【読書びとサロン】vol.24 悩み多きあなたへ 誠意あるビジネス書 「イシューからはじめよ」
タイトル:イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」
著者:安宅和人
出版社:英治出版
だけじゃない!ビジネス書の誠意
本書は、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、ヤフーでビッグデータ戦略を担当している安宅(あたか)和人氏が書いた「知的生産性」の高い仕事をするための指南書です。
2010年の発売当時に大変な話題となり、それ以降も売れ続けているロングセラーなのですが、他の数多ある知的生産のビジネス本(あるいはHowto本)と何が違うのでしょう。
私も最初に読んだ時には目からうろこで、もっと早くこの考え方を知りたかったと思いましたし、その後の仕事のやり方も変わり、人生にもずいぶんプラスの影響を受けていると感じています。
即答ですが、ココなのだと思います。人生へのプラス、それを実際に体感できるような(体感へ誘う) “拡がりを持った”本なのですね。
そういうスケール感を持ちながら、思想ではなく丁寧な具体が提供され、実行を容易にしている。
多読で、ことビジネス書系は少なからず読む私ですが、“ビジネス書の誠意” を強く感じる稀な一冊ですね。
イシューって? 「問題をきちんと置く」
さて、そんな本書では、漫然と仕事をしていると「犬の道」を通ることになるとしています。
犬の道というのは、何でもかんでも一心不乱に片っ端からこなしていこうとすることで、大量にこなすことでバリューある仕事にたどり着こうとすることです。
本書では、これは絶対にやってはいけないことであり、必ず初めに「イシュー(issue)度」を見極めろと言います。
下図のブルー矢印を辿れ!と。
イシュー度の低い仕事をいくらやり続けたとしても、間違いなくバリューのある仕事はできないからです。
皆さんも一度、目の前にある仕事の「イシュー度」をチェックしてみましょう。
そして、その仕事は本当に取り組むべき仕事か、思考するために時間を費やすべき仕事かを確認してみましょう。
イシュー度の見極め方としては、自分の置かれた状況において、
「その問題に答えを出す必要性が高いか」と、
「そのイシューに対してどの程度まで明確な答えを出すことができるか」
という二つのポイントから考えていきます。
つまり、必要性の高い問題だったとしても、明確な答えを出すことができない問題はイシュー度が低いのです。
(この、明確な答えが出せているか、が上の図の「解の質」です。)
この点は特に重要です。
私も仕事をする中で問題が発生すると、最初に考えるのは「落としどころ」です。
「こうすれば、ああなるから、これが最善の解決策になるだろうな」という仮説を立て、それを検証する作業をこなしていくイメージです。
どんな形であろうとも、解決策が導き出せない問題は、そもそも問題ではないのです。
本書では、この「問題(課題)をきちんと置く」ことの重要性、そして、解決策をさぐるプロセスも詳細に説明しています。
悩むことなかれ!
また、本書の冒頭には、全体の基盤として次のようにあります。
『「悩む」とは答えが出ないという前提のもとに「考えるフリ」をすること』 であり、
『「考える」とは答えが出るという前提のもとに建設的に考えを組み立てること』で、
この「悩む」と「考える」という2つは、似て非なるものである、と。
これも本当によく分かります。
問題が起きたときに、“どうしてこんなことになったんだろう” と悩んでばかりいて、“どうすれば解決できるか” までなかなか至らない人もいると思います。
もし、皆さんが何かの問題を抱えて “悩んでいる” とすれば、その問題の答えが出ない前提で悩んでいるのではないでしょうか。
その問題を「考える」ことのできる段階まで落とし込めていかなければ、いくら「悩んで」も解消にはいたりません。悩みのリサイクル、あるいは増幅、という苦闘がぐるぐると巡るだけになってしまいます。
問題を前にして悩むより、それが本当に問題なのかを考える習慣をつける。
そして、もし仕事が上手く進まない場合はこの本に書いてあることを思い出してみましょう。
そうすることで、ぱぁーっと目の前が明るくなるような感覚をきっと味わえるはずです。
この爽快体験を得るきっかけとなることが、本書の大きな魅力の一つ。
シンプルな極意が、仕事も人生も深みのある豊かなものにしてくれるのではないかと思います。
ビジネスパーソンだけでなく、“悩み”に苦悩する方々にお薦めしたい一冊です。
読書人:花村 泰廣
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