叱る 科学的には効果薄 臨床心理士・村中さん分析 相手に恐怖や不安、主体性尊重し対応を
2024年3月15日 5:00(3月15日 14:49更新)
親から子どもへ、上司から部下へなど、立場の強い側が行う「叱る」行為。「悪いことをしたら、叱るのは当然」「厳しく叱られて、人はしっかり育つ」―。こうした考えが強いが、科学的な知見から、そうとも言えないことが分かってきた。「『叱る依存』がとまらない」(紀伊国屋書店)などの著書がある臨床心理士の村中直人さん(47)=大阪在住=は「叱る行為に相手への効果はほとんどなく、むしろ『叱る側』のニーズを満たすためが多い」と指摘する。
「叱る」の定義とはそもそも何だろうか。辞書に「よくない言動をとがめて、強い態度で責める」(大辞林)などとあるように、「言い聞かす」「説明する」などと異なり、相手に恐怖や不安、苦痛などを与える攻撃的なニュアンスを伴う点に特徴がある。
このため、村中さんは「叱られた側の学びや成長にはつながらない」と話す。「人は恐怖や不安を感じるとき、脳内で『防御システム』が作動します。その場から一刻も早く逃れようと、すぐにその行動をやめたり、謝ったりする。しかし、『防御システム』が作動するとき、学びにつながる前頭前野などの動きが鈍くなることが研究で明らかになっています」
叱られた側が、叱られた原因を自ら考えたり、適切な判断や行動を学ぶことにはつながりにくく、結果として不適切な行動を繰り返したり、都合の悪いことを隠したりするようになるという。
叱る行為に意味があるのは「危険な行動など、絶対にしてはいけない行いを即座にやめさせる必要があるときです」。
一方、叱る側は、叱ることで快い感覚を得られるようだ。人には、悪いことをした人に罰を与えようとする「処罰感情」が生来備わっており、この感情が満たされたときや、満たされそうなとき、快楽をもたらす神経伝達物質ドーパミンが脳内で分泌される。
「叱る行為も同様に、自分の思う『あるべき姿』と異なる人を叱ることで、脳内ではドーパミンが分泌されている可能性が極めて高い」という。
村中さんは、勧善懲悪の物語が時代を問わず人気があり、交流サイト(SNS)でバッシングが過熱する背景にも、この「処罰感情」があると指摘する。
必要時以外に「叱る」という行為から脱却するには、どうすれば良いだろう。村中さんは、「叱る自分を責める」のではなく、徐々に「叱るを手放す」よう勧める。叱る側は、自分自身が何らかのストレスを抱えていたり、本人が叱られ続けてきたために他の方法を学んでいない場合が多い。
「まずは叱る側が、ゆとりを取り戻すよう心がける。相手の問題行動が起きやすい状況を前もって把握し、対処方法を考えられるよう、予測力を磨くことも有効」と助言する。
子どもや部下の成長を促すには、①本人に学ぶための準備(レディネス)が整っているかを考える②本人に合った教え方を考える③本人の主体性を尊重する―よう提案する。
また、叱る側には、自分の思う「あるべき姿」が妥当かどうかを、省みるよう勧める。「こうするのが普通だから」などと逃げず、「それが時には、自分が望む未来でしかないことを自覚する必要がある」と村中さんは言う。
「当然、叱られる側にも本人の望む未来や、ありたい姿がある。相手の主観も尊重してほしい」と話している。
北海道新聞よりシェアしました https://www.hokkaido-np.co.jp/article/987547/