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桑鷹三好の遊び場

第1話 海良とパムラの出会い

2024.03.16 05:36

 ある村の近くの森の中、一人の青年が降り立った。名前を海良と言う。

「何処だよここ」

 海良は見知らぬ森の中にいた。彼は困惑した。何故なら突然見知らぬ土地に現れたのだから仕方ないだろう。例えそれが勇者であったとしても。

「こういう時ってどうしたら良いんだ」

 海良は周囲の様子を伺う。だが、そこは緑一色の世界。道と呼べる道も無い場所であったようである。

「詰んでないか」

 この時地図や導きの魔法があれば違ったのかもしれない。

「何もねえ」

 だが、青年は何も持っていないのである。道具も魔法も、少なくとも今役に立つものを。だからこそ、彼は困っていたのである。

「せめて日が沈むまでに安全な寝床だけでも」

 そう思いながら近くを散策する海良。すると声が聞こえるではないか。

「嫌だ! 助けて!」

 女性の声だ。海良は声のする方に走る。

「グギャギャ」

「何でバムロムがこんな所に、武器なんてないよ……」

 バムロム……あの醜い子供サイズの人型の魔物が村娘を襲おうとしていた。海良は草陰に潜みながら様子を窺う。彼には勇気があった。力もあった。だが武器がなかった。

 

「何か『武器』があれば」

 その呟きが応えてくれたのか、はたまたそんな偶然こそがその力の始まりなのか。

「は?」

 片手で持てる長さのショートソード、『武器』が出現した。

 魔法である。

 海良はこの時知ったのである、彼が魔法を使えることを。だからこそ、果敢にも挑みバムロムを倒そうとしたのである。その勇ましい剣がバムロムを攻撃する。

「グギャア!」

「生きているのかよ!」

 しかし魔物はしぶとかった。勇者の剣でさえたおれず牙をむくのである。

「グギャア、グギャア、グギャア!」

「今だ!」

 しかしなんということか。敵が突貫したかと思うと海良はすぐさま風のように躱し、そして反撃するのである。腹を切り裂く一撃で。

「グギャア、グギャア!」

「……」

 地に倒れた魔物は息も絶え絶え苦しそうにする。そこを勇者が最後の一撃でとどめを刺すのだ。

「ギャ、ギャア……」

 鮮血を流しながら倒れるそれに、勇者は両手を合わせたようである。それが何を意味するのか分からないが、その後に勇者は村娘の方に向かう。

「大丈夫か」

「あ、ありがとうございます」

「俺の名前は海良。名前は」

「パムラ。よろしくおねがいします」

 挨拶を交わしたあと二人は互いに話し合い、そして村娘のすむ村に向かったそうである。

 村娘の名前はパムラという。パムラは達の住む村はシヨンの村という。だがここで話が合わなくなったという。

「全然聞いたことがない」

「えー、ヌムートもルプも普通の物だよ?」

 ヌムートやルプというありふれた動物や植物の名前を勇者は分からないというのである。どういうことだろうか。その違和感について話しながら村に向かう。

「ただいま!」

 パムラが村の入口の男性に声をかけると二人は慌てた様子でこう喋り始めた。

「パムラ! パムラ リモッティア デオ カヌマルン!」

「ルール マショ オノ カヌマルン ローロン!」

「何て」

「もう、子供じゃないんだから心配しすぎだよ」

「えっ」

 村の門番はパムラの帰りに驚き、慌てて村長に伝えようとしたが彼女は呑気なものである。心配しすぎだと言いながら、海良について話す。バムロムを退けた海良はすぐに客人として認められた。

「二人に話して海良も入れるって。一緒に村長のところに行こう」

「あ、ああ」

 それから、村長の家に案内された海良達は挨拶をする。

「アーケバオ。ヌヌ マオ オゴッティルム デハ カヌマルン ローロ」

 木造の一番広くて綺麗な家、そこで村長に出会い話し合いが始まるのである。しかし、ここで二回目の異変がある。

「……なんて言っているんです」

「何言ってるの。村長のオゴッティルムですって言ってるじゃん」

「……。初めまして、巌島海良です。宜しくお願い致します」

「……ペモハッショ クルンペ」

「え! 苗字あるの! もしかして貴族なの!?」

「いや、貴族ってわけじゃ」

「エノ! リーパム! イジョ アルケメ!」

「そうだよ! 大変だよ村長!」

「待って下さい、話を聞いてください」

 そう、海良には苗字があったのだ。この時代苗字はありふれたものではない。大変なことであった。しかし、それよりも実は大変なことがあったのに海良は気がついていて質問したのだがそれは後の話で語ろう。

 その夜、パムラは村長から言われたことについて思いを巡らせていた。彼女が何処まで理解できていたか知らないが、彼が勇者かもしれないという話を村長から聞いたのはこの時のことらしい。

 だが、男は出稼ぎに行くことが多くて滅多に会えない彼女にとっては驚きの話だったようだ。彼のために尽くすよう言われたことは。

 次の日、海良はパムラの住む家で目を覚ました。

「パムラおはよう」

「おはよう海良。きょうも晴れみたいだよ」

「そうか、よかった」

村長の計らいで彼女の家に住むことになったようである。朝食はカヌム(パンの様な物が近いと25は言っていた)に野菜のスープである。

「なあ、家族はいないのか」

「家族?」

「ああ、お父さんとか」

「いないよ、村のために出稼ぎに行っているから」

「あ、ごめん」

「気にしないで、海良は知らないんだから」

「でも、一人で危なくないのか」

 海良にとって、女が一人で住むというのは驚きのようである。だが、別に成人している年齢であるのだしおかしいことはないと思う。何より、男はこの時代出稼ぎに鉱山のある村に行くなどの生活が主流だ。どうしてもお金を稼ぐにはこうしないといけないのだから。だからこそ、彼女はごくごく普通の回答をした。

「村には門番さんとかいるしあれだけど、モンスターとかいるし怖くないかと言われればねえ。でも税金とかもあるしお父さんとか大人の人には働いてもらわないといけないし」

 海良はそれっきり何か質問することはなく、食事をして仕事に向かったという。

 基本この村では午前から子供も大人も仕事を始めて、午後になったら仕事をする人はするししない人は自由に過ごしている。ごく普通の田舎の村の生活と言った感じだ。

「で、パムラの仕事はまだ聞いていないけれど家畜の世話って事か?」

「いや、何でも屋さんだよ。色々な人のお仕事のお手伝いをするの」

「お手伝い」

「今日はヌムートの毛刈りの日だから餌やりとは別に人手が必要だから私が手伝う事になったの」

「で、その手伝いを俺にももやってと」

「そういう事」

 パムラはそう説明をすると、剃刀とブラシを取りにどこかに行ってしまう。その間は家の家主のおばさんと海良が話をしていたようである。

「『解読中』」

「ははは」

「『解読中』」

「ははは」

「『解読中』」

「ははは」

 そうこうしていると、パムラが戻ってきて剃刀とブラシを渡す。

「はいこれ、ブラシと剃刀ね」

 そう言って、道具を海良に渡す。

「『ブラシ』はともかく『剃刀』じゃなくて鋏の方が良いんじゃ」

 その時だ。足元に何かが落ちた音が家畜舎に響いたのは。

「何で?」

 ブラシと剃刀があった。

「海良、いつの間にブラシと剃刀なんて用意していたの」

「していない、していない。ですよね」

 海良はおばさんの方を向く。すると、パムラにおばさんは何か話す。

「確かに私はこの男の人と話していたから、剃刀どころかどんなものだって取りに行く暇も無かったよ」

「そっか」

 パムラも悩んだ末に、彼女は気が付いたようである。

「もしかして、これがいわゆる魔法?」

「魔法って」

「うん、神様の祝福とも言われている物なんだけれど、普通の人には使えない何かが使えたり出来たりする物を指すんだ。炎を出せたり、水を操ったり」

 そんな話をしていた時だ。一人の男の子供が入って来る。

「大変だ! 領主がパムラに会いに来やがった!」

「何だって! こうしちゃいられない! 急いで隠さないと」

「見つけたぞパムラ!」

 子供とおばさんがパムラを急いで隠そうとするが時すでに遅し。腹の出て太っている領主がずかずかと家畜舎に入って来る。

「パムラ! 私は君と一緒のこの時間に感謝するぞ!」

「りょ、領主様どうも」

「早速だがこの後私と一緒にお茶を飲みに屋敷にでも」

「ふざけるな! 今日はヌムートの毛刈りの日だ! 子供の力だって必要な時にそんなこと許せるか!」

 おばさんは勇敢にもそう反論する。だが、この悪徳領主はこう返すのだった。

「ふん! ならばパムラとの時間に見合う何かをよこせ。税とは別にな」

 不遜にも領主は対価を要求したのである。事前に会いに来る連絡もしない、しかも税だってついでとばかりに取りに来たのにこの対応である。どれだけ面の皮が厚いのか。

「ちょっと待ちな」

 そこでだ海良が話に入って来たのは。

「『解読中』」

「パムラ、こいつが何を言っているのか教えてくれ」

「え、私が領主様と一緒に出掛けるか、その時間分のお金をよこせって」

「何をよこせって」

「だからお金を」

「『お金』で良いんだね」

 そう言うと、彼は服の下から何かを取り出し見せる。

「『解読中』」

「足りない? どうなの」

「『解読中』」

 悔しそうに領主は海良の掌の上のそれをひったくると何処かに行ってしまう。

「やるじゃないかあんた! あの領主を追い返すなんて!」

「すげー! かっけえよあんた!」

 おばさんは驚き、子供は感動した。だが、パムラだけが心配そうにしていた。

「どうして、何でお金なんか持っているの?」

「……」

 そう、海良はお金を渡したのである。そして、それが実は大変なことになるだなんてこの時は思いもせずに。