第29話 円卓会議
「魔装?」
そのよく分からない単語に全員が首をかしげる中、アレインだけは「だろうな」と言っているために何か納得が言っている様である。
「何の話だ」
「この服の話だ」
そこで、アレインは今着ている和服の襟をつかむ。
「それがどうかしたのか」
「誰か、この服を引っ張ってみてくれ。そうすればどういうことか分かる」
「うん、やってみるね」
そう言ってパムラがアレインの服を引っ張る。すると、彼女は「え?」と不思議そうな表情をする。
「どういう事? これ何? 服が『体と繋がっている』」
「え?」
「ふふ、魔力で出来ておるからな。繋がっているのは当然であろう」
「魔力は魔法で体外に放出しちゃう分の他に、体内に残って循環し続けるもの上がるでしょう。その循環し続ける魔力を防御用や装飾用の服装として利用する技術が魔装なの。そのおかげで『魔力的に』視覚を断つことが出来るのよ」
「ああ、魔法の透視魔法なんかを寄せ付けないのか」
「そういう事」
「だが、本来透視魔法はその名の通り物を透視するための魔法では?」
テノサがそう質問をすると「何言っているの」「そんな質問をするのか」なんて顔を魔族の二人はしている。
「その程度の透視魔法で透視されちゃうのは子供位な物よ。大体の魔族は魔装のおかげで視覚的にも人間と同等に肌の直接的な露出を隠すことが出来るようになっているの」
「魔物の中には人間を『魔装も出来ない肌を直接露出し続けている時代遅れな生き物』なんてとらえている奴らも今はいるみたいだから、魔族の方が野蛮だなんて思わない方が身のためだぞ」
魔族には俺達って魔法的に肌を隠すことが出来ない野蛮な種族だなんて思われていたなんて。その発言には一部どころかほとんどの人たちが驚いていた。
「そっか、そりゃあ大変だな。俺達ももし魔物に襲われないようにしたかったら魔族的にも肌を隠しているように見える何か服とかを着た方が良いのか」
「それを作るのは大変な気がするけれど……まあそうね」
「その内その服でさえ投資する魔法を編み出す鼬ごっこになりそうじゃがな」
けらけらとアレインは笑っている。
「守護番殿、少しよろしいでしょうか」
「どうした」
守護獣の娘がやって来て、何か手紙を渡してくる。そして、遂にこの時が来てしまったかと頭を額に当てる。
「どうしました」
「いや、冒険者統治機構への連絡が遅すぎてしびれを切らしたみたい」
「冒険者統治機構がですか」
「いや、円卓会議が」
円卓会議、それは、冒険者統治機構と魔法学校に並ぶ国家間を跨いだ統治組織。冒険者と魔法使いをそれぞれ統括するのに対して、円卓会議は便宜上『何も統治していない』のである。しかし、それでも国家間を跨ぐ組織として発言権や政治的な介入の出来る組織としての影響力などを持ち合わせているのは事実である。だからこそ、その組織はこう呼ばれている。
「勇者の番人」
魔法学校が勇者の発見、冒険者統治機構が勇者の選定、そして最後に任命を行うのがこの円卓会議であるからこその呼び名である。
「そんな組織をどうしてずっと待たせたんだ阿呆なのか」
「……」
ど正論を言われて俺は何も言えなくなったのだが、アレインはその辺のしがらみについて特に何か言うつもりはないらしい。
はあ……。
「認めてもらえるかな」
「大丈夫だよ」
「ボスを勇者に認めないなら私が力で」
「力で、何です」
「⁉」
「あまり入り口でうろうろされても困ります。何時までもメイドたちを立たせ続ける訳にもいかないのでお迎えに上がりました」
「は、はい」
「さあ、お入りください」
そこで、何か紳士服を着た男性に案内される形で俺達は円卓会議の置かれたその組織の屋敷に入っていく。
「ボス。なんだあいつ」
「分かるか。少なくとも」
あの至近距離まで誰にも気づかれないで近づくなんて人の技とは思えない。
「聞こえていますよ。私は人間です」
「え」
心の声が……。
「聞こえています。心の声など」
……。
「さあ、入りましょう」
そうして通された円卓会議の屋敷は、巨大な大理石が継ぎ目のないように見えるよう加工されているのか奇麗な状態で存在している。
そして、中に入れば瀟洒なじゅうたんが敷かれた玄関ホールに並ぶ沢山のメイドたちを俺達は横目にその人についていって案内をされる。
「さて、ここが会場です」
そうやって案内された扉を開けると、中には様残な顔の男やお姫様のような人達が座って待っている。しかし、その男性、俺達を案内した男性を前にすると立ち上がり一斉に挨拶をする。
「グレマリン議長! お帰りなさいませ!」
「グレマリン議長⁉」
その言葉に、俺は信じられない物を見るような目で見てしまう。
「名乗りこそしませんでしたが気が付きませんでしたか。私がガリッーシュ・グレマリン。円卓会議の当代最高議長です」
……。
ガーリッシュ・グレマリン。その名前は少なくとも王国だけでなくあの帝国でさえ迂闊に呼ぶことを躊躇うような男であった。
まさしくその存在こそが冷徹、冷酷、その体現者であるかのように存在し各国に対して一切靡くことも躊躇することもなく常に一線を張り続けるような距離感で接してくる最強の議長。そう呼ばれている。
「お、お初にお目にかかります」
「結構、既にあなたの事はハリスより聞いています。少々面白い冒険者候補がいると」
「はい」
「そこで早速なのですが、私と勝負をしてもらえないでしょうか」
「……はい?」
その声と共に、今までこの席でずっと待っていた人たちが何故か部屋の外に退室を始めて、係員と思われるような人達も机や椅子の撤去を始めている。
「あの、これはどういう」
「最終試験です」
「……」
「最終試験は、私を納得させるに足りる強さを見せなさい。それが出来て勇者と認めましょう」
「……分かりました」
そう言うと、俺はみんなの方を見る。
「うん」
代表してパムラが頷く。それに合わせて他の人達も受け入れたような表情をする。
「なあ、アレインは不参加」
「な訳ないだろう。あれほど強い者が此処にいるのだぞ。据え膳食わぬように申し付ける方が無粋ではないか」
「……なるほど」
アレインをもってしてそう言わしめるほどの怪物。はあ……どうなるのか。
「では、行きますよ」
ガーリッシュさんは拳に何かグローブを嵌めるとそのままファイティングポーズをとる。
「ふういん……」
「反射」
!
「……(しまっ)」
「あなたの魔法の強みはその汎用性の高さと副次的に起こりうる効果の多彩さです。それこそ、今やられたように封印と言えば相手の魔法自体を封印できてしまいます」
ですが……。
「このように反射魔法や同じく封印などの魔法に対して限りなく弱い。効果を自分が受けきる前提で魔法の行使が出来ない。それがあなたの致命的な欠点です」
この人……まるで何度も戦ったみたいに俺の弱点を……。
「てやああああ!」
「パムラさん。あなたの弱点はシンプルです」
ガンッ! と、音を響かせてハンマーは拳であっさりと返される。
「あなたはズバリ海良さんが近くにいると弱くなる、正確には『海良さんがいない状況でこそ強くなる』のです。淫魔の魔族を捕まえた際や海良と長距離離れた場所での戦闘の様な、海良が少なくとも視界にはいない状況で強くなる。逆を言えば、武術を修めていない程度のあなたの攻撃はただの村娘程度に成り下がります」
「そんな……どうして今強くならないの!」
「その理解度の悪さも村娘らしいですね」
どうやって勝つんだ? この状況に……。