UI/UXという意味不明な言葉について考える
「UI/UXデザイン」ってなに?
最近Web業界の求人票で「UI/UXデザイン」「UI/UXデザイナー募集」という表現をよく見かけます。むしろ「UIデザイナー募集」という求人を見なくなりました。この求人票を見て困ったUIデザイナーの方もいるのではないでしょうか?
まず前提として、
UI=User Interface の略。人間と機械とが情報をやりとりするために設けられた部位、具体的にはボタン・タッチパネル・画面上の文字表示・アイコン・等のこと
UX=User Experience の略。製品・システム・またはサービスを利用した際および/またはその利用を予想した際に生じる人々の知覚と反応(心理変化および行動変化)のこと
であり、UIとUXとは全く次元の異なるものです。あたかも同列の存在のように並べて書かれていますが、本来は間違いなのです。本記事ではこのUI/UXという意味不明な言葉について考えていきます。
UI/UXデザイナー=UI改善という手段でUXを改善する人
「UI/UXデザイナー」とはようするに「UI改善という手段でUXを改善する人」という意味です。もちろん実際にはUI以外の要素もUXに影響を与えているのですが、UI改善は安上がりでありながらUX改善効果が高いことから、実務上の都合として「UI/UX」という考え方が生まれました。 またサーバーなどのレンタル機材やUIの土台であり汎用品であるフレームワークには手の出しようがない、という事情もあります。
Webサービスのユーザーは利用中の些細な不快感を理由に解約してしまうため、ユーザーに不快感を与えないことが事業の最優先課題となります。 そのためWeb業界では特にUXデザインが重視されています。
UI/UXデザイナーのスキルレベル
一口にUI/UXデザイナーといっても職場によって要求されるレベルが違います。ハイスペック人材を求めている場合もあれば、基礎知識を身につけた人材を求めている場合もあります。採用面接の際に確認しておくべきポイントです。
本記事では、UI/UXデザイナーのスキルレベルを分かりやすくレベル1〜レベル5の5段階で表現してみました。
▼UI/UXデザイナーのスキルレベル
- UIデザインパターンやアクセシビリティ標準に詳しい
- デザイン指示を出せる
- ユーザー調査やユーザーテストを実施できる
- ペルソナやシナリオを書ける
- 理想シナリオを書ける
LV.1 UIデザインパターンやアクセシビリティ標準に詳しい
Webデザインやスマートフォンアプリの世界には、大多数のユーザーにとって好ましいUXを提供できる定番のデザインが存在します。これを「UIデザインパターン」と言います。同様に、大多数の高齢者や障害者にとって好ましいUXを提供できる定番のデザインも存在し、これを「アクセシビリティ標準」と言います。従って、UIデザイナーがUIデザインパターンやアクセシビリティ標準を学べば、ひとまずは「UI/UXデザイナー募集」の求人に応募できます。
LV.2 デザイン指示を出せる
一般にUI/UXデザイナーは「ワイヤーフレームを描く人」というイメージがありますが、これはつまりUXを知らないUIデザイナーに指示を出すということです。好ましいUXを提供できる定番のデザインとはどのようなものかをワイヤーフレームの形で(時にはデザインガイドラインの形で)指示できる人材が求められます。
LV.3 ユーザー調査やユーザーテストを実施できる
UIデザインパターンは一般論的普遍的な問題しか解決できず、特定のユーザーの特定の状況でのみ発生する不具合(不快感)は解決できません。 そのため、UIデザインパターンの普及したWeb業界においてもやはり「ユーザー調査」や「ユーザーテスト」を実施できる人材が求められます。
Web業界固有の手法「Web解析」はユーザー調査の一種「観察調査」の派生的手法ですが、Web解析は一般的な観察調査と違い観察後の事後インタビューをする機会がありません。別途インタビュー調査を行って閲覧行動の動機や背景を調べる必要があります。
また、デザインされたUIの良否の判断のために行うユーザーテストをUIデザイナー自身が担当する(自分の描いたUIを自分で品質評価する)ことが多々あります。品質評価は本来は品質部門の担当のはずですが、「品質は量産可否判定をする部門」という企業文化のある企業では、トライアンドエラーのための評価はUIデザイナー自身で行わざるを得ません。
また、ユーザーテストをUIデザイナー自身が担当する場合は、ユーザーテストに使う「プロトタイプ(品質評価用試作品)」の作成までもUIデザイナーが担当することが多々あります。プロトタイプは本来は設計部門の担当のはずですが、UIデザイナーのトライアンドエラーに設計部門を巻き込むのは困難であり、プロトタイプ作成もまたUIデザイナー自身で行わざるを得ません。この場合は、UIの品質評価が目的ですので、見た目だけで中身のない紙芝居のようなプロトタイプを作成します。
LV.4 ペルソナやシナリオを書ける
ユーザー調査を実施した流れで、ユーザー調査結果を分かりやすくまとめるための中間成果物である「ペルソナ」や「現状シナリオ」の作成までもUI/UXデザイナーが担当する場合があります。本来は企画部門やマーケティング部門の仕事でありUIデザインの担当範囲を完全に逸脱しています。つまりLV.4人材はもはやUI/UXデザイナーではなく「UXデザイナー」ということです。
LV.5 理想シナリオを書ける
理想シナリオとは、提供したいUXを定義する最重要の中間成果物です。理想シナリオは企画書の一部であり、理想シナリオを書くとは企画を立案することそのものです。ここまでくるともはやデザインの概念から逸脱しています。LV.5人材はデザイナーであり評価担当者でありマーケッターであり企画担当者であり、そして個々の担当者を統括して全員に指示を出せる「監督(ディレクター)」ということになります。
まとめ
「UI/UXデザイナー」は実務上の都合から生まれた概念であるため、企業によって解釈に大きな差があります。採用面接の際には「UI/UXデザイナー」という言葉の解釈についてのすり合わせをお忘れなきようお願いします。