幕間 戦術を学ぶことになるマルクス
正直このクラスに来たときはどうなるかと思っていた。最初から身分の事でこちらを見下してくる人がいたし、上手にやれるのかと思っていた。しかし、授業を受けてみると意外と快適だった。
「先生、この領地の作物の生産量についてなのですが」
「ん、何や」
教師は基本午前中の座学の後は、みんな魔法や剣術などマンツーマンのその生徒ごとの授業を行う事になっている。僕の場合は僕自身の希望で戦闘系の技能を覚えるより座学をやりたいと希望していたために、こうして午後にも座学の授業を受けさせてもらっていた。
「じゃから、輸送路を陸路ではなく、川を用いることで三日分短縮したんじゃな。飢饉が早く解決したのは生産量だけではなく、それを常日頃から警戒して蓄えておった結果でもあるんじゃ。じゃから、私たちの商会では一定量は常に非常時にも即座に市場に回せるようにしておるんじゃ」
「なるほど、勉強になります」
「ところでじゃが、お主何時になったら戦闘訓練をするんじゃ?」
「自分は冒険者になったり近衛騎士になったりするわけじゃないので、別にそう言うのはやらないって先生に言っていたはずですが」
「はあぁ、じゃから急遽わしに話が来たんじゃな。わしみたいに痛い目を見ないようにと」
「どういうことですか?」
「これは言っても言わなくっても構わんが、卒業試験は全員参加の戦闘も含まれておるぞ」
「え?」
「卒業試験は、基礎科目群の『学科試験』と、戦闘において自分がどんな立ち回りを出来るのかを見る『戦闘試験』と、各々の特技を見る『任意科目試験』の三つから構成されておるから、もしこのまま戦闘試験を何もしないようならそこで落とされるかもしれんぞ」
「それ本当ですか?」
「本当じゃ、何せ中間試験まで戦闘試験があることを知らんかったから中間試験で0点出して、卒業試験で高得点出さなかったら卒業見送りの決まったわしが言うんじゃからのう」
「ど、どど、どうしたらいいですか⁉」
「落ち着け、何も無策なわけじゃない」
「ほ、本当ですか」
「まずじゃが、セレアハートやアルバンみたいに戦闘が出来る訳じゃないわしやお主みたいな奴らは付け刃程度の攻撃を身に着けた所で何の役にも立たん。そして、アクモシスみたいに道具による援護をそのうちゴドウィンから学ぶような奴や、ナインみたいにレイスの後釜を狙っておるのかと言う程詳しくルーン文字のいろはを教わっているあいつは魔法についてより深く学ぶであろうのう」
「あの、それじゃあ僕は一体何をすれば」
「戦術じゃ」
「戦術」
「ああ、つまりは味方にどう動けばいいのか、それを徹底的に覚えこんでもらう。そして、中間試験の頃から他の同級生たちの戦闘における長所、短所を覚えることで正確な指示を出せるようになってもらうんじゃ」
「でも、紅葉先生、そんなに上手くいきますか。自慢じゃないですけれど、自分はそんなの素人ですよ」
「だから専門家に教えてもらうんじゃろうが」
そう言うと、何もなかったはずの空間から牛のように巨大な男の人が現れる。真っ黒な肌に雄々しい角が二角生えている鎧姿の男性である。
「だ、誰ですか⁉」
「紹介するぞい、高位牛族ハイブルゾンの延壽殿じゃ。この学級の第3期生生徒で、今は族長もやっておる」
「よろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします」
「お主には申し訳ないが、延壽殿が納得するまでわしとの授業はわしの希望でしばらくお預け。お主にはその分しっかり戦術について学ぶのじゃぞ」
「ええ! そんな!」
「安心しろ、我もそこまで難しいことは教えぬ」
「そう言ってわらわに教えようとした時、秘伝の戦術書を持ち出しそうになって親に止められたのはどこのどいつじゃ」
「……」
「まあとにかく、多分お主が初めて習う事ばかりじゃろうが、必死に学ぶのじゃぞ」
「はい」
最初から仕組まれていたんだろうなと思いながら、俺は戦術について学ぶことになった。