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中山治美の”世界中でかき捨てた恥を回収す”

アカデミー国際映画長編賞フィリピン代表はコレ

2024.04.01 08:57

今年のアカデミー賞では、役所広司主演&ヴィム・ヴェンダース監督『PERFECT DAYS 』

国際長編映画賞の最終候補作5本に選ばれて、話題になりました。

各国代表が顔を揃える同部門は、映画界のオリンピックか?ワールドカップか?ってくらいに注目しているのですが、全てを見る機会はなかなかありません。

そんな中、例年3月に開催される大阪アジアン映画祭は、時期的にアジアの代表作がやってきます。

フィリピン代表がコレ。『行方不明』

そう、アニメーション。

日本では同時期に、長編アニメに特化した新潟国際アニメーション映画祭も開催されていたワケで……。

大阪アジアン映画祭のプログラミング・ディレクター暉峻創三氏の目利きぶりが光ります。

監督は、ソフトウェアのエンジニア出身のカール・ジョセフ・パパ監督。

長編『ビリンおばさん』(2015)はアヌシー国際アニメーション映画祭で長編コンペティション部門やなら国際映画祭2016に選出されるなど、すでに国際舞台でその名を轟かせている気鋭監督です。

本作は、フィリピンを代表するインディペンデント映画祭「シネマラヤ」の開発助成支援を受けて制作され、第19回の同映画祭で最優秀作品賞と、最優秀助演女優賞(『逆転のトライアングル』にも出演したドリー・デ・レオン)、NETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞しています。

主人公は「口のない」アニメーターです。

文字通り、口がありません。

ろう者をこういう表現で描くなんて!

と、腹立たしく思い、途中で席を立とうかとも思いました。

しかしそれは、筆者の早合点でした。

幼少時代に親族から性的虐待を受けた彼は、秘密にすることを強要され、感情を封じ込めさせられたのです。

その後、物語が進むにつれて彼は目も、腕も、性器すらも失っていきます。

だからこのタイトル。

上映後のQ&Aでパパ監督が本作に込めた思いを説明しました。

「この映画は、私のパーソナルな話が元になっています。2018年のある日、知人の訃報を伝えるメッセージが流れてきました。その名前を見て、過去に彼から性的虐待を受けた記憶が蘇ってきました。その時の感情の対処法として、この物語を書いたという経緯があります。

トラウマを抱えている人は、そのことについて話せないというだけではありません。人によっては仕事を失ったり、モノが見えなくなったり、人と親密になるなど対人関係で問題が出てくる例もあります。それを物理的に表現するために、身体を失うという描き方にしました」。

また今回アニメーションの手法として、ロトスコープ2Dアニメを使用しています。そこにも意味があるそうです。

「ロトスコープは、2001年にWOWOWで見たリチャード・リンクレーター監督『ウェイキング・ライフにインスパイアーされて使用しました。ロトスコープは、現実とフィクションの境が曖昧になるので、(主人公の深層心理を表すような)何が現実で、何が幻想か?を表現するのに最適だと思いました。2Dアニメーションは主人公のフラッシュバックのシーンで使用しています。2Dは、子供の頃の純粋さを表現するのに適していました。こちらは、音声を先に録音して、それに合わせてアニメを作っています(*プレスコ)」。

ちなみにパパ監督は、デビュー作の短編『eMo』はクレイアニメ。

同じく短編『ANG PRINSESA, ANG PRINSIPE AT SI MARLBORITA』はストップモーション。


先に紹介した『ビリンおばさん』はモノクロと、作品毎に手法を変えています。

自分のスタイルを貫く監督が多い中、パパ監督の映像表現へのあくなき探究心に敬服。

これぞ映像作家なり。