第14話 五千万ゴールド
「闘技場の規則は把握しているかな」
「規則」
勝負の後、必死に即興だが考えた作戦があっという間に……まるでそんな作戦を立ててなんかいなかったかのように片づけられた後、彼女はこう言いだした。
「ああ、欲しい物を強者が手に入れる。弱者はそれを代替品か何かで提供する。その規則は」
「……」
分かっていた。その話は。正直闘技場に来たタイミングで何かおかしいななんてことはずっと思っていた。やけにどの人もこの人も勝負をした際に……負けることを嫌がっていた。
「どうせ失うなら妖精にも死んでもらった方が……渡す側は何も渡さなくて良いから。正確には過剰戦闘による罰則免除になるから助かる。そういう理論らしいな」
「ですが、俺はそれをしなかった。あくまでもこのままでは今まで勝って来た人達には罰則として何かを差し出す必要が出てくる」
「そして、私も君に同じく何かを求めることが出来る。それに私はかなり君より格上だからな。よっぽどの内容じゃないと満足しないぞ」
「待って! 彼は許して!」
その時、俺にはその声が誰の声だか直ぐに分かった。
「ペスティ」
「私が苦しむなら構わない。でも誠はそれ以上に大変な思いをもうしているから! だからこれ以上苦しませないで」
「ペスティ」
「安心しろ。私は君たちを離れ離れにさせるつもりなどない」
そこで、騎士団長はこう宣言した。
「葛城誠。私は君を私の部下として正式に採用したい」
「……は?」
「要するに私が君に求める勝利の報酬は、君自身だ」
何を言っている? 俺を採用?
「待ってください。いきなりそんなことを言われても。なんで俺が」
「勿論すぐには無理だ。だから期限を設けよう」
「期限」
「一年。一年で五千万ゴールドを集めるんだ。出来なければ君は私の元でただ働き。これで決めよう。もちろん拒否権なんかは無しだぞ」
そう言って彼女はその場を出て行ってしまった。
「どうするの! 五千万ゴールドなんか集められる訳がない!」
闘技場の規則とはいっても、俺は突然に莫大な借金を押し付けられることになった。それをペスティはものすごく嘆いていた。
「こんな状況じゃあ契約してくれる妖精だって」
「思ったより悲観する状況じゃないかもしれないぞ」
「何処がよ! この状況でそんなに大金が手に入る目途なんて!」
「お前のおかげであるかもしれない」
「私⁉」
俺は極論の打開策について話すために。確認を取った。
「確かペスティはこっちの世界のお金を日本円に……俺の世界のお金に換える能力を持っていたよな」
「ええ……妖精としての権能によってそれが手に入ったの。それに正確には物でも大丈夫だし」
「例えばだが……、俺は今回あの騎士団長の敗者としてあの条件を吹っ掛けられただけじゃなくって、それまでの闘技場での戦闘の勝者として色々な報酬を得られたんだ」
「うん、確かにそうだけれど」
「それで気が付いたんだが……俺の能力の上昇で日本円からこっちのお金に換える能力が強くなったかもしれない」
「どういう事?」
「俺の能力はさ」
【お金(日本円)を課金するほど強い能力や恩恵を入手できる能力】
「何だよ」
「うん」
「でさ、能力の上昇を基本的に俺は等しく分配していたんだ。誰が弱いとかのそう言うしがらみを無くしたくて」
「まあ、変に順番とかに贔屓をしたら反感買うだろうしね」
「でも、ペスティの能力を上昇させると……俺の日本円をゴールドに換えた時の貰えるゴールドが増えているんだ」
「え?」
その話に彼女は目を点にさせていた。
「現状の俺のレベルがレベル九。そしてペスティもそれ以上強くならなくって」
「待って。あなたのレベルがレベル九ってどういう事。なんで知っているの」
「ステータス蘭見ていたらそれっぽい数字があったんだ。なんかやたらと目立つ場所にあるのに下がりはしないけれど中々上がりもしない数字。しかし、妖精と契約した時やお仕事してもらった時にお菓子をあげた時、後は闘技場での戦闘だな。あれで確率っぽいが上昇するみたいだった」
「それ……ええ。なんかなんでそんな大事な数字気が付かないのよ」
仕方なだろう、まさかそれほど大事な数字だと思わなかったし……ステータス画面だってギルドの人が見られる訳じゃないから説明をされても分からなかったから説明を受けていたことだって伝えていないし。
「そん位伝えろ馬鹿!」
怒られた……悪い。というか頭の中読まれた。
「まあ……そんな訳でだがそのレベルの数字の上昇によって日本円からゴールドに変換することで得られる金額を見たんだが。今の状況でも最低金額の七百ゴールドで前までは二百五十円だったのが今は四百五十円。約二倍に増えているんだ」
「ふんふん。なるほどなるほど……え? じゃあ三倍程度の金額が手に入るまで私のレベルが上がれば」
「ペスティが物を日本円に換金する。そしてそれを俺がゴールドに換金する。そして、ゴールドを日本円に換金する。そうするだけで」
「無限にお金が手に入る!」
「勿論使用制限とかの可能性はある。日本でそんなにお金を何度も何度も動かしていたら……しかも金額が膨大になれば怪しまれるのがおちだからな。でも」
「やってみる価値はあるって事ね! 私ゴールドならきっちり一ゴールド一円のまま変わらないから気が付かなかったわ!」
そんなことを堂々と報告されても。そう思ったがどちらにしてもやることは変わらない。
「「レベル上げ!」」
そしてそのために。
「ダンジョン巡り!」
「闘技場!」
なんでここで意見が割れるかな……。
「あいつが闘技場に何度も足しげく通っているだと?」
「はい。それに最近やたらと契約している妖精の数も増えているようでして……」
「気にするだけ無駄だ。放っておけ。どうせ闘技場にいる間はそのうち負けるだろう」
ギルド長のそんな声が聞こえるが。私は葛城さんの変な行動を不審がっていた。
「契約している妖精が多すぎる」
確かにそれは……彼の情報からすれば何もおかしくないのだろう。ガチャなんていうよく分からないが手軽に契約を結べる存在がある上に、最近は普通に妖精と契約を結べるように積極的だし。そもそも闘技場にいるという事は闘技場で強い妖精を新たに契約できる可能性だってあるという事だ。だけれども……。
・染め色妖精(中位)
・忠誠妖精(中位)
・黒鉄妖精(中位)
・葡萄妖精(中位)
・探求妖精(中位)
・おにぎり妖精(中位)
・工芸妖精(中位)
・お菓子妖精(中位)
「多すぎる……この短期間で中位の妖精ばかりを八人も」
しかも……契約時には下位妖精だった妖精もいる……これはどういう事。
「あの、受付嬢さんいませんか」
「あ、はい! 今行きます!」
そこで、噂の葛城さんが来たため私は急いでそっちに向かった。
「お待たせしました。ご用件は何でしょうか」
「えっとですね。今出しますね」
そう言って彼は何かの入った袋を差し出した。そして、私はその中身を見て、思わず絶句した。
「あの、これは……」
「五千万ゴールド分の金貨です。先日闘技場に来られていた騎士団長の方にお渡ししたいのですが名前が分からないため……調べてもらう事は可能でしょうか?」
「はい?」
この日、私の担当する冒険者がレベル十六での最高取引金額を大幅に更新してしまった。