第13話 神聖なる森5
「……」
「どうしたの? 食べないの?」
俺のためにあてがわれた部屋で、俺は食事をとっていた。木の実を潰してパンの様に水と合わせてこねて団子状にした食べ物に、果物を並べた物。そして虫。
文化的に貴重なたんぱく質なのかもしれないが、虫だけは食べないのをやはり不思議がられていた。
「これ美味しいよ?」
そう言って何も疑っていなさそうな顔でミレスは蜂を樹液に漬けたような料理をつまんで差し出してくる。
「それとも、こっちの方が好きだった?」
そう言って今度は太いミミズをぶつ切りにしたものを出してくる。大変申し訳ないが食欲が失せそうになる。
「いや、ごめん。やっぱり虫は食べられそうにない」
「そう、美味しいのに」
そう言って、ミミズも蜂もおいしそうにミレスは口に入れていく。
「……」
「ねえ、食事が終わったらまた出かけない? 良い場所知っているからさあ」
「なあ、ミレスちゃん」
「ミレスで良いよ。なに?」
「ミレスは、どうして俺に話しかけてくるんだ」
「どうしてって? それは……」
「俺が婚約者だと良いことでもあるのか?」
「……」
「本当にいいのか? 良く知りもしない奴と結婚するなんて。それに、寿命だって違うってオリーバさんに聞いた。間違いなく俺の方が先に死ぬ。それでも」
「五月蠅い!」
彼女は叫んだ。
「何が分かるの⁉ お姉ちゃん達は自分達が族長になれないから私たちに任せきりか、全く族長になるための準備をするような人じゃない姉妹兄弟に生まれて、ママがどんどん壊れていく様子を三十歳の時からずっと見ていたのに周りの大人は何も言わなくて、やれ将来は自分の息子と結婚してくれだの、将来の婿にどうだの下世話な話ばっかりしてきて私だってアルテアお姉ちゃんみたいに森の中駆け回って遊びたかったよ! でも私はお姉ちゃんが何時までも勉強しないから代わりにずっと勉強させられたんだよ! 嫌だよ族長になるのなんか! 嫌だよ好きでもない人と子供を作るのなんか! でも私しかもうママがいつ死ぬかもわからないから、次の族長として決めないといけないんだよ!」
彼女はそう叫ぶと、俺を押し倒してきた。
「アピールしちゃダメなの⁉ やっと私が自分でこの人なら付き合っても良いかなって思えた人なんだよ。お願いだよ。私のために旦那様になってよ」
そう言うと、倒れた俺の胸の上に顔を寄せて涙をにじませ始めた。初めてここにきて知った人だけれど、この人はきっともう既に重圧に押しつぶされそうなんだなって思い始めた。
「敵襲だ!」
その時だ、そんな声が聞こえたのは。そして、本能として。
「ちょっと、軍!」
転移魔法を使い地上に飛び出たのは。
「あれは」
木々の間を浮遊しながら見たのは衝撃的な光景だった。立ち上がる黒煙。夜を照らす火柱。響く悲鳴。
「ヒャッハー! 凶からここは、マナジャの物だ!」
そして、何か巨大な動物の上で叫ぶ見知らぬ男とその付き人らしき人や兵士たち。明らかに襲撃だとはわかる事態だった。
「女は捕まえて持ち帰るぞ! 男はなぶり殺しで構わん!」
「いやー! やめて—!」
「ママ—! ママ—!」
ひどい。
「おいおい! 金目のものが無いじゃねえか」
「でも女は沢山だな」
「それに魔法ばっかりで対策すればやりやすいな」
ひどい。
「マナジャの力があれば! 神聖な森など恐れるに足らず! ハハハ!」
許せない。もう、どうなってもいい。
そう思った俺は、右の手のひらに乗る程度の大きさの立方体を魔法で作ると、それと転移魔法人を駆使して。
「は」
「え?」
放火や強奪をしている人たちを箱の中に閉じ込めて行った。要は転移魔法で強制的に移動させて、それと同時に体の大きさを小さくして、そして箱の中に入れていく。
そして、空いた左手で水を出現させると。
「おい! あいつ何かしているぞ!」
「火が消火されている!」
「というか、何であいつ魔法が使えているんだ!」
消火作業をしていた。正直、水ってこんなに火を消すのに大量に必要なんだと思ったが、どうにか消火作業を続ける。
「貴様! 何をしている」
「?」
そんな時だ、足元で何か声がする。
「誰?」
「誰だと⁉ 我はマナジャ国第一皇子、マナジャ・ハウステルンだ! この私の戦いの邪魔をする貴様は何者だ⁉」
「倭国の客人、笠松軍。あまりの狼藉に黙っていることが出来なくってね」
「狼藉だと? 私の偉大なる侵攻を狼藉だと⁉ 名前も知らない国の奴が何を言うか! 者ども、やつ……」
「……」
うるさいので転移魔法で近くの集まってきた兵士たちと纏めて魔法の小箱に入れた。
「後は……」
そう言うと、集中して新しい魔法を使う。千里眼で周囲の敵兵や未だに略奪をしている奴らを見つけた。
「⁉」
その時、少し驚くべきものを見つけたが俺はもう一度向き直ると、他の敵兵たちを捕まえるべく戻る。
「やってやるよ」