第25話 戦争前の不安1
俺は何が起きているのか分からなかった。
「虐……殺?」
「事件が起きたのはロリアン王国西部の町ミハンで、ここではアイドルグループ、セブン・ドリームの親善コンサートが開催されており、倭国の観光客やロリアン王国の要人らが出席しておりました。死者は確認が取れているだけで三十人は取れており、重軽傷者も数百人に上るとのことです。事件を起こしたのはガリオン国と判明しており、当国は『名も知らぬ倭国という未開の国よ。降伏せよ、従属せよ、我が属国に下るのだ』と声明文を出しており、外務省では……」
「なあ、神楽ちゃんは」
そこで、御園が震えた声で語り始めた。
「神楽ちゃんは、大丈夫なのか」
ブー、ブー!
「!」
バイブ音が鳴ったため、俺は携帯電話に出る。すると、聞き覚えのある声が聞こえる。
「もしもし、軍君」
「神楽ちゃん! 無事だったのか!」
俺はスピーカーにすると、声を全員が聞こえるようにした。すると、直ぐに御園が声をかける。
「神楽、よかった」
「良かった、りょうくん泣いてないか心配で」
「当たり前だろ! 彼女が事件に巻き込まれたかもしれないなんてニュースで見たら!」
あ、ちょっと、空気が一気に冷え込む。
「ところで、何があったんだ」
「……本当は口外しちゃいけないんだけれど」
そこで語られたのは、痛ましい事件だった。
アイドルグループ『セブン・ドリーム』に所属するセンターアイドル一宮神楽は、いつも通りにステージに立ちパフォーマンスを行っていた。しかし突如、武装集団が会場に侵入。人々に襲い始めたのだという。自分達も身の危険があるという事でステージは中止、緊急で倭国に帰国することにしたという。現在は帰国する船上で連絡を取っているとのこと。
「飛行機だったらもっと早く連絡取れたかもしれないのに、心配させちゃうよね」
「大丈夫だけれど、そっちは」
「……私は平気だけれど、他のメンバーが重軽傷を負った」
「何で⁉」
「車に乗るまでに毒矢を受けたり、剣で切り付けられたり、大変だった。今はみんな治療を受けているけれど、もしかしたら解散も視野に入れないといけないって」
「そんな……」
御園がそんな言葉をこぼした。
「ねえ、軍君」
正直、こんな時に俺に聞かれる言葉は分かっていた。
「お兄さんって外務省にいるんでしょ。お兄さんに掛け合って自衛隊を派遣させるように伝えてもらえないかな。あの人達は間違いなく倭国に戦争を仕掛けるつもりだよ」
「……」
「……」
「だから言っただろう、自衛隊を派遣して欲しいと」
多くの外務省及び防衛省役員たちの前、赤竜のレヴィーラは困惑した様子で仁王立ちしていた。