第3話 世界の運営 前編
ああ、私は何を見ているのか。確かに私は地階族なんて滅びるべき。そう思っていた、そのはずなのに目の前でその光景を見せられたら。自分の持ってきた武器で死ぬのを見た瞬間に、これは違う。そう思った。
「何しているのさ! 君は協力してくれるんじゃなかったの⁉」
「急いで救護を!」
アナーとガベテナは慌てて賢者の元に駆け寄る。他の魔界族はそれぞれ何が起きているのかと困惑したり、そもそも興味無さそうにしたり、はたまたおかしい奴だな。そんな風にその光景を見ていた。
「そんな、おい。お前」
「死ぬしかないだろう。せめてお前達に近づきたいという意思の表れだよ」
え? 蘇った? 賢者が……蘇った。
「さて、ぶっつけ本番だったが成功したな」
「どうして、何が起きているの。君の体変だよ」
「どういうことです。自死なされたのでは」
二人が困惑する中。賢者は私の方に近寄って、こう語りかけだした。
「とりあえず、君たちの言い方に則れば地階族と魔界族のハーフに強制的になった訳だが。違和感はあるかな」
「ど、どういうことだ」
賢者に問いかけると、彼はこう言い始めた。
「まずだが、魔界族というのは『人間族が生み出した種族』である。これは知っているかな」
「は? 何を言って」
「その昔、極楽世界……いや天界と言えば伝わるか。そこに住む神様は何を思ったか世界を作った。炎、風、水、土、そしてそれを支える草、光、鋼、氷、雷、闇。これらから世界を造り出して眠りについた。しかし世界作りに飽きた神様は『人間族』を作り始めた。世界に、空に、地下に、色々な所に仲間を作り出した。しかし何時しか、神は地上の者に怒りを向け始めた。お前達の中に『醜いものがいるぞ。そんな者は我らの生み出した完璧な人間族にはありえない』と。そして迫害の末に人間族でも住めないような、地下のの更に奥深くに住むようになった者こそ」
「魔界族」
「ああ。だけれども神様の中にもそんな魔界族を哀れに思う存在もいてね、いわゆる堕天ってやつさ。天使だけじゃないんだね、神様も魔界まで落ちれば堕天って言うらしいね。とにかく、そうして魔界に逃げ延びた者たちを束ねる存在が生まれた」
「まさか、それが魔王⁉」
「可能性は十分あるよね。俺も正直実物を見るまで魔王と神様の存在の類似性に関しては信じていなかったけれど」
力は無い。だが素質は確かにこの中の誰よりもある。そう言われた。
「要するにさ、少し体をいじれば『魔界に適した体になろうと思えばなれる』訳でして。そうして出来上がった武器こそがこの『不死の短剣』なんだ。刺すだけで不死の体を手に入れられるという触れ込みの武器。魔界の種族特有の魔界に適応する為に常に魔法を使い続けているような体をしている状態を参考にして、常に魔法が若返ったり健康になったりする状態を維持し続けるからこそ、結果論として若く長寿になったように見える体になる。人間族基準だけれどね」
「なんじゃ、それは」
「そして、賢者の石。これは単純に魂という存在を『この世界に留める魔法』を使う魔法道具なんだ。人間族の死とは魂と肉体が魔素として還元されて、生命の輪廻に取り込まれることだと俺は定義した。ならば、それを止めれば『永遠に生きられるのでは?』という思想からこの道具が生まれた。まあ、勿論魔法道具である以上はそんなことは不可能なのは百も承知だけれど、魔法を使い続けるために魔素を常に取り込み続ける魔法や魔素を増幅する魔法も付けたら、なんか意外と何とかなりました。外的要因で使われた対象が死ぬのは確認済みだし、死にたくなれば死ぬのも可能だから安全だしな」
「……」
「そして俺のやりたかった、けれど流石に王様では出来ない実験がこれ。賢者の石は常に魔素を増幅する魔法があるおかげで魔素を『世界に供給し続ける』んだ。だけれど、それを『常に魔素を使用し続ける体に還元する』様にしたらどうなるか? 体も長寿で、魂も生きている間とどまり続ける状態が両立する。当然魔法も特に変化なく使えるようになる。そう思っていたんだ」
まあ、賢者の石だけ使ったせいで大変な事になったのが俺の所属していた国の王様なんだけれどね。そういう彼に、私はこう言う事しか出来なかった。
「狂っているぞ、お前」
「さて、その狂っている俺だが、これだけの俺としての覚悟を見せたんだ。やりたいことをやる。良いな」
「えっと」
「何からする気。怖いよ私君が何をする気なのか」
「私も不安ですが……まあ聞きましょう」
魔王様だけ返事が無いが、まあ二人も今の状況で話を聞いてくれる仲間がいるなら教えよう。
「まず賢者と言われる俺の所以を話すために、とあるゲームを説明しないといけない」
「ゲーム」
「『世界と運営』というゲームだ。俺が考案した」
そう言って、俺は自分のマントの中からその箱を取り出した。
「なんだ、これ」
「やり方は麻雀という東方のゲームと、トランプという西方のゲームを混ぜた物をさらに自分流に再構成したものだ」
「はあ」
「まずここにこうして七百枚のカードがある訳だが」
「七百枚⁉」
ペガコーンに驚かれた。というよりこれは理解を拒まれたか?
「これでワンセットだ」
「ゲームにしては多いのでは」
ガベテナにまでそう言われた。やっぱりそうなのかな。
「うん、多いな。しかも手札も恒常的に二十八枚持ってプレイするゲームだ。おかげで『カードを持って理解するだけ』で相当な技量が必要なゲームになっている」
「魔法で持つ、もしくは何か道具を使って確認できるようにする。とにかく工夫が必要なゲームですな」
「そういう事。でも、出来るようになると『魔界進行が上手になる』触れ込みで俺が売ったら大盛況だった」
あーあー、皆が信じられないって顔をしているよ。
「こんな物が売れるのか?」
「まあね。だって、生まれ持った潜在適性と相性の関係を理解するためのゲームだからな」
「潜在適性?」
「ダンジョンを攻略するとき、やたらと三人組や五人組で動く冒険者って多くなかったか」
「ああ、確かにそうですな」
「それね、ちゃんと意味があるんだよ」
俺達にはこんな格言がある
・先ずは五人の上位者が九人の下位者を従えて、二組で競い育てあいなさい。さすれば指導者として一人前だろう。
・次に五人組を五つ、三人で管理しなさい。そうすれば統率者として優秀だろう。
・最後に三人組九つから信頼を勝ち取りなさい。さすれば賢者として間違いないだろう。
「だからね、運営形態として28人を基準に作るのが主流の上に、五人組か三人組で下位者は動くのが普通なんだ」
「なるほど」
「これを踏襲して、28人のグループを必ず集めて一つの運営組織をくみ上げることが出来るようになるようにする。そんな風に考えて、誰でも気軽に出来るようにしたのがこのゲームだ」
「絶対に気軽じゃないぞ」
それは言わない約束。
「しかし、その潜在的適性とはどうやって知るのですか」
「これを使う」
「これは」
「地階にもあるギルドっている組織や、その他魔法学校なんかでも使われている『才能の宝珠』っていうアイテムだよ。これでね、どの才能に向いているのかが分かるって寸法だよ。俺が発明した」
例えば……そう言って俺は宝珠を自分に向ける。
「ほら、俺の職業として『農民』が出てきている」
「農民なのか?」
「いや、ここで言う農民は『生産職』って事。つまり俺は魔法属性や、地理的な環境による要因より、職業としての適性による才能が開花しやすいって事だったんだ。実際、俺は道具を考えるのが好きで、突き詰めていたら『錬金術師』として色々な道具を勝手に錬金することに目覚めて何時しか賢者って呼ばれたしね」
「そう言えば、この宝珠もゲームも、あなたが考案もしくは発明したと」
「そ、俺の始まりはそもそ勇者たちとの冒険での才能じゃなくって、こういった道具の発明と使用なんだ」
「うわー、生粋の研究職だったはずなのに魔王軍壊滅させる賢者にもなれるとか反則でしょう」
ペガコーンにそう言われた。
「で、ゲームに戻るけれどとりあえずまずは役を覚えてもらおうと思う」
「役?」
「こういう潜在的な才能を持った人たちを集めれば強くなる。そう言った役をね」
「なるほど」
「まあ頑張ってね」
麻雀とトランプの融合だからめっちゃ大変だよ。