第12話 神聖なる森4
それから勝負は終始俺に有利に働いた。
「はい」
「すごい!」
水の十五、火の十四から十二、そして金の十一。ミチョウ・アンテル・バングル。
「はい」
「すごいよ!」
火の一、土の二から四、金の五。ミチョウ・ボアーズ・バングル。
「はい」
「すごすぎる!」
火の一に十五、そして木、土、金、水の十五。テレアド・スクアット。
「あああ」
「そんな」
「バカな、馬鹿なことが……」
俺の知らない強い役は彼女が教えてくれるから、後は俺の運だけで引くだけ。これは正直簡単な作業と化した。結果、
「できた」
「私初めて見たこの役! 本当にすごいよ!」
木の一、火の四、土の七、金の十、水の十三。オウルマスタリス。
「とりあえずそろそろ疲れたからまたやるなら明日にしてもらっていいかな。そろそろお腹もすいたし」
「軍君お腹すいた? じゃあ私が作ってあげるから私の部屋来てよ!」
そう言ってミレスが俺の手を引いて部屋を出て行こうとするが、部屋の中で三人が心から落ち込んだ様子で座っているのを見た俺は止める。
「ちょっと待って」
「なに?」
「カードの片づけだけしよう」
「え? でも、ルール説明だってろくにやらなかったゲームなのに」
「でもやったことは間違いないから」
「ふざけるなよ」
「え、何」
「人間ごときの施しは受けないんだよ!」
そこで俺は激昂した相手に魔法を撃たれた。
「で、私の所に見せに来たと」
「オリーバお姉ちゃん、どう?」
「どうも何も、何処にも異常が無いから本当に魔法で攻撃を受けたのか今でも疑っているよ。第一、人間の客人に魔法を撃つエルフ原理主義者がまだいた事に驚きだ」
なんか魔法であれこれされたが、どうやら何も異常はないらしい。
「よし、じゃあこの森にいる間くらいは定期的に私の所に来てくれ。ちょっとだけ見れば大丈夫だろう」
「はい」
「良かった。心配したんだよ」
「あ、ミレスは少し席を外してくれ」
「何で⁉」
俺の診察が終わると同時に、ミレスは退出するよう言われて驚いた声を上げる。
「納得できない! この後デートする予定だったのに!」
「安心しろ。お前が考えているようなことはしない」
「本当だね! この人は私に旦那様だからね!」
そう言って、ミレスは部屋を出る。
「軍と言ったか」
「はい」
「まず最初に言わせてもらうが、我々エルフの問題だというのに今回厄介なことに巻き込んで申し訳ない」
「いえ、大丈夫です。家に帰してもらえればそれで」
「正直、それが難しいから私は言っているのだがね」
オリーバと言うお医者さんはそう言った。
「まず知らないだろうから聞くが、エルフの寿命は何歳だと思う」
突然そうやってクイズのようなものを振られる。
「え? 百歳とか」
なので俺は自分の国の大体の寿命を伝えた。
「惜しいな。普通は百六十だ。つまり大体人間の寿命の四倍程度と言う事だ」
「えっと、この世界では人間の寿命は大体四十歳って事ですか」
「そうだが」
やばい、もう平均寿命のあれこれが違う。
「それでだ、私の母だがソリエール族長が何人の子供を産んでいるか分かるか」
「……いや、分からないです」
「八人だ」
「八⁉ まさか、二十歳とかに」
「それでは子供の時に子供を産んだことになるよ。そこまでひどいことは無いが、六十歳で族長に就任してから二百歳になるまでずっと子供を産み続けている。約二十年に一度の周期で子供を産み続けているから、計算上はエルフなら無理すれば出来なくはない計算になるな」
「……」
「おかげで、私の末の弟が今二十歳になったが、もう子供は出来ないだろうとやっと解放されたのだがおかげで今度は誰か子供の中から次の族長を出さないといけないという重圧に負けたように見えてな。ついにあの人の心は壊れたように思う」
「それは、どうして」
「いくらエルフと言えど、そんな都合よく子供が好きな相手とだけで出来ると思っているのか? 抱きたくもない相手を抱かされたのなんか何度もあるらしい。全ては族長に取り入ろうとした奴らが悪いんだが、とにかくおかげで母は傍目に見れば精神が崩壊しているように思う様になってしまった。少なくとも、子供に自分みたいな境遇を背負わせたくないという母としての側面と、子供に強い子供を残してもらわないと困るという側面に押しつぶされているからな」
「……」
「アルテアは気が付いているのか知らないが、ミレスは明らかに次に族長になる可能性が高いのは自分だと気が付いている。魔力不足で素質なしと判断された私達上の四人と、末の七人目、八人目は子供だからアルテアかミレスだけなのに、アルテアが人間族の文化に触れて帰ってきたからな」
「あの」
「なんだ」
「人間族の文化に触れる事って、そんなに駄目な事なんですか。森の入り口で、アルテアが森に入らないように言われたのを見ましたが」
「ああ、そうだよ。今はね」