第3話 妖精とガチャ
「少し出費がかさんだな」
「だけどさ、普通にお仕事皆頑張ってくれているし余裕も出て来たんでしょ」
ペスティがそう言いながら俺の様子を見る。ちょっと前までは一人でやっていた雑草取りや薬草採取、下水道の掃除やお年寄りのお遣いなどの仕事にも妖精たちがついて来るようになった。そのおかげか最近の街の人からの当たりは前よりはよくなったと言える
『やっとあんたも一人前になったね』
『ふん、七体もいるなら最初からそうすればよかったんだ』
『いやあ、酸の妖精とかと契約する変人なんて滅多にいないから助かりますよ』
そんな評判に対してペスティが言うには妖精たちは怒っているようだが、俺としては別に問題ないかなと思っているため気にしないでいた。
「そう言えば、妖精たちって何の妖精なんだ」
「え? 契約している妖精たちの話?」
「ああ」
「何で知らないのよ」
そう言われたため、俺は自分にしか見えていないステータス画面という物を説明することにした。
俺は昔の同級生にこういう異世界に行くような話が好きな奴がいたため、そいつの受け売りになるがいわゆるゲームなどで最初に見る事の出来る自分自身の客観的な能力などを見ることが出来る物らしい。
ゲームなどでは攻撃力や防御力などの能力が機械的に数値化されているため、正直それがこうして目に見えているのは不思議な感覚なのだが俺の場合にはどちらかと言えばまた少し違うのかもしれない。それは、基本的に表示されているのがこれらだからだ。
「私の姿?」
そう、最初に見られる画面に、携帯やパソコンのホーム画面や待ち受けみたいな画面にペスティの姿が大きく映されているのである。
「なにこれ、私がいるのがなんか気持ち悪い」
「というかこれが自分の姿だって分かるんだな」
「私一応中位妖精だからね。鏡や窓に映った姿が自分の姿だって分かる程度の知能はあるのよ」
「そりゃ凄い」
「褒めているの?」
正直な所本気で褒めている。だって下位妖精たちが薬草集めを頼むとあの体たらくなのだ。他にも手伝ってはくれるのだが正直結構滅茶苦茶だ。
酸や泥や毒の妖精の方が色々な状況を勉強しようとしてくれているのが伝わるし、最近はどうも既に掃除を終えた場所を俺より把握してくれている時もあるため、下水道掃除では助けられているし宿屋でもどうも指示とは別に色々手伝ってくれることがあるみたいだ。これはペスティの報告のため俺は知らないのだが。
「ねえ、この最初の画面って他の妖精の子に変える事って出来るの?」
「うーん、出来るのかな」
「何か妖精の子たちの事を調べたりって出来ないの?」
「ああ、なんかそう言えばそんなのがあったような」
そこで、俺はそれっぽい画面に移動するのだった。
「へー、ここにこんな風に契約した妖精の子たちの情報が書いてあるんだ」
「ああ、実際ペスティもなんか情報が書いてあるだろう。でもなんか他の妖精に関しては、水妖精、泥妖精、酸妖精、毒妖精以外分からないんだ」
「うんうん。そうだね。あ、右上の所のあれ他の子と違って私だけ光っている」
「ん? 何々? ホームアシスタントに設定? これもしかしてあの最初の画面の奴か?」
「それよ! ねね、試しに他の子に変えたらどうなるのか実験してみてよ」
「はあ? 何の意味があるんだよそれ」
「良いじゃん。ほら」
正直納得はしかねるのだが、俺は試しにと「?妖精」と書いてある、最初に契約した妖精の内の一人の画面に行ってホームアシスタントに設定をした。
「あ! ご主人様やっと話せたワン!」
「ぶええ? どうしたペスティ?」
「ペスティじゃないワン! 名前はないけれど犬妖精だワン!」
「ええ、ホームアシスタントにしたら喋られる妖精まで変わるのか」
マジカヨ。姿まで今は犬妖精しか見えなくなったし。なんだこれ……使いにくい。
「ご主人ご主人! 一緒にお話……」
「……るいのですー。私もお話するのですー」
「えっと、花妖精で良いのか」
「そうですー。お花の妖精の花妖精……」
「……と! 早く戻しなさい! あ! 戻った! 話聞こえているわよね!」
ペスティに対してホームアシスタントを戻すとペスティが凄い剣幕で俺に対して見えていることを確認してくるため、俺は見えているとちゃんと伝えた。
「ああ、大丈夫だ。見えている」
「いい! 私と約束して! しばらくホームアシスタントとやらを私以外に設定するの禁止!」
「はあ⁉」
「いい、分かった! ちょっと! あんた達よってたかって五月蠅いのよ! 良いでしょ! 私が一番位の高い妖精なのだから!」
なんか妖精たちの間で喧嘩しているとしか思えないように、ペスティが飛ぶ後ろを妖精たちが飛び回ってなんか追いかけまわしているのが見える。まあ、姿が見えていないため光の玉がペスティを追い回している風にしか見えないのだが。
「そう言えば、他にもなんか色々なものが見えていたけれど、何があったの」
「ああ、なんかろくでもない物ばかりだぞ」
そう言いながら、俺は画面を見せていく。
「まずはこれ、いわゆるガチャって言う悪い文化だな」
「悪い文化? どういう事?」
「これはな、ガチャガチャって言うある種の娯楽があったんだが、そのシステムを採用してお金を搾取しようとするゲーム……まあある種の遊びの中にあったミニゲームみたいなものだ」
「遊びの中に? また遊びがあるの? でもそれが悪いってどういう事?」
「ああ、ここに契約石って言う道具が必要だって書いてあるだろう」
「うん」
「契約石十個で妖精が喜ぶ何か小物が一個手に入る、もしくは妖精の幸福値って言うのに換算されて、一定量幸福値って言うのが集まると妖精と契約が出来るようになるんだ」
「え、めっちゃ良くないそれ……」
「そうか?」
俺はそう言いながら別の画面に移動した。
「まずだ、契約石を購入するにはゴールドが必要だ。これはこの世界の共通の通貨だな」
「うん」
「これが契約石十個で二百五十ゴールド。これが一番少ないまとめ買いの仕方だな。百個や千個のまとめ買いになると二千二百ゴールドや二万ゴールドになる」
「なるほど、良心的な金額ね」
「え?」
「え?」
「……」
「……」
「一旦話をつづけるぞ」
「うん」
なんか今明らかに意見が食い違う未来しか見えなくなるような何かを感じたが、俺はとにかく一旦話を続けることにした。
「でだ、ゴールドの購入方法は此処に別途あって……そのレートが」
「二百五十ゴールドに七百円。最大で、二万四千ゴールドに五万円」
それがどうしたの? そう言われたため俺は説明をした。
「良いか、向こうの世界では大体1ヶ月バイトして、要するに一日働いて得られる金額が十五万円程度。大人が一日働けば十八万円~三十万円とか何だ。もう少し仕事を長いことやればもっとお金は稼げるけれど、それにしたって五万円ってお金は大金だ。つまり、軽い気持ちで使えるお金じゃないんだよ!」
「うーん、でもさあ。悪くない話だと思うけれどね」
「はぁ⁉」
「だって、将来のためのお金だと思えば一ヶ月で働いたお金の一部を使うのは別におかしなことじゃないと思うわよ。それにそれだけゴールドがあれば、二千個ぐらいの契約石になるって事でしょう。そのガチャって奴に百回挑戦できるならかなり私は悪くない挑戦だと思うけれどね」
「お前それ本気で言っているのか」
「まあ、やるかやらないかはあんたの自由だから任せるけれど」
まさかここで意見が食い違うとは、そう思う俺だった。