第22話 セレアハートが弱みを見せる
「セレアさん、大丈夫でしょうか」
アクモシスが話を振って来るが、俺達は誰も何も言えないでいた。
「今日から復帰とは聞いていたけれど」
「自分達は面会謝絶でしたからね」
『セレアちゃん』
ガララ、と教室の扉が開く音がする。
「セレア!」
「セレアちゃん」
『セレアちゃん!』
「セレアさん」
「皆さん、おはようございます」
「ああ、おはよう。元気そうでよかったよ」
「ですが皆さんには謝罪しないといけません」
「謝罪、ですか」
「この度は私の弱さのせいで悪魔契約により皆さんに迷惑をかけてしまい大変申し訳ありませんでした」
「その事か、別に俺達は大丈夫だよ」
『それより、おうちのことは大丈夫なの? 執事さん見ていたって知っている?』
「ちょっとナインさん」
「あまり踏み込まない方が」
「ええ、療養中に実家から連絡が来ました。もう敷居を跨がなくていいと」
「え、それって」
「放逐ですわ」
そのすがすがしい風に語っている姿に、俺達はどうすればいいのか分からなくなった。
「放逐って、そんなこと」
「仕方ありませんわ。悪魔契約をしたのがこの学園だったからこそ知っているのは身内と先生に皆さんだけ。私のことは表には出ないでしょうけれど、妹が屋敷を継ぐことになるはずです。そうすれば、遅かれ早かれ私に何かあったのだとばれるはず。きっとあらぬ噂を囁かれて家名に泥を塗ることになる。そんな人、早く切り捨てたいと考えるのは当然ですわ」
『私たちが黙っていればいいだけなのに、どうして』
「悪魔契約を黙っているのは宗教問題として不都合。しかしそのまま家に置けば貴族間で浮いてしまう。ならば、誰も触れたがらないように切り捨ててしまえばいい。自然な事ですわ」
「それでいいんですか」
「はい、私は別に」
「ふざけんなよ!」
「アルバンさん……」
「ふざけんなよ! なんでたかが一回間違えただけでそんなにみんな冷酷になれるんだよ! 正統教では殺人だって本来重罪だろ! 何でそれは許されて悪魔契約は毛嫌いされるんだよ! おかしいだろ!」
「ですが」
「お前は俺達の大事なクラスメイトだ! 俺達はお前を裏切ったりしない! 何があってもだ! そうだろ!」
「そうです。辛いことがあれば乗り越えればいいんです」
「自分達も出来ることは協力します」
『もう悲観的なこと言わないでね、セレアちゃん』
「皆さん、本当に、ありがとうございます」
セレアハートがクラスメイトの前で泣いた数少ない瞬間である。