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【2024年春】資源・エネ利用注目の横浜市「下水道資源を活用したスマート農業実証事業」を知る

2024.03.25 02:30


栄養分豊富に含む下水処理水、下水熱、CO2含有ガスを農業ハウスに供給

昨今、地中熱など再生可能エネルギー熱等を農業で活用させようという取り組みに関心が高まっています。一方で、冷暖房するだけの建物での利用とは異なり、作物の栽培には栄養や水が必要であるほか、作る作物等によって異なる温度条件など総合的な視点が重要となります。こうした中、横浜市では資源・エネルギーポテンシャルを持つ下水道の資源を複合的に農業で利用する「下水道資源を活用したスマート農業実証事業」が進められており、注目されています。この取り組みを進めている横浜市環境創造局を取材しました。(エコビジネスライター・名古屋悟)

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◆北部汚泥資源化センター内に農業ハウスを設置して検証◆

この実証事業は、循環型社会構築への貢献と農業のスマート化に向け、北部汚泥資源化センター(横浜市鶴見区)内で行われているもの。同じ環境創造局にある下水道関係課と農業関係課が手を結び、センター内に設置された農業用ハウスにおいて、スマート農業機器により温湿度等を制御した環境下、下水再生水や下水熱等の下水道資源を活用した栽培実証が行われています。下水道が持つ資源エネルギーの更なる活用と持続可能な都市型農業の推進という相互が目指す未来像に合致した取り組みになっています。

◆下水道の未利用資源エネルギーの活用とスマート農業の実現◆

両分野の状況を少し解説すると、下水道は地域の生活雑排水を処理し、きれいにした下水処理水を公共用水域に放流するという公衆衛生上、とても重要な役割を果たしている施設ですが、下水の処理水には窒素やリンなど植物の生育に必要な栄養素が豊富に含まれているほか、下水は外気温に比べて夏は冷たく冬は暖かいという特徴があり熱源としても利用可能です。また、下水処理の工程である生物処理を行う反応タンクでは植物の生育に欠かせない二酸化炭素(CO2)を含むガスも発生しています。

横浜市ではこれまでにも下水処理で発生する下水汚泥をバイオガスや石炭の代替燃料として100%再利用するなど下水道が持つ資源エネルギーの有効活用を進めてきましたが、下水再生水や下水熱など今後さらに活用が期待される資源エネルギーもあります。

図1:環境制御システムを備えた農業用ハウスの特徴(「下水道資源を活用したスマート農業実証事業」紹介パンフレットより)

◆持続可能な都市型農業の推進へスマート農業の取り組みに注力◆

一方、横浜市の農業は、神奈川県内で農地面積が最も広く、農家戸数も最も多いという状況にありますが、担い手不足や高齢化など持続可能な都市型農業の推進が課題となっています。このため、省力化や生産性の向上、そのための技術普及が一層求められており、高度な環境制御による農業の効率化などスマート農業の取り組みが進められています。また、農業を取り巻く環境では昨今、肥料に欠かせないリン鉱石の輸入価格が高騰していること等の課題もあります。

◆下水道供給資源含めて環境制御システムでハウス内を自動制御し最適化◆

「下水道資源を活用したスマート農業実証事業」はこうした両分野の思惑が合致した形で始まったもので、下水再生水、下水熱及び下水処理に伴い発生するCO2など下水道由来の未利用資源を有効活用して、農作物等の栽培を行い、東京農業大学など学術機関と連携しながら有用性や安全性等を検証しているほか、農家等に向けた研修や市民・企業等を対象とした見学会等を実施するなどし、スマート農業のプロモーションの場としても活用されています。

実証は、底面かん水による実証、スマート農業普及に向けた研修を行うPRハウスと、下水道資源活用に関する研究として水耕栽培を行う研究ハウスに分けて実施されていいますが、どちらのハウスにも下水処理水、下水処理場の反応槽で発生したガスを脱臭したCO2含有ガスが供給され、下水処理水の熱を利用するため熱交換器を通じた温風、冷風が供給されています。

環境制御システムがハウス内外の環境を遠隔でモニタリングし、天窓や循環扇などのほか、下水処理水、下水由来のCO2ガス、下水熱利用の冷暖房装置など各機器が自動制御されています。これにより植物にとって理想的なタイミングで機器を運転することができ、農業ハウス内環境を最適化し、ハウスでの作業回数の削減、省力化が期待されています。 

下水処理水の供給も興味深く、下水処理水をろ過・滅菌した下水再生水(トイレ用水等に利用している建物もあり)、通常の下水処理水、栄養分を添加した上水の3系統で比較が行われており、生育の違い等も検証しています。下水処理水とその他の差がなければ低コストで栄養分を含んだ水を供給できることが可能となることからその行方も注目されます。

 図2:下水道資源を活かすスマート農業ハウス(「下水道資源を活用したスマート農業実証事業」紹介パンフレットより)

 写真:下水処理水、再生水、上水の3系統で比較栽培(写真提供:横浜市)

なお、研究ハウスでは小松菜やトウガラシ、リーフレタス、アイスプラントなど葉物野菜、PRハウスではシクラメンなどの花卉類が栽培されています。

 

◆基礎研究3年、事業化実証3年かけ◆

2023年から始まった「下水道資源を活用したスマート農業実証事業」は現在、基礎研究の段階。3年間の基礎研究を終えた後、事業化に向けた実証を3年間実施する予定となっています。

事業をマネジメントしている環境創造局政策課では、「実際に下水道資源を活用したスマート農業を検討する農家の疑問や不安にしっかり応えられるように基礎研究を行い、どのような形が事業化に最適なのか等も検証していきたいと思っています」と語っており、今後の事業の行方が注目されます。

※「横浜市下水道資源を活用したスマート農業実証事業」の概要は同市ホームページの以下URLから。

https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/kasen-gesuido/gesuido/torikumi/gesuidoshigenkatsuyo.html 

【記者目線】

未利用の下水道資源・エネルギーとスマート農業の融合はSDGsの実現が叫ばれる中、とても興味深い取り組みです。作物の栽培に必要な水、栄養分、CO2、熱の供給が可能な下水道の大きな可能性を垣間見た気がします。横浜市内の持続可能な都市型農業の実現はもちろんですが、下水処理場近傍で敷地が確保できる環境なら資源・エネルギーを供給する距離も短くなり、大規模な植物工場とのコラボレーションも可能ではないでしょうか。いずれにしても作物に最適な環境を定量的に検証している横浜市の実証は今後も注目すべき取り組みと言えます。