第19話 ホテルでの休息
「いやあ、なんていうか」
「来るには協力してくれないとだめだって言うから口約束だけした」
都内某ホテルでは、同級生が締め上げられている所を見ることになった。結果として、俺達は何時になったら入っていいのか分からなくなった。おかげで部屋の外で待たされている。ミシェーネさんに申し訳なくなってきた。
「私はこの会議の関係者と思しき人がいたらお連れするようにと言ったはずで、勝手に自衛隊の派遣の約束をしてよいと言った覚えはないのですが?」
「ははは」
「ごめんなさい」
そう言うと、二人が兄貴に謝罪をする。船上ではだれよりも強い二人の姿とは思えなかった。そして、兄貴が汗を拭うとこっちに向き直った。
「遅いじゃないか、軍」
「帰っていいかな」
すんごい笑顔の兄貴が話しかけてきたので、俺はそう言った。
「確か軍は斎賀輝明の迎えに行っていたんだろう。どうだった」
「ああ、いたよ。アルテアみたいな転移した人。ほら向こう」
俺は斎賀とミシェーネ・ロリアンさん達が談笑している方向を見る。
「お兄様! どうですか、倭国の食事」
「ああ、正直すべてが新しい味で上手いな」
「ミシェーネ様。爺は心配したんですぞ! 大丈夫でしたか」
「はい、こちらの方に守って頂いたので無事でした」
「……」
「ロリアン国皇子として感謝を述べる。本当に、ありがとう」
「いえ、おおお、俺は何も、して、無いから」
相変わらずこういう状況では話せないようである。
「少しいいか、軍」
「なに」
「これから、倭国は大きく動くことになると思う」
「だろうね。一斉に要人を集めてもてなすとか普通じゃないし」
「そうじゃない」
「え?」
「この世界では戦争は何も珍しい事じゃない。それは、とある伝手から既に証明されてしまった。しかも、魔法と言う何処までが限界か分からない未知の技術もある。俺は、最悪の事態として明日には倭国が無くなることも想定している」
「そこまで考えなくても……」
と、思った所でふと気が付いた。その目は明らかに弟に向ける眼じゃなかった。
俺を危険な武器、核兵器か何かと見ているような顔だった。
「お前、結構自衛隊を派遣した際に派手にやったらしいじゃないか」
「それは」
きっと俺が自衛隊の派遣の際にあれこれやったのは知っているだろうが、それで場合によっては俺が危険な存在になることを見ているのか?
「安心しろ」
「え?」
そこで、兄貴の顔がいつも通りに戻り、笑顔を見せる。
「お前の力を借りること自体、あれが最初で最後にできる限りするように努める。それが、俺のやるべき仕事だしな」
「兄貴」
「今夜限りだ、存分に楽しみなさい。明日からは護衛とか色々な仕事で大変だぞ」
兄貴はそう言って、どこかに行くのだった。