第7話 迷宮探索
「何だこりゃあ⁉」
その日、俺は起きて早々部屋の中の状況に驚いてそれを言うしかなかった。
「こら! 静かにしなさい! もう! 言うこと聞きなさいよ!」
ペスティはそう言って今も周囲を飛び回っている。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
そして、俺の契約していたはずの妖精達も慌ただしく飛んでいる妖精や悪戯妖精を輪になって監視している妖精がいて、その中で悪戯妖精が申し訳なさそうにしているのである。
「……はぁ」
そして何より、部屋中を飛び回る無数の妖精達が今か今かと「契約をする」のを待っているのである。
「……」
俺はステータス画面を見て心底やってくれたなとだけ思う。それ以外の言葉が出ないような状況だ。
『?妖精……契約待ち
?妖精……契約待ち
?妖精……契約待ち
?妖精……契約待ち』
こんな風に、契約待ちの状況で待機している妖精が沢山いるのである。
「とりあえずだ」
「何よ」
「今回の件で使われたお金は六十万円。俺の元居た世界では二ヶ月から三ヶ月は働かないと稼げないような額だ」
「うん」
「それによって得られた成果が」
中位妖精三人、下位妖精十二人。
「これって正直どう思う」
「三ヶ月分の働きで新しく十五人も妖精と契約が出来たと思えば正直凄く割のいい話だとは私は思う。可哀そうだとは思うけれど」
「だよなあ……」
きっとそう言うだろう。俺もペスティの反応は分かっていた。だが、俺はこれのせいで貯金が、将来の一人暮らしのためにと貯め始めていたお金が突然に消えたのかと思うとその精神的なショックは大きい。
「仕方ない。とりあえず毎日任務をこなしに行こう」
そう言って、俺はくよくよしないで毎日任務に向かわせるためのメンバーを考えるのだった……ハァ。
「じゅ、十五人ですか」
「はい、悪戯妖精がやりました」
新しく妖精と契約をした際にはその内容の報告が義務である。それは、何か妖精が危険な仕事などに従事させられないようにするために必要な措置であるために俺は報告をする。
「さ、参考までに何の妖精と契約されたのか聞いてもよろしいでしょうか」
「はい」
そう言われたため、俺は何の妖精と契約したのかを話す。
「火妖精、土妖精、鎧妖精、針妖精、本妖精、野菜妖精、お化け妖精、牛妖精、猫妖精、魚妖精、銅妖精、紐妖精、風妖精、蜜蜂妖精、物作り妖精……ですか」
「はい」
「あの、これは本当にあなたが契約した妖精なのですね」
「……はい」
受付嬢の人もどうしようか悩んでいる……どうして? そう思わずにはいられないが、一先ず聞きたいことがあったために俺は聞いてみることにした。
「あの、この近くに迷宮ってありますか」
「迷宮、ですか」
「はい。実は妖精たちの中にただ単純に仕事をするのではなくって迷宮で仕事をしたいって言っている妖精がいるみたいでして」
「ああ、それは妖精によってはよくある自然な欲求ですね。それでしたら近場の迷宮から挑戦されることをお勧めいたします」
そう言われて、俺は地図を渡されるままに近場の迷宮にやって来るのだった。
「ここはどうやら森の迷宮みたいね」
「森の迷宮ってどういうことだ」
迷宮に来る前に、不思議な門の様な物が見え始めたためにペスティに話を聞くことにする。そのペスティは扉に書かれている文字を見てこう説明した。
「本の妖精がいるから読めるみたいだけれど、迷宮にはいくつか種類があってその特徴によってどんな敵というか魔物がいるのかが分かるようになるんだって。あ、魔物って言うのは迷宮に住む変な生き物の事ね」
「ああ」
ゲームとかで出てくるなんかスライムみたいな奴とかの事だろう。
「とりあえず、まずは偵察がてら行きましょう。お仕事を村でしている妖精たち以外はみんな連れてきているのよね」
「ああ」
下水道掃除で酸妖精や泥妖精はいないし、蜜蜂妖精や野菜妖精など村の畑でのお仕事をしたいと言っていたみたいな妖精やそもそも仕事に何故か乗り気でないために連れてきていない猫妖精などを除けば、大体の妖精達が今回はこの迷宮の探索に来ていることになる。
「じゃあ、行くか」
「うん」
そう言って、俺は門を開けるのだった。すると、そこはなんと。
「何処だよ」
本当に森に繋がっていた。いや、森の迷宮と聞いていたから仕方がないのかもしれないが、にしてもこれはどうなんだ。
「あ、今更だけれど迷宮に入るときには絶対に妖精から離れない事。それに妖精達も離さない事ね」
「それは?」
「迷宮で一番起きてはいけない事故って言うのがね、魔物に妖精が食べられることや倒されちゃうことなの」
「え」
食べ……。
「ぐちゃぐちゃってお肉や羽がボロボロになって、そのまま妖精が契約者と契約を履行できないまま死んじゃうの。その姿を見て、他の妖精が『ああ、この人といると死んじゃうかも』なんて考えて契約を破棄するの」
「……」
「だからね、絶対に死なないようにするのが大切で、聞いている?」
「いや、ごめん」
軽い気持ちで俺は来ていたが、まさかそんなに重い感じになるなんて思っていなくって驚いてしまった。そっか、そりゃあ妖精達からしたらそうなるよな。危険を冒して魔物と戦うのだから死ぬ危険を俺は出来るだけ抑えないといけないし。
「冒険者としてあんたが武器持って戦うなら妖精たちは安全でいられるけれど、別にあんたはそう言うタイプではないでしょう」
「まあ、はい」
「なら、素直に撤退の指示とか攻撃の指示とかそれだけしていて頂戴」
そう言われてしまっては何も言い返せないのでペスティに従うことにした。ところで……ペスティはどうしてこんなに詳しいんだ? ペスティってそう言えば、何の妖精なんだ?
それからしばらくは迷宮を進みながらも、特に魔物と出会う事もなく銅妖精と一緒に採掘をして風妖精に木の実を取ってもらっていた。
「意外と魔物と出会わないな」
「出会っているわよ」
「え?」
「はぁ、あのねえ。鎧妖精や火妖精なんかの好戦的な妖精が勝手に敵に向かって戦っているだけで、あんたが戻れとか指示しないから私たちが出会っていない風に見えているだけよ」
「戻れ妖精達!」
慌ててそう指示を出すと、何処にいたのか牛妖精とかお化け妖精なんかも戻ってきて様子を見ることが出来た。しかし……いない。
「火妖精と鎧妖精がいない」
「あんたやったわね。いい、この戻ってこない妖精が万が一魔物に襲われていたらどうするつもりなのよ」
「‼」
俺はなんかとんでもない、何処に勝手に行くのか分からない存在の恐怖という物をようやく理解して慌てて探し始めるのだった。
「いた!」
そして森の中を彷徨って数分後、ようやく二人の妖精を見つけるのだった。しかしそこには見かけない女性がいた。
「ん、もしかしてあんたの妖精か。この妖精は」
「はい! ごめんなさい」
「気を付けろよ。妖精と契約をしていようが他人の妖精だろうが勝手に相手よりいい条件を提示して妖精を騙してこき使う様な悪い奴だっている」
「ご忠告感謝いたします。おれ、葛城誠って言います。あの、お名前は」
「私? 私はベナンシェ。契約無しの鍛冶師だよ」