第31話 戦争後の不安
「ゾウルバン国に関しては属領にするには証拠が少なすぎるため申し訳ありませんが今回は見送り。その代り、ガリオン国との作戦の内容を精査する方向で証拠をつかみたいと考えております」
「うむ、我はなにも文句はないぞ」
「もう少し完膚なきまでにやってほしいけれど、しょうがない」
赤竜のレヴィーラ、および氷竜のフィレスの言葉に笠松奥儀は一先ず納得してもらえたことに安堵した。
「現在ガリオン国に戦争の賠償金などに関する協議を実施しているところで、倭国の勝利と言う形で戦争を終えられました」
「じゃから言ったじゃろ。お主達の国の戦力はこの世界で抜きんでておると」
「言葉は違えど、伝わったはず」
「これからも頼むぞ」
「期待している」
そう言って、二人は出て行ってしまう。
「はぁ」
あの言葉に、俺はいよいよ頭を悩ませるのだった。
「倭国が戦力として強いことを示してしまった」
正確には、強いらしいことをだ。元の世界では確かにトップではなくとも、それなりには強い戦力だったであろう自衛隊だったが、まさか魔法のあるこの世界で通用するとは思わなかった。案外魔法とは出来ることが限られているのかもしれない。
「それならそれで」
数千キロメートルの距離を、制限はあれど転移魔法で移動できる弟の力がとんでもない物だと判明してしまう事になる。これは、同じく魔法を発現した天下原学園の戦の同級生たちにも言える。
これからは間違いなく、彼らはこの世界で重要な立ち位置になる。
「普通の生活を送らせることは出来るのかな」
兄は一人悩むのだった。
「それじゃあ、乾杯だな。お帰り、軍」
「ああ、ただいま」
倭国で生活するために新たに借りたアパート。そこに、何故かアルテアが一緒に引っ越してきて、そして生活を始めた。最初は文化の違いに戸惑う事もあったが、どうにか仲良く生活できていた。
「大丈夫か、軍」
「何が」
「最近戦争が無いからか生き生きしている」
「ああ、そうかもね」
「その分、戦争があった時は元気そうじゃなかった」
「……」
アルテアに見つめられて、俺は正直に心情を語った。
「怖かったんだ。自分の魔法で人を殺すって事が、間接的にでもかかわったことが怖かった。きっとこれからも俺は戦争に国の命令で関わらされる。それは魔法を使えるのが限られているからだし、倭国のための前線基地を作るのが許されればもしかしたら話が違うのかもしれないけれど、そんなこと倭国はしないから俺の転移魔法はこれからもたくさん使われる。そう言うの、辛いよ」
「……」
アルテアはただ、優しく俺を抱いてくれた。