幕間 アクモシスの見るアルバン
最近、アルバン君の様子がおかしい。今までは座学の授業中は寝ていることが多かったのに、必死に起きてはノートをとるようになった。それなのに、午後の授業も誰よりも早く運動場に向かうようになった。
「どう思います」
「気にする暇があったらお前は目の前のことをやれ、お前は最初から武術も剣術も魔法も期待されてはいないのだろう」
ゴドウィン先生の厳しい言葉に僕は泣きそうになりながらも、必死になって古代叡智エンシェントテクノロジーによって生み出された剣を磨いていく。なんでも、魔剣と言うその剣自体で魔法を扱うことが出来る特別な剣の理論を応用して、空気中から魔力を手に入れる機構や、少ない魔力を増幅する機構を大量に入れた「機剣きけん」という特別な剣らしいのだが、その見た目からして大きい。下手したら東の国で鬼が握ると言われる巨大な金棒にも匹敵するんじゃないかと言うくらい大きい。
しかし、ゴドウィン先生たちはそれを振るっているらしい。見た目は人間族と同じなのに、先生たち曰く「我らは高位人間族ハイヒューマンだからな。力も知能も器用さも人間より数段上だが平均的なのは変わらないからそう思うのも仕方ない」と言っていた
「出来ました」
「よし」
そう言って、先生はそのどういう仕組みか魔力を流すだけで様々な形に変化させて、試し撃ちのようなポーズをとっている。そして……。
「素晴らしい出来だ。アクモシス」
「それって!」
「二ヶ月だ、わずか二ヶ月で我らの叡智の一部を修得してしまったのだ。誇ってよいぞ」
「あ、ありがとうございます!」
「よもや小人族が此処まで手先が器用であるなら、整備士に小人族を採用するよう進言する価値は十分あるな」
「本当ですか!」
それは素晴らしい事だった。もしかしたら種族単位で新しい仕事にありつけたら、家族たちに楽をさせてあげることだってできるかもしれない。
「しかし、なぜ小人族はこの世界で迫害される? こんなに他の種族には無い器用さを持っているじゃないか?」
「分かりませんが、力も頭の良さも人間族にはかないませんし、それに器用さもドワーフの細工技術や鍛冶技術の前には歯が立ちませんから」
「しかし、きっとドワーフではここまで繊細な機剣を扱う事は叶わないだろうに?」
「そう言われても、事実は事実ですし……」
「……少しいいか」
「はい」
そこで、ゴドウィン先生は珍しく真面目な顔をする。
「実は、我らの国ではとある問題が顕著になり始めているのだ」
「とある問題?」
「ああ、我らは昔から自分達は誇り高き一族だと一方的にこちらの大陸の民族たちを見下してきていた」
「は、はぁ」
「しかしだ、広瀬が我らの住まう島に来て以来、世界樹に集う寄生虫を倒す方法を確立させてしまい、彼の発言による影響力は我らと並ぶほどだ。そして、そんな彼が指摘したのが、閉鎖性ゆえの近親婚の可能性についてだ」
「近親婚?」
「つまり、血縁上は親や兄弟関係での者たちで結婚をしようとする者たちだ。最近血縁を調べるように言われたのだが、既に私の島では多くの者がより強い能力を持つ者の遺伝子を欲していたことが判明した結果、特定の男の精子から人工受精で生まれた子供がなんと五割を超えることが判明してしまった。このままではどのみち緩やかに種族として衰退するというのが目に見えていてな」
「……」
なんだかよく分からない話になってきてしまい、僕は困惑していた。とにかく、何か困っているという事は分かった。
「そこでだ、島の機械に調べさせた所、人間族、巨人族、そして小人族となら子供を作っても血は保たれるということが判明してな」
「あの、話しが見えないのですが」
「ああ、つまり」
この時僕は、きっとこの先生やその家族から一生逃げられないんだろうなと悟った。