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小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第一章 再来 24

2024.03.30 22:00

小説 No Exist Man 2 (影の存在)

第一章 再来 24

「つまり……。」

 阿川首相が口を開こうとした所、今田陽子はハイヒールで阿川の足をけった。

「あ、いや、失礼」

 阿川は、蹴られた足を見た後、その目の前に飯島外務大臣がいることに気づいた。ここで中国のたくらみをいうことは、あまり良いことではない。飯島だけではなく、外務省の役人の中には「チャイナスクール」と言われる中国の影響を大きく受けてしまっている官僚が少なくない。そのように考えれば、不用意に話をすること自体がリスクなのである。

「何か」

 北野内閣調査室室長が聞き直した。本当にこの男は、全く気が利かない。いまだは、そのような面から北野をにらみつけたが、北野は全く気付かない。

「いや、つまり、中国大使館が麻薬の取引に関与しているということかな」

「そんなはずはあり得ない」

 飯島悟は、阿川の言葉が終わらないうちに、そのことばにかぶせるように大声を出した。

「あり得ないのですか」

 阿川は改めて行った。

「ああ、そうだ。そんなことも知らないで総理やっているのかね。中国はアヘン戦争で国家を失う危機に立たされたから、アヘンや麻薬などに関しては特に厳しい処罰をしているのだ。それは政府の役人であっても同じことであろう。そんな国が政府を挙げてアヘンや麻薬を使うことなどするはずがないであろう。世界で唯一の被爆国の日本が、核兵器を持たないのと同じだよ」

 飯島は阿川首相を小バカにしたようにいうと、鼻で笑った。

「北野君、そう言うことなんだが、では、何故麻薬の取引をしたマフィア王獏会が、中国大使館が実質的に借りている倉庫に行ったのかな」

 阿川は、北野に再度質問をした。北野は困惑の表情で今田に助けてほしいというような目を向けたが、今田陽子はそれを無視した。今田陽子にしてみれば、そもそもこのような話になるので、飯島外務大臣などと一緒にここに来ること自体がナンセンスなのである。そのようなことがわからない人が、国家の情報のトップにいること自体が何かの間違いであるし、同時に日本が情報大国になれない一つの事情になってしまっているのである。そのような言いmで、今田は、非常に北野に対して腹を立てていた。

 多分、この事を北野に詰問すれば、官僚特有の上下意識が出てきて、自分は完了でしかなくて外務大臣という感触にある人が一緒に期待と言えば拒むすべはないと異様なことになってしまうのであろう。しかし、それくらいの方便も使えないようでは、そもそも阿川内閣の中で働く資格があるのどうかも疑わしい。ましてや、中国が日本に害をなそうとしているときにこのようなことでは困るのである。

「北野室長は、よろしければ、その点をもう一度調べなおしてこられてはいかがでしょうか」

 今田は、少しの沈黙の後、その様に北野に言い放った。これ以上時間を無駄にすること自体がリスクなのである。こうしている間にも、中国大使館がウイルスをどこかにばら撒くかもしれないのである。

「は、はい。そうします。」

 北野は、席を立つとそのまま部屋から出ていった。飯島も、情報のトップがいなくなってしまっては新たな情報が入るはずがない。ましてや今回の内容は、飯島自身がその話を止めてしまったような形になったのである。

「北野君が出るならばいっしょに出るかな」

「飯島先輩も、是非北野室長と同じように、協力して調べていただけるとありがたいです」

「ああ、そうするよ」

 飯島も北野と一緒に出ていった。今田は、そのあとに立って、府蟻が出て行ったあと、廊下に出て軽く頭を下げた後、そのまま応接室の扉を閉めた。

「先ほどの話ですが、まさに総理のお考えの通り、麻薬にウイルスを混ぜてばら撒くつもりなのかもしれません。もちろんこれは今気づいたことですが、警察などでは、麻薬の捜査はしていますが、その他通常の営業許可などでは麻薬などには気づきません。それに、麻薬は常習性が高いうえ、少量で多くの人に行き渡ります。そのように考えれば、効果的に頒布する手段かもしれません。同時に、麻薬の保持者は警察などから隠しますから、ウイルスそのものも見つかりにくいのかもしれません」

 今田は、一気にその様に言った。今まで何故気づかなかったのであろうか。そもそも、九州の暴力団と香港のマフィアがわざわざ東京の、それも羽田近郊の中国大使館の借りている倉庫の近くで取引をするということ自体が「違和感」があっておかしくない。ましてや、そこにウイルスがあるということは、当然に麻薬の取引が行われたということに他ならないのである。

「今田さん、もしも今田さんの仮説が正しいとした場合に、今、九州の暴力団、たしか津島組と言いましたか、あと、香港のマフィアが持っている麻薬には、、まだウイルスが混在していないということになるでしょう。中国大使館も、中国の政府の態度、まあ、飯島さんが言っていたような麻薬に対する警戒が強い段階で、麻薬を扱い、それが中国人の間に広まっては良くないので、極力麻薬を自分たちの近くにはおかないでしょう。つまり、今回の取引で麻薬を中国大使館が手に入れるということだったのではないかと思います。ということは、まだ大使館の手に渡っていない二つの組織にある麻薬は、まだウイルスには感染してないということになりますね」

「はい、そうなります」

「では、すぐに二つの組織の事務所や関係先を家宅捜査してください。」

「すぐに手配します」

「そのうえで『蛇の道は蛇』ですから、東御堂殿下や嵯峨殿下に、その内容をお知らせください。ウイルスを麻薬に混ぜるといっても、今回のような感染力の強いウイルスであれば、専用の施設がなければならないでしょう。つまり、その施設を探さなければならないのです。津島組の麻薬の取引量と、汪獏会の麻薬の取引量、その二つの量の差が、多分、頒布用の麻薬ということになるはずです。その量を両殿下に調べていただきたいというようにお伝えください。」

 阿川は冷静であった。

「かしこまりました。では、さっそく……」

 今田が席を立とうとすると、阿川が今田を呼び止めた。

「今田君、九州や各空港にも注意を喚起してください、それと、橘大臣に防衛科学学校でウイルスのより詳細な解析を急ぐように伝えてください。」

 阿川はそう言うとソファーに全身を預けて、天井を見上げた。

「総理、お疲れですか」

「そりゃ、そうだよ。中国だけではなく、未知のウイルスと戦わなければならないんだから」

 阿川は笑いながら言った。

 今田は、自分の執務室に入ると、すぐに橘にウイルスの解析だけではなく、どのような条件で感染するかなどまで全て調べるように総理が言っているということを伝えた。橘は、若手ナンバーワンの呼び声も高いので、今回の事態を良く把握していた。そして、すでにその解析を行うように自衛隊に命じていた。もちろん極秘であり、外務省などにも伝えないように言っていた。

 そのことを確認したのちに、今田は、警察に汪獏会と津田組の関係先をすべて家宅捜索するように命じると、そののちに東銀座の事務所に向かった。