第10話 昇格の儀式
昇格の儀式、そう言えばそんなアナウンスがこの間あったような気がする。というか、あまり自分では気にしていなかったのだが、課金を一定額した場合に得られる特典の一つに一定以上の幸福値に到達した妖精を幸福値はそのままで妖精を上位に上げることが出来るようになるなんて書いてあったような気がする。
そんな話をペスティに話したところ。
「何でもっと早く言わないのよ! 馬鹿じゃないの!」
そう言ってめっちゃ怒られた。
「そんなに怒る必要ないだろう」
「怒るに決まっているでしょう! 妖精が昇格するなんて普通に大変なのよ! それをあなたと一緒にいて幸福でいるだけで自然とその可能性が高まるなんて知れたら一体何人の妖精があなたと契約しようと躍起になると思っているのよ!」
なんだろう、俺のバイトの先輩たちがバイトリーダーになったら偉そうにしているのを見ているとそんなに昇格って凄いのか疑問に思ってしまったのだが、どうやら妖精たちにとっては死活問題のようである。実際に……周囲の妖精達が慌てだしているのが見えている。
あくまでも姿は見えないから光る何かがわたわたしているように見えるだけなのだが。
「はは、凄い能力をお前自身が持っているみたいだな。それなら色んな妖精が集まっているのも納得できる」
「そんなに凄い能力だとは思っていないけれど、やっぱそうなのか」
ちなみにどんな能力なんだ、そう聞かれたので異世界から来たこと自体は伏せてお金を使う事で妖精と契約出来るアイテムを手に入れられたり喜ぶアイテムを獲得出来たり、まあ色々出来る能力だと話した。
「はあ、お金がどうしてこの世界の金じゃないのに使うのが金だって分かっているのか変な話だな。なんか誰の金使っているのかに思い当たる節もありそうな感じだし」
「……」
「まあいいや、なんか言いたくない理由があるなら聞かないが私なら迷わず何回でもそのガチャって奴に挑戦するな」
やっぱりそうなのか、そう思った。自分の金である限りは挑戦する。いや、自分の金だと思っていないからかもしれないし。
「因みにガチャが自分の金ならどうする」
「当たり前にやるさ。他人の金ならもっと迷わずやるな」
うーん。そう言う物なのか。
「まあいいや、いい加減昇格の儀式しようぜ」
そう言う訳で、現在いる妖精達の中から昇格の儀式の対象となる妖精をピックアップすることにした。
「えっと、まずは……悪戯妖精」
そう言った瞬間、妖精達が騒めきだして皆がペスティに詰め寄っている様である。
「落ち着いて! 私も話を聞くから! というか失礼だけれど私だって納得していないから」
「おい」
「だってそうでしょう! 普通に考えて昇格するには契約者に対して出来るだけ多くの貢献をしないといけないのよ。それが幸福値っていう何かだけで決定するようになるのであればいくら何でも理不尽も良い所だし!」
「悪戯妖精は結構貢献しているぞ。毎日任務とは別に何か道具を集めてきてくれているしな」
「え……」
そこで、ペスティでも知らなかったのか俺はステータス画面で『特殊イベント』という物を見せる。
「ここにな、妖精達の中で何か『その妖精がいないと絶対に起きないイベント』って言うのが記録されるんだ」
「うん」
「その中に、悪戯妖精の『悪戯課金』ってイベントが記録されているんだ」
「で?」
「そのイベント報酬として『毎日悪戯妖精のいる限りアイテムが手に入る』って言う特殊効果があるんだ」
「な、何よそれ」
「要するに、特殊イベントを解禁した妖精程何かしら俺に貢献しているから自然と貯まるんだろうな幸福値。おかげで早く昇格の条件を満たすと」
そう説明すると、ペスティが何か納得できないような表情をしていた。
「何でよ! あんたあんなに怒っていたのにどうしてそれで良い方向に進んでいるのよ妖精にとって! 訳わかんない!」
「いや、普通に俺だって金大量に消費されたのはあれだぞ。だけれど、まあ自分にも管理しきれなかった責任はあるし、一方的に怒るだけで解決するならそれはなんか違うだろう」
「よくそう言えるわね」
「それに、せっかく契約した相手を一方的に自己都合で怒るようにはなりたくないからな」
そう言って、俺は儀式の準備に入る。
「どうやら妖精一体ずつじゃないといけないみたいだから順番に行くぞ」
そう言って、悪戯妖精達の昇格の儀式を三回行う。部屋の中央で妖精と対面(多分)で顔を合わせあうと祈りを捧げて契約を更新する。
「良し、これで三人は中位妖精に昇格だ」
「良いなあ、私中位妖精だから出来なかったって事よね」
ペスティがそう言って少し拗ねている。
「いや、儀式を用いない昇格であれば一番上まではお前が行けるぞ」
「え?」
「あのな、契約時点から確かに中位だからお前は今回昇格こそしなかったけれど、全員の中では一番幸福値貯まっているから上位妖精に一番早くなれるとしたらお前だぞ」
「それ本当に⁉」
「ああ、あくまでも今回の昇格の儀式が必要な奴だけに儀式を行うだけだから。それ以外は儀式こそしなくても昇格は全員出来るぞ」
「本当に! 皆! 昇格出来るみたいよ!」
その言葉に、妖精達が本当に嬉しそうにしているのか何かまた光が踊りだした。まあ、ゲームで言うところのレベル? これがちょっと前にギルドの人も言うと言っていたレベルと同じものかは分からないが同じだろう物の上昇だからこれを昇格と言っていいのかよく分からないが、まあ言ってもそんなに違いは無いだろう。妖精のおやつは昇格おやつと言われるくらいで、それがレベルの上昇のために必要な道具なのだからまあ間違ってはいないでしょう。
「因みに、昇格の儀式が必要なのは後水妖精と酸妖精、犬妖精と花妖精、泥妖精に毒妖精も出来るな」
「そんなに! 待って! 昇格の儀式が必要なそれがそんなに沢山いるの!」
「ああ、その全員が中位妖精に」
「待って! いくら何でも中位が多すぎない。この間だって三人も中位妖精が三人も集まったって言うのにまだ中位妖精がそんなに沢山いるんじゃ大変なんじゃ! ね、だから少し待っても」
「いや、毎日任務の手に入る道具や妖精のおやつは多分その昇格によってもっと難しい物にも挑戦できるからやる価値は十分ありそうだぞ」
「で、でも、もう少し落ち着いたって」
「お前が何故突然止めるように言いだしたのか分からないけれどとっとと始めるぞ。並べ呼んだ妖精は」
「待って! それだけいると私の立場が弱くなる!」
そう言って儀式をするさまを、ペナンシェは呆れ果てながら見ていた。
「はは、凄いな。お前だってあと少しで昇格が出来そうだから聞いてみただけなんだが、まさかそんなに沢山今日出来る奴がいたなんてな」
火妖精はペナンシェにだけ見えるように手をグッと握って頑張るぞとアピールする。
「ああ、頑張りな」
私も頑張るからさ。そうペナンシェは心に誓うのだった。