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宗淵寺/願興寺

「キツネブーム」はまだ続く?

2024.04.10 03:00

昨年末、地元のラジオ局に出演させていただいた際にお話しした原稿起こしを、多少増補し書き直して、以下に掲載します。


現在放映されている『仮面ライダーガッチャード』の前作に当たり、昨年の9月ごろまで放映されていたのが『仮面ライダーギーツ』。そのキャラクター造形のモチーフは「キツネ」でした。

ルックスもそうですが、内面的にも民話の中で登場するキツネのように、変化して人をだます要素が組み込まれていました。そもそも「変身」というギミック自体が、元々はキツネの専売特許ではありますね。


そして物語が進むにつれてギーツは神に等しい存在になっていきます。そして最後は祠に祀られるという、「完全にお稲荷さん」という展開でエンディングを迎えました。


見続けて感じるのは、『仮面ライダーシリーズ』はその時代背景が作品に色濃く反映されていることです。

例えば『仮面ライダー龍騎』(2002/H14)は、前年に発生したアメリカ同時多発テロの影響で、13人の仮面ライダーがお互いの「正義」のために戦い合う(存在を消し合う)作品でしたし、さらにその10年後に放映された『仮面ライダーウィザード』(2012/H24)は、前年の東日本大震災を受けて、愛する人との死別、立ち直りがテーマでした。


勝手な考察ですが、やはり『ギーツ』にも時代背景との因果関係が見て取れます。放送が始まった2022年、キツネにまつわるある一大ブームがあったのです。キツネダンスです。

実はそれだけではなく、同時期にはキツネがモチーフとなった作品が数多くありました。

『チェンソーマン』がアニメ化され、『狐の悪魔』が印象的に描かれていました。マキシマムザホルモンによるエンディングテーマでも「コン」ってブレイクがありました。『スラムダンク』の流川くんも、キツネキャラでした。

音楽においても、韓国で登録者400万人超えのユーチューバーRaonさんが、妖怪変化をテーマにした呪術的な歌詞のダンスチューン『キツネノマド』で日本デビューをしましたが、楽曲制作はAdoさんの『唱』も手がけたGiga & TeddyLoidでした。個人的にもよく聴いた楽曲です。


このように私の見立てでは、2022年は「キツネブーム」とも言える現象があったと思っているのですが、実はおよそ10年ほど前からその芽吹きがありました。それがベビーメタル(通称 ベビメタ)です。

ベビメタはキツネのハンドサイン(メロイックサイン)を決め、メタルミュージックの神様である「キツネ様」のお告げによって活動していて、元々メタルと悪魔崇拝(サタニズム)は親和性が高かったとはいえ、ファンやリスナーはその神秘的な世界観を共有することで熱狂を生み出し、高い音楽性も相まって世界的な成功を収めました。実は2022年のキツネブームは、ベビメタが「キツネ様」のお告げによって活動休止中の、その空白を埋めるようなトピックスでした。

ここにきて、なぜキツネに焦点が当たるようになったのでしょうか。


キツネは民話の中ではずる賢くて人を化かす存在ですが、一方で古くからお稲荷様も使いとして神聖視されてきました。

山陰中央新報にも寄稿をされている哲学者の内山節さんによると、1965年(S40)を境に「人はキツネにだまされなくなった」、とおっしゃっています。その前年が最初の東京オリンピックで、日本が戦後復興から高度経済成長期を迎えた頃に当たります。

それまでの自然とも近い土着的な暮らしから、個を重んじる都市型で合理的な暮らしが望まれるようになり、それまでのキツネ的なもの、合理的でない不可視な存在は忘れられていった、というのが内山さんの説です。


でも今の日本は、もはや低成長かむしろ下降している感すらあります。ベビメタの世界的流行では、むしろ積極的に「キツネにだまされる」という関係性が構築されています。

私は、経済成長期の価値に対する揺り戻しとして、かつてのローカルで非合理なものに回帰する類型の一つが「キツネブーム」ではなかったか、と見ています。

例えば人が悪いことをすると、今は監視カメラに映ったり、ネットで晒されたりしますが、昔は「お天道様が見ている」とされました。曰く言い難く人智を超えた偉大なる何か(見えないけれど確かにおる)、を共有する感受体験の象徴、正にその使いとして、キツネが私たちの身近に出てくるようになったのかもしれません。


さらに付け加えると、今世界では戦争の気配を色濃く感じます。国家的な全体主義のために、キツネのような超常的な概念が都合よく利用されたのが、かつての戦前の日本だったということも、私たちは忘れてはいけないと思います。(参考:「二つ三つの守ること」


コロナ禍が明けて、私たちはこれからの暮らしをどのように立て直していくか。古いものの中には残しておくべきだったことも、もう止めてしまっていいものも、両方混在していることでしょう。それをどう取捨選択し、自分自身の生活や価値を立て直していくか。それがコロナ禍が明けた私たちの生き方のテーマでもありますが、そんな「温故知新」につながる要素が、私は「キツネブーム」にあったと思っています。(住職 記)