興味
俺は目の前のこのボタンを押すか迷っている、
なんの変哲も無いボタンだが、今いるこの場所がちょっと異質だ。
雑居ビルの三階、真っ白な壁に、
テーブルが二つ、一つは食べ物や飲み物、そしてイス。
もう一つのテーブルの上には台座のような物の真ん中に黄色いボタン。
それ以外のギミックはなさそうだ、
何故かというと注意書き、触るな危険などのものも何も記されてはいない。
ここ最近、映画でボタンを押したら犯罪に巻き込まれたり、
独裁スイッチみたいに人が消えるものや、
何かとボタンにはいいことが無そうなイメージだ。
「まさか…核兵器のボタン?大統領のやつとか?
いやいやいやいや!」
俺は笑ってしまった。
このテーブルの横にあるお菓子や飲み物を飲み落ち着こうとした、
考察とは尽きない、考えれば考えるほどその先の真実は、ボタンを押すしかほかない。
押すんかい押さへんのかい
押すんかい押さへんのかい…
あ、失礼。
過去にこんな怖い実験がある、
"ミルグラム実験"だ。
教師役と生徒役に人を分けるというフリをして、教師役の人に行う実験で、
生徒側が問題を間違えると電力を流すというものだ。
間違えれば罰として電流を流し、更に間違えれば電圧を上げて電流を流す。
流す電圧が上がるほど生徒役の人は叫ぶが、それはフリだ。
だが、罪悪感からか電流を流す教師役の人は辞めたいと申し出るが、
実験の主催者側がどんなことが起きても責任を取ると言うと、
"教師役の人は高圧電流を流し続けた"
生徒役の人はある一定の電圧になると叫ぶこともやめるよう言われていたが、
危険と分かる領域に達しても教師役の人は、声が聞こえなくなるまで電流を流し続けた。
わかるか?人間は怖い、
自分に何も責任がないとなると、その従いに沿って行動を起こす。
今の俺はどうだ?
何もない、押せとも押すなとも。
押したとしてただのドッキリで何もないか、人が痛い思いをするか、まさかの世界が終わるか。
責任がないなら押す、
責任が伴うなら押さない。
「いや、考えすぎか、このビルから出ようそれがいい」
そう此処に来た理由はないと言ってもいい、
出ればいい、そうだろ?
他人が置いた訳の分からないボタン、
もし俺がハガキでも送って当選して、家にこのボタンがあれば躊躇なく押す、でも此処は違う。
誰かの私有地で所有物だろう、
犯罪になる前に退散しよう。
ドアに手をかけたら、
ビリっと痛みがあった、
「えっ?」
もう一度触ると、痛みはなかった、気のせいか?
ガチャ、ギィ、ィィーイ、バタン。
彼は、黄色ボタンを押した。
壁に埋め込まれた監視カメラが彼の一部始終をずっと見ていた。