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京山幸太 どこへ行く(2024年2月号より)

2024.02.27 12:02

目次

1.京山幸太はどこへ行く

2.ボディビル大会出場へ

1.京山幸太はどこへ行く

―今日は「京山幸太はどこへ行く」と題して、浪曲のほかに、お笑いとボディビルにも取り組む幸太さんに、今後の展望を聞いていきたいと思います。

幸:R-1グランプリが二回戦で落ちたことが、自分の中ではけっこうショックでして。

―では、まずはお笑いから聞かせてください

幸:浪曲ももちろん力入れてますけど、年末年始はそれに向けてやってた部分もありますから。悔しかったです。ただ、(他の出場者と)ネタかぶるとかもあるし。それでも勝てるくらい強いネタを持っとかなアカンかったのは反省点ですが、今回は運も大きいと感じたんですね。それを考えた時に賞レース一本でいくのは賭け過ぎるなと思って。違う売れ方とかアピールの仕方も考えなアカンと考えました。うちの事務所で大きい仕事なら、おもしろ荘とか、あらびき団、細かすぎて伝わらないモノマネとかもありますし。賞レースに縛りすぎずに、自分のやりたいネタをやった方がええなと思ったんです。

賞レースって競技性があるじゃないですか。それに対して楽しめずにやってる自分もいるし。落ちた後に、ラジオ大阪でお世話になった作家さんと話をする機会があって、「結局、自分がやりたいことやってオモロいのが一番やで。極端な話、浪曲やりたいなら浪曲一本にしたっていいんやし。お笑いも好きでやるなら、好きなお笑いをやった方がええんちゃう。浪曲に使うためとか、賞レースのためとかも、一回離れてみたらええんちゃう」と言ってもらって。それからお笑いの面では好きなことをやろうと。

浪曲はもうちょっと書かなアカンというか、書きたくて。自分がやりたい浪曲はもちろん、自分がほんまに面白いと思う浪曲を作りたくて。それが今度の独演会でもあるんですけど。だから、浪曲の方でももっとアピールしたいと思ってるし、お笑いも賞レースにとらわれずに他のこともやっていこうと思ってます。もっと言えば、どんだけ手出すねんって言われますけど、英語も最近やってて。浪曲って外国人からしたら真新しいものだろうし、ネットで簡単に配信もできるし、新しい仕事にも繋がるんじゃないかと思って。賞レ―スだけと思っていた去年から今年はもうちょっと攻め方を広くしていこうかと思ってます。

―なるほど。賞レースを意識し過ぎてたところから、自身が純粋にやりたいことに立ち返って、活動しようということですかね。

幸:そうですね。どっちも大事なんですけどね。賞レースのネタは構成力もすごく見られるから、それが浪曲に生かされてる部分もあるし。ただ、今は賞レースも終わったし、秋か冬くらいまでの間は好きなことをやろうかと。そこで見えてくることもあるかと思いますし。今は賞レースでは絶対できないようなネタを書いてますね。

―去年は前のR-1が終わった時点からもう、次のR-1に向けたことを考えてた気がしますので、去年からの変化を感じます。

幸:それはネタの形がある程度見えてきたからですかね。浪曲の入れ方とか。今回は二回戦で落ちましたけど、そんなに方向性を変える必要はないと思ってて。それを磨くだけだと思っているので。

むしろ、自分の好きなことをやっていく中でもっといい要素を見つけたら、それを足していけばいいかなと。

―お笑いの型を探していた時期から、そこは定まった訳ですね。

幸:お笑いやのに、真面目になり過ぎてたというのもありますし。周りの人見てても、努力はもちろんされてますけど、賞レースを狙いに行ってる人以外の人が強かったり、それが味になったりしてて。賞レースを目指す笑いで優勝してる人って少ないなというのもあって。競技に向き合い過ぎてたなと思って。自分はどこまでいっても浪曲師やし、お笑いがメインの人ではないので、そんなにお笑い分析する必要もないんちゃうかなと思ってきました。好きなことやってる方が面白い人になれるやろし、賞レースに限らへん売れ方がある気がしてます。

―お笑いの活動で気になっていたのが、今年結果が出なかったらお笑いの活動は引退すると宣言をされていたことです。ご自身での追い込みと言いますか、リミットを定めて活動しようという意識でしょうか。

幸:ちんたら活動してても意味ないという思いと。まあ、結果出んかったら辞めるというのは、出たかどうかというのは自分がどう感じるかというところもあります。停滞したと感じたら辞めなアカンと思ってて。優勝せな辞めると言ってる訳ではないんで。もうちょい行けそうという悔いがあれば続けると思いますし。打ち止まりやと思ったら辞めなアカンやろし。それは浪曲も同じです。

―やれること全部やった結果と受け止められたら、辞めようということでしょうか。

幸:全部やったら、辞めようと思います。

―それくらいの気持ちで挑んでいるのですね。そもそも活動の目的がメジャーになることだったので、賞レースは手段でしかなくて、それ以外の手段も駆使して、メジャーになるためのことをやっていこうと。

幸:そうですね。どんな売れ方でもいいですからね。浪曲で賞もいただいて、それがきっかけでもいいですし。あらゆるアピールがあっていいと思うんです。それで浪曲が疎かにならへんレベルまではやっていきます。これ以上増えると、浪曲に影響が出るかもしれないですけど、できてるうちは全部やろうかなと思ってます。

それと、自分は何が好きなんやろというのも、すごい考えました。あんまり好きなことがないんです。

―そうなんですか。

幸:強いて言えば、自分が好きというか。

―自分が好きですか。

幸:自分を広めたいから頑張ってるというか。浪曲が好きなのもありますけど、それくらい自分のことも好きで。誰かのファンになることもほとんどないですし。名を残して死にたいと思ってるだけで。

―名を残したい欲があるのですね。

幸:めちゃくちゃありますね。ホンマに他人の50倍くらいあると思います。何の影響かわからない。三国志読んでたからかもしれないですけど。

―その視点から幸太さんの話を聞いたことはなかったです。

幸:もちろん浪曲を広めたいとか、師匠に恩返ししたい気持ちもありますけど、その欲望をもっと掘っていけば、そこに当たるんじゃないですかね。後世まで残りたいんでしょうね。本当は死にたくもないんですけど、それは無理そうなんで。となると、名前を残すしかないなと。それが根本にあるんです。

―それは浪曲師ではなく人間としての欲望ですね。

幸:自分で言うのも悲しいことですけど、根本のどっかにあるんです。逆に言うと好きなことって何なんやろって考えてるところです。

―あらゆることが、名を残すために繋がってるのかもしれないですね。

幸:そういうことです。

―浪曲もそれに繋がることかもしれないですね。

幸:結果的に浪曲は好きですし、浪曲に育ててもらってるので、そういう意味ですごい大事なんですけど、根本と言われたら、そこになるかんと思います。

―誰でも表に出てる欲望と、深層心理の欲望がありますからね。それが異性に好かれたいとか、他人より良い暮らしがしたいとか、それぞれあると思います。

幸:本当に掘っていくと、そこが自分の最初かもしれないですね。本当に死にたくないですもん。

―死にたくもないんですね。

幸:めちゃくちゃ死を恐れてます。

―でも、幸太さんあんまり病院行かないですよね。健診的なの。

幸:それは死を恐れ過ぎてるから。何かで引っかかった時に耐えれなくなる気がして。

―私も歯医者に行きたくないので、その気持ちはよく分かります。

幸:あと、飽き性なことも自分の人生にすごい影響してると思います。自分を笑わすために生きてるのかと思うんですよ。

―どんな感覚ですか。

幸:野球やめて、音楽やるとなった時も、ギターじゃなくて敢えてベースしてる自分がいるというか。なんでベースやねんって自分でツッコんで面白がってる。

―へー!

幸:メタルバンドやってたのに、ジャズバンドを急にやり出すのとかも、人生通して自分を飽きへんようにしてる気がしてるんです。だから、同じことやるのがたぶん無理な人やから、学校も行けなかったのかと思いますし。新作も書いてないと飽きるし。そういうところも自分の要素なのかとか、自分ってどんな人間なのかをむちゃくちゃ考えてます。そこに次のヒントがある気がするし。どんだけそれを曝け出せるかもありますし。

―自分自身を知ることはすごい大事な気がします。

幸:芸人は本当に曝け出せないと。最近、永野さんのトークがむちゃくちゃ面白いんです。心の底から叫んでて。芸人ってこういうことやと思うで。心のどこかに偽りがあったら、響かへんし。それは町田康さんも言ってたと思うし、本当に思ったことです。カッコつけたらアカンというか。今その辺を見つめ直してる気がします。

―本当の自分をどれだけ出せるかって大事ですよね。幸太さんは元々それができるタイプの人ですか。

幸:自分はそれがむちゃくちゃ苦手だと思います。

―私もどちらかと言うと、あまり自分を出せないタイプで。

幸:でも、それが自分かもしれないというのもありますしね。

―たしかに、そうですね。出すことに無理してたら、それが偽りになるというか。

幸:最近、YouTubeを撮影してて思うのが自分自身でよく笑ってるなと。それが偽りの笑顔かと言われると、そうでもないし。でも、ホンマに素かと言うと、カメラが回ってることへの意識もあるし。完全に素ではないけど、素から発してる気はしてて。それは浪曲でもニンに合う合わへんとも繋がる気がしてて。甚五郎のような自分と根が違う人は演じられないし、度々平も自分の酔ってるイメージと違うかったり。そこに自分の要素があるかどうかが、自分のネタにできるかや、自分の新作を作れるかに影響するのかと考えてます。

―正味の人間性が合う合わないというのはあるでしょうね。

幸:(演じてる時に)本当に感情が湧いてるかどうかは、考えてます。

自分は何を思って生きてるんでしょうね。基本楽しいですけどね。太宰治みたいに悩むこともないし。

―そんなに悩むことはないですか。

幸:考えることはあっても、あそこまで堕ちることはないですし。そういう人間ではないなと思います。中原中也みたいに暗くはないし。

―そうなんですね。自分をなかなか曝け出しきれない部分に、そのまま表には出せない感情あったりはしないですか。それは私も含めて、誰もがあっていいと思うのですが。

幸:それを出すことが許されてるのが芸やから。暴れらるというか。だから、今芸人をやってるんじゃないですかね。

―それを芸に昇華していくのは大事ですよね。だから、偽りから発してたら響かないでしょつし。エグい感情のままは出せないかもしれないけど、それを芸にすれば人に届けらるものになるでしょうし。

幸:自分はだから十人斬り好きなんかもしれないです。

―こわいです(笑)

幸:でも、そうなんかもしれないです。藤十郎の恋もめっちゃやりたいんですよ。ホンマに人間らしいというか。欲望が出てるというか。武士の話があんまり好きじゃないのは、その点かもしれないですね。建前はもうええわというか。芸の中に建前を入れたくないと思ってしまうのかもしれないです。

―幸太さんは曝け出すことへの欲望と葛藤を抱えている浪曲なのかもしれないですね。

幸:あるかもしれないですね。

―その葛藤がないと、ホンマに言ったらアカンことを言ってしまうかもしれないですし。

幸:はみ出し過ぎちゃうんかもしれないです。けっこう抑圧されて生きてきたんで。小さい頃は。

―そうなんですか。

幸:おじいちゃん怖かったですし。勉強に関してもそうです。でも、人と仲良くしたい気持ちもめちゃくちゃあるんです。話すのも好きですし。人とは友好的なんですけど、それとは別の部分があるんですかね。

―それは難しいですね。

幸:人間の心って入り組んでますもんね。どっちもあるのが人間かもしれないですもんね。

―矛盾抱えてても、それで普通かもしれないですし。それを踏まえて、浪曲にもしてほしいです。

幸:そうなるとちょっと理屈っぽいと思ってしまったり。(パンク侍の)茶山の役やってる時とかも、だから好きなのかとも思います。半分演じてるけど、半分ホンマな気がしますもん。

―半分ホンマなんすか(笑)

幸:自分も演じてて分からないんです。どこまでホンマなんか。甚五郎はやっぱり演じてるんです。自分の中にないから。だから、表現してるものと、演じてるものとで違うんです。

そんなこと考えながら色んなことしてます。


2.ボディビル大会

―話を大きく変えて、五月にボディビルの大会に出場されるのですね。

幸:まだ決定ではなく、その予定です。

―幸太さんが出場するのはフィジークではなく、クラシックの方ですね。ざっくり、クラシックとはどんな部門ですか。

幸:フィジークがサーフパンツを履いて、上半身を中心に見られるのに対して、クラシックはブーメランパンツで全身を見られるやつです。厳密に言うと、違うらしいのですけど。

―私たちが連想するのがいわゆるクラシックな気がしますね。これは…なんで出るんでしたっけ?

幸:そんな大したことないですよ(笑)。R-1で勝ち抜いてたら三月に決勝があったんで、そのネタのために鍛えて、その流れで出ようと思ってた。それくらいのことです。深い意味はないです。

―R-1が落ちてしまって、大会だけが残っても辞退はせずに鍛え続けてるのは。

幸:五月の大会は決めてたし、次のR-1に向けて鍛えるきっかけにもなるからですね。

―すると、鍛えることへの楽しみとか満足感はないのですか。

幸:それがないというと、ゼロではないです。でも、めちゃくちゃマッチョになりたい訳でもないんです。仕事やからやってるのが4割、6割は習慣になってるからですかね。健康のためにもなるし、芸人としての特徴にもなるし。

―大会でここまでいきたいみたいな目標はないですか。

幸:今回はないです。

―今回はというと、今後はそれがあるかも。

幸:思うんじゃないですか。一回出てみたら。

―ここからハマっていく可能性もあると。

幸:ハマっていくというか、これが自分の武器になると思ったら。自分が好きやから、京山幸太にとって、メリットになると思ったらやるでしょうね。

―名前を残すためなら。

幸:そうなんです。結局、根幹にそれがあるんです。行為そのものが好きかどうかとは別に、自分に役に立つかどうかってあるんと思うんです。

―これがボディビル以外の活動にもいかせることが前提になるわけで。

幸:そうです。仕事に生きると思えないと続かないですね。

―自分が好きという視点で、鏡見て、自分の筋肉に惚れ惚れみたいなことはないですか。

幸:逆にオッみたいな感じはあります。

―逆にと言うと。

幸:五年、十年前までは女装してたのに、今はマッチョ目指してのが面白いなとか。

―そこですか。身体へのカッコええなはないんですね。

幸:ないですね。面白いなですね。

―そんな人なかなかいないでしょうね。

幸:なんなら、細い方がよかったんですけど、面白い方がいいんで。常に飽きへんようにやってます。