第18話 実務者協議2
笠松奥儀に視線が集まる。こういう状況の時こそ自分の本領を発揮するべきタイミングだ。質問に答えないわけにもいかず、答えることにした。
「私たちの世界では、科学という物を徹底的に調べ、そして発展してきました」
「科学?」
「魔法が存在しない状況でのあらゆる物質の関係について語る、空想上の学問ですね」
巨人の民がそう語る。どうも科学とはこの世界では空想上の産物だったらしい。
「どういう事でしょうか」
「わが国には、魔法が存在しません」
その言葉に、一瞬オルギウス王国を除く全員が静まり、そして驚きを見せた。
「魔法が無いだと⁉」
「そんなことがあるのか⁉」
「ですが事実です」
全員が変なものを見る眼で見てくる。まるで、信じられないものを見る眼だ。
「ですが」
そこで、アバンドさんが話し出す。
「面白いのは、その学問を究めた倭国では私達では造り出せなかった空飛ぶ乗り物を造り出すことが出来た。明らかに私達より進んだ文明を築くことが可能であるという事でしょうか」
「バカな! 魔法は神の生み出した秘儀だぞ! それを使わないで神の御業を超えるだと⁉」
「それが神の限界だと勝手にお前達が思っているうちは倭国の超えることは出来ないだろ」
その時だ、呼んだはずのない何者かが話し出したのは。その時だ、目立つ紅い衣に身を包んでいるのに気が付かなかったことに気が付いたのは。その少女は優雅に空中から降り立つと俺をじっと見据える。
「誰でしょうか」
「あ? 私か。私はレヴィーラ。この世界では赤竜と呼ばれる五大魔法構成要素の一つを司る種族の族長だ」
「これはこれは、失礼いたしました」
「私も良いかな?」
そこでもう一人入って来る。今度は蒼色の衣に身を包んだ少女が入って来る。
「あなたのお名前は」
「フィレス。氷竜と呼ばれる種族の族長。あなたにお願いがあって来たの」
「何でしょうか」
「私たちと同盟を結んで欲しい。そして、あなた達の戦力を派遣して憎いゾウルバン国に鉄槌を下してほしい」
「おい! それなら私のガリオン国の方が先だ! 猿渡が協力すると言っていたぞ!」
「こっちも落合が協力してくれるって言っていた」
「どういう事でしょうか? 直ぐにそのお二人を連れてきてください」
俺は少し怒りを抑えながら、二人を呼ぶように言った。
「ああ、それは無理だ。私たちがこの場所で話をしている奴らがいるが、あの猿渡は呼ばれていないから入れないと言っていたから置いてきた」
「落合も同じ」
「……」
俺はあまりの話に頭を抱えた。まさか呼んだ覚えのない人(?)が会議に乱入するだけでなく、相手の話を一方的に突き付けてくるなど想定していない。
「それに、サルバーン国の戦争でのオルギウス王国が勝った影の勝因は倭国の自衛隊たちだろう?」
「全力じゃないのに数十キロメートルも先から狙い撃ちとか私達でも難しい」
「待っていただきたい。一体何の話をしているのだ」
置いてきぼりを食らう他の参加者の方が話に入って来る。
「何って、倭国の軍事力の話だ」
「この国はこの周辺諸国で一番の軍事力を持っている。それこそ環境がそろえば私達でも負けるぐらい。だから私達も今のうちに協力関係を結ぼうとしている」
「は、ばかばかしい。魔法が使えない国が一番軍事力を持っているだと」
「では証人がいればどうだ」
「どういう事でしょうか」
「オルギウスの王様なら戦争で倭国と自国、どちらがより戦力として貢献しているのかを証明できるはず」
その言葉に、視線が集まりオルギウス王が語り始める。
「私の耳には、倭国の兵力に、倭国出身の戦略級魔法使い等が戦争で功績を上げたと聞いている。もちろん我が国も兵力を投入したが、ほとんどの戦で兵力は投入されなかったと聞いている」
その言葉に動揺が走る。そして、付け加えるようにザリスが話す。
「厳密には、倭国出身の戦略級魔法使いが戦場で敵戦力を完封することで我が国の戦力を投入することなく勝利に導き、倭国の防衛戦力である自衛隊及びオルギウス王国軍が投入されたのはサルバーン国での戦いのみであり、それも城壁の破壊と城内での戦闘と言う陽動のみ。敵国王の身柄の最終的な身柄の対応は我が国が担いましたが、捕縛は倭国の戦略級魔法使いが担いました」
「ばかな! それでは、みすみす倭国は最大の功労を他国に譲ったと言うのか」
「何故、そのようなことを」
「……倭国は現在国家単位で異常事態に見舞われています。過去の外交努力が何もかも無に帰すかもしれない状況です。なので、出来るだけ他国と事を構えたくありません。当然、本来であれば防衛戦力の派遣など以ての外です。ですが、今回に限り大量殺戮の調査と言う名目があったために派遣いたしました。大量殺戮の調査が出来ましたので、首謀者の引き渡しをオルギウス王国にしたのが理由です」
「因みにですが、マナジャ国に数日前、我が森が侵略を受けましたが、その際にも軍殿と言いますが、件の魔法使いに助けていただきました。なので、戦略級魔法使いがいるのは本当です」
ソリエールさんがそこで口を挟んで捕捉する。
「腰抜けなのか強いのか分からねえなあ。戦略級魔法使いが一人でもいるなら、覇を唱えて良いじゃねえか」
「先ほど、自衛隊の事を防衛戦力と言いましたが、これもあくまで軍事侵略のための派遣はしないという認識でよいのでしょうか」
「他国から侵略、並びに外交上の予断を許さない危機的状況になれば勿論敵国に派遣も致しますが、そうでなければその限りではありません」
「まったく、平和主義な国よのう」
「だからこそ。この国が将来覇権を握り、魔王さえも倒すかもしれないと思ったら不思議」
二頭の竜はそう口に漏らした。