第28話 魔族とは
「どうする、正直これは厄介だぞ」
そう切り出したのはテノサだった。
「その根拠は」
「彼女の魔族としての種族の扱いだ」
「扱い?」
「ああ」
そう言って、彼女は先ずは頬から見える鱗などを取り上げて話始める。
「まずだが、彼女は一体何の魔族なのか、そもそも魔族なのか分かるか?」
「どういうことだ?」
「例えばナエシエ」
「んお」
「お前は魔族じゃないのか」
その発言をした瞬間に彼女は怒り始めた。
「はあ⁉ お前それは俺が人間じゃないって言いたいのか!」
「違う。そもそも私たちはだいぶ前の話で魔族だろうと人間と同等に扱おうという話をしたばかりじゃないか」
「正確には長い目で見た際にその様に手を取り合えるよう、そんな感じですわね」
メルビーが一応にと補足をする。
「だが、じゃあお前は魔族ではないか魔族なのか。どう思う」
「そりゃあ、魔族じゃないぞ」
「だが、私の記憶だとほとんど魔族は勇者の力の一端に触れた娼婦たちの子孫である。勇者の力に当てられたからこそ強い力を得るに至った存在である。そんな風に情報を繋ぎ合わせると結論づくんだ」
「そうなのか?」
「こいつ……」
正直この時点では海良もそこまで話を理解していたのかは不明だが、これはテノサにとってはミルミと出会ったことなども含めて話を統合した結果もう確信に近い状態だったのであろう。
「その上で改めて聞くぞ。お前は魔族と魔族じゃない人間、どちらがいい」
「それは勿論魔族じゃないぞ。私は人間であることに種族として誇りを持っているからな」
その感覚はとても美しい物であるだろう。自分の人間性に自信を持って、種族として胸を張って語ることが出来るのは。
「だけれど、魔族と獣人族を混同している人間がいることは知っているか」
「それは……」
その話に触れた瞬間、彼女は凄く嫌そうな顔をしたし何人かは「それに触れるのかよ」という顔をしていた。パムラに至っては立ち上がるほどだ。
それほどこの時代から獣人族と魔族を混同するというのはタブーであったのである。厳密には人間としての特徴よりかけ離れた耳や鼻、顔や毛の多さなどを持つ獣人族は明らかに人間には無い角や翼を持つ魔族と度々間違われてきた。
そしてそのたびに戦争が起きて「獣人族が人間に駆逐されてきた」のである。その違いは単純に「道具に対する種族としての器用さ」に違いがある事なのだが、これについては一旦脇にそれるため終わらせよう。
「だから聞くぞ。お前は獣人族と魔族と人間、何処に当たる」
「……獣人族だ」
言いにくそうにナエシエは語った。人間であるとは思っている、だが同時に獣人族としての誇りの方が勝る。野生を生きる動物たちの生態を借りることで生きると言われている獣人族たち。その誇りは何時しかどれだけ酷いことを言われても決して折れない強さになっていたのである。
だからこそ、今回は痛いところを突かれる結果になるのだが。
「さて、では話を続けよう。正直魔族は勇者の血筋を受けた者たちの中で不当な扱いを受けた者や、その他にも魔法の才能に長けているけれど何らかの理由で迫害されるようになった存在などが一方的にその烙印を押されるような存在だ。自分から自信を持って名乗っているミルミのような存在の方が少数なのではないかなと思っている」
「何か納得端切れない言い方だけれどそうかもね」
ミルミは乳を飲みながらそう話している。
「しかしだ、魔族は我々の認識では勇者の血筋だ。勇者を人間ではないと言えばその限りではないが、人間と子供をなしている以上きっと勇者は人間である。ならばその子供達も『人間』にはならないか」
「魔族が人間である。これに繋げるための話ですね」
アラエが確認を取るとテノサは「そうだ」という。
「正直私はこの話には触れる事さえあんまりしたくない。魔族と呼ばれるものの中には魔物と一緒に語られるような存在もいるせいでどっちがどっちなのか、相手によって違いや線引きがよく分からない物もいる」
「一番の理由は我々自身の『無理解』ですが、まあともに勇者として選ばれるような人たちと渡り歩くほどの強さを持っているのですからそうなりますよね」
一定の理解を示しつつメルビーが意見をする。
「その上で聞く。ナエシエ。お前はどっちだ」
「どっちだって? 何とだ」
「お前は魔族と人間、どっち側だ」
「それは……獣人」
「違う。魔族も人間、人間は人間。そうなったら獣人だけ仲間外れなのか?」
「! それって」
「言ってみろ」
「人間だ! もちろん人間だ!」
ナエシエが嬉しそうに意見をする。
「これで良いのか、メルビー」
「正直私としては何で今の流れでこうなったのかよく分かりませんが。それでも目指すべき指針として実際こういう姿が望ましいと思っているのは事実なので嬉しいですね」
そう語った。魔族も人間、獣人族も人間、共に手を取り合える存在。それなのである。
「それで、戻るのはアレインだ」
「我か?」
「魔族なのか、人間か、獣人族か、どれだ」
「考えた事もない。そんなこと気にせず生きて来たからの」
そう語った。その瞬間にマニュエチなどが立ち上がる。
「ちょっと待ってください。そこをどうして気になされないんですか!」
「旅をする上で話し相手もいなかったから聞かれたこともない。そもそもお主は初対面の相手に『お前は魔族ですか人間ですか』と聞いたり、その答えによって態度を変えたりするのか?」
「それは……」
しない、そう彼女は語った。寒い地方出身の彼女は寒い地域でしか生きられない魔族と普通に交流のあった生活をしていたようである。だからこそ、魔族と交流を持つこと自体に何の違和感もない。
だからこそ聞くことも無かったのであろう。若干アレインの状況とは変わっているかもしれないが得られた結果は同じである。
「だからこそ我は不思議なのだ。我の姿を見た瞬間に人間どもは『お前は魔族か』とアック人を取って態度を変えてくる。魔族の方がそこらへんで変に態度を変えるようなことはしない」
そう彼女は語る。
「まあそこらへんは正直どうでも良いんだ。重要なのは私達からしてみたら魔族にしか見えないが、本当に魔族として良いのか。魔族の中でさえも炎を皮膚からずっと出しているように見えるのに、服などは燃えていないからこそコントロールが上手いのであろうその状況に対して違和感を覚えるんだ、人間としてはな」
「……」
「だから聞きたい。お前は魔族なのか?」
「そう言う意味なら魔族じゃないのか」
そこで彼女はそう言いだす。
「根拠は」
「まずだが、お前達どうしてミルミの姿に違和感を抱かないんだ」
そこでミルミの方に皆の視線が向いた直後に、全員でそこに触れるのかと思うような話に彼女は踏み込んでいく。
「あの局部や胸などだけを、いや臀部の他にも腰などの弱点もか。とにかく、皮膚の表面だけを覆う様なその姿に違和感は覚えないのか?」
違和感は正直ある。でもそれが魔族の特徴だと思っていた。そう誰が行った時アレインはこう言った。
「その皮膚の表面だけを覆う様なそれとこの炎は実質的には同じだろう。何が違うんだ」
「?」
その感覚に何人かは理解が及ばなくって疑問符を浮かべたのだが、ミルミがこう言いだした。
「あのね、人間って魔装が出来ないみたいなの。だから服で姿を隠したつもりになっているんじゃないかしら」