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桑鷹三好の遊び場

第23話 工事の状況1

2024.03.16 05:49

「あんなことがあって仕事ができるか!」

「そんなこと言って生活はどうするのさ!」

 男性労働者達と女性の村民、その意見が真っ向から対立したのである。

「だからって聞いていないぞ! ここで働くだけでこんな死にかけるようなことになるなんて!」

「いつもモンスターに襲われないか、俺達は大変だなとか偉そうに言っていたのになんだってんだ!」

 確かに今までに気にしたことのない危険が突然目の前で起きて、その被害が自分に来るところだったとなればそれについて対策をどうしてしなかったのか気になりはするだろう。どうしても避けられないような自然災害でなければなおさら。

「なんてことが起きているみたいです」

「ありがとう、パムラは大丈夫か」

「正直大変かな。エティエトちゃんとかマニュエチちゃんとかイワミミちゃんとか、私が言いたいことを翻訳して伝えるから話が会議とかの間出来ていた人も、村に出てわざと伝わらない言葉で話されると困っているみたい」

 それは深刻だ。そう思った。

 少し話は脱線するがこれを編纂している者として、この世界の言葉が通じない感覚と、異世界出身の海良の言葉が通じない感覚は違う事についても触れたいと思う。

 そもそも、我々は多少言葉が通じないと言ってもそれは「単語を知らないから通じない」という感覚である。お互いの部族間で細かく言う様になった単語や、逆に細かく言う必要が無くなったから簡略化された単語。それらのニュアンスの違いによる齟齬程度の違いである。それはあくまでもエティエトやイワミミ、トプシュワやマニュエチ全員に言える感覚であった。

 だが、海良の場合はそうではない。そもそも「言語が違う」のである。

 これは恐らく実際に話してみた人しか分からない感覚であるため出来るだけ伝えようと努力はしてみるが、このパムラと海良が出会ってからの約半年の間に相当努力をしたようである。

 相手の言葉の意味や伝えたい内容、そう言ったものを出来るだけ懸命に覚えたのである。

 そんな必要がどうして必要なのかと思うかもしれないが、少なくとも強いて言うなら「魔物位何を言っているか分からないはずの相手に囲まれている状況が海良の感覚」とでも言えば少しは伝わるだろうか。

 その位この世界の言葉が伝わらないというのが海良の感覚であったため、必死になって村人たちも本来は相手に伝えよう、伝わって欲しい、その気持ちはあったのである。

 そんな人たちが今度相手に「伝わらないよう」話そうとしたらどうなるか?

「イワミミはそもそも少し荒っぽい口調を女性だけれどするし、マニュエチは寒い国出身だから植物とか薬草について詳しく言われるとその違いについて答えられない。ワシュプトはそもそも帝国訛りがあるし、エティエトも訛りが強い方だな」

「イワミミちゃん村人の人には丁寧だから、少し言葉が崩れているの海良の前だけだと思うけれど……」

「そうなのか、でもどちらにしても。そう言ったところを要は色々言われるようになったって事か」

「そうみたい」

 そんな風に話しながら思案していると、天井付近で眠っていた女が起きて来た。

「ねー、ご飯は? 私を養ってくれるんでしょ?」

「ミルミ、お前働きはしないのに要求するのか」

「ミルミちゃん別に従う義理ないもん。お家勝手に襲われて、ここに連れて来られただけだし」

「……」

 正直そこに関してはこちらの事情のため下手に言い返せないため、無言で部屋から出てキッチンに向かうとヌムートの乳の入った容器を出す。そしてそこから乳を少しだけコップに入れると渡す。

「ありがと」

「本当にお前それだけで足りるのか」

「私からしたら、あんたたちの方が魔素ののっていない食事ばっかりなのに不思議だよね」

「まあミルミちゃん一日に30回は飲んでいるからそれなりには取っている気がするけれどね」

 確かに、コップ30杯分の乳を毎日飲んでいると考えればまあそんなものか。そんな風に考えていると、アラエが入って来る。

「恐れ入ります。緊急の要件です」

「どうした」

「冒険者統治機構が冒険者を連れてやってきました」

客間に慌てて通して、俺は客人の支部長と話始めた。各々護衛も付けての話し合いである。

「出来れば連絡は直ぐによこしてほしかったんだがな」

「ちゃんと後日行くって伝えなかったか。書面で」

「伝わっているよ。だが……」

 統治機構の支部長であるハリスは、後ろの連れて来た冒険者達を一瞥する。

「彼らが納得しなくてな」

「なるほど」

 まあ納得はしないか。村に迎え入れるために先ずは何か出来ないかと色々やっていたのだがそれよりも前に冒険者統治機構が来てしまったと。

「というのが建前だ」

「え?」

「創ろうとしているのだろう。それの進捗を見たくてね」

「……」

「正直、恐らく彼女を引き合いに出したのはおおよそ幻影の能力。それによって完成予想図を見せながら工事や連絡をすることで効率化を図りたい。後は、帝国に対しての戦力。違うか」

「……おっしゃる通りです」

「だが、まだ現実的じゃない。まずは物資の運送方法。そして優秀な設計技師も足りない。そもそもとして材料も作るのに必要な人材も足りない。違うかな」

「全くもってその通りです」

「どうしてそんな計画に着工してよいとの許可をしたのかな王国は」

「まあ私が良いと言ったのが大きいのではないでしょうか」

 メルビーが入って来るが、それを見て冒険者達は慌てて彼女の出すお茶を彼女が置く前に自分達で受け取ろうとするがそれをハリスが止める。

「落ち着け。この場では客人はいきなり来たとはいえ私達。そして彼女は『話し合いの代表者の妻』だ。出される前に受け取るのは逆に失礼に当たるぞ、仕事を奪う事になるからな」

 王族の出すお茶を飲むという、前代未聞の事態に冒険者達は納得し切った表情ではないが従ったという。そしてメルビーは会釈だけするとお茶を用意する。

「とにかく、正直な事を言えば君たちの計画は我々に実利があるように見える一方で本当に実利があるのか分からないのが現状だ。だからこそ、計画には関与できないことを伝えようと思ったから連絡をしに来た」

「はい」

「成功も失敗も自己責任で頼むよ。その代り、計画でどんな人材を使おうが我々は関与しない。冒険者を使いたいなら使っても良いし、もうワシュプトを使っているだろう」

「まあそれは」

「よろしく頼むよ。彼女も大事な一員だからな」

 それだけ言って、ハリスは出て行くのだった。

「とりあえず、収穫はあったな」

「何処にあったんだ」

 テノサが確認してくるので、俺は伝えた。

「まず、冒険者統治機構がどんな人材を使ってもよいとお墨付きをした。要するに」

「ミルミ、あの淫魔を使っても何ら問題ないという事だろう」

「それに、そもそも彼女にやってもらいたかった仕事の内容までどうやったのか知らないけれど把握されている。なら、もういっそ開き直った方がいい気がする」

 それを聞いて、テノサはため息をついた。

「あのなあ、魔族を大規模な工事に役立てようなんて話は聞いたことが無いぞ」

「前例が無いからこそ、出来たら凄い大きな功績になると前向きにとらえよう」

「ポジティブすぎるぞ」

「ネガティブよりはいいでしょ」

 そんな風に話し合っていると、ナエシエがやって来るのが見える。

「ボス! 大変だ! 大変だぞ!」

「どうした」

「ミルミとあの守護獣の女が戦い始めた!」

「はぁ⁉」