく、かごの隙間から指を入れてもちっとも騒がない。喉が潰れているのよ、と言って、自分と同じように指を差し入れる奥さんは鳥だけを見つめて薄く笑っていた。ふわりと鼻をくすぐる甘さは多分、温度の高そうな胸元から来るものだろう。くしゃみ。

拭った鼻がヒリヒリと痛む。荒木の傘を抜け出してから三日、こすり続けたせいか小鼻まですっかり赤くなってしまった。ちり紙をやろうかという奥さんを断り、代金を受け取る。体が外へ外へと向かうのだ。挨拶も短く戸に手をかけたが、荒木くんは元気かしら、と繋がれる。

念じていたものを抜き出されたような感触に驚いて、変化のない薄笑いをじっと見る。お友達よね、と促され、頷くしかない。ますます甘い匂いが強くなっていく。何か言うより先に、よろしく伝えてちょうだいと圧された。狭い穴の中で、赤い舌が一瞬ひらめいた。

喉の渇きを覚えながら門を抜けた。足がはやって駆け出しそうになるのを抑えて、家の中で吸った空気を深くふかく吐く。巡らせた首が、通りの先を曲がってゆく知った姿を見つけたが、今はそれを追えなかった。数日頭を離れない友の顔に、ぬかるんだ女の匂いが混ざる。吐き出したいのは痰ばかりではない。