降りやまぬ火に息殺す受難節
https://blog.goo.ne.jp/hal-niwa/e/bcc97bed9294e3ec74807a24a1e60d41 【ぽかぽか春庭「俳句という名の舟に乗り」】より
ぽかぽか春庭知恵の輪日記>おい老い笈の小文(9)俳句という名の舟に乗り
ネット海の航海、俳句という名の船に乗り
俳句を趣味とする人々、俳聖芭蕉の忌日(時雨忌)に、一句ものしただろうか。時雨忌は、陰暦10月12日だから、季語としては冬である。
季語の中でも忌日を読み込んだ句は初心者にも作りやすい。忌日の主の生涯のイメージを作品中にもりこめるからである。歳時記から忌日によせて拾う。
時雨忌や暁波はがしはがし航く(角川源義) 老人は朝が早い、暁のネット海の航海
太宰忌の視線岐れて郷にいる(平畑静塔) 津島佑子の父、太宰の故郷は津軽
啄木忌いくたび職を替えてもや(安住敦) 私、春庭も転職13回。
釘買って出る百貨店西東忌(三橋敏雄) 自傷行為に使うため釘買う人もいるだろう
我も手に釘打ちぬいてみる修司の忌(春庭)
春庭腰折れ、イタタッ! イエスと寺山修司と西東三鬼をイメージしたんですが、何か?)
高齢者の趣味の中で人気の高い「文芸」。中でもダントツ一番人気は「俳句」である。 短歌や詩を趣味とする人、自分史執筆を目指す人などの人数に比べると、俳句人口は格段に多い。
日本語文芸の極みまで奥深く分け入ることもできるし、初心者が仲間と腰折れひねって遊ぶこともできる。歳時記一冊、ノートとえんぴつさえあれば、いつでもどこでも、一人でも仲間とでも遊ぶことのできる、究極の遊び道具。
パソコンと俳句を連動させて遊びたい人向けに、「パソコン利用俳句自動作成ソフト」がある。次から次へ5,7,5,のことばが自動的に繰り出されてくるソフト。それを組み合わせて俳句ができあがり。小学校の国語科教材として利用している先生もいる。
風野春樹作成の俳句ソフト『風流』が作り出した作品を紹介しよう。
http://member.nifty.ne.jp/windyfield/diary9807a.html#06 風野春樹「サイコドクターあばれ旅、読冊日記98年7月上旬より)
夏の葉がさざめき古都をなぐさめる 去年今年過ぎゆくキスとなりにけり
歯ブラシを恐ろしく見る新年会 葉桜や馬鹿を愛して法隆寺
眩しさや窓辺虚しく包む雪 薔薇の死や嘆く悲劇を傷つける
チューリップ散って短き罪ぞ咲く 卒業式恋しく逃げる抱きしめる
吹き飛ばす蝿の世界の娘の死 馬鹿も咲く頭明るき年賀状
なまじっかの初心者より、よほどすぐれた句を生み出すのがパソコン宗匠であることがわかるだろう。
このソフト『風流』は、MS-DOSで作成されたので、現在のパソコン環境では使えないというのが残念。最近のパソコンで簡単に遊べる『風流』のような俳句作成フリーソフトをご存知の方、メールでご一報を。(留学生の日本語教育クラスで遊んでみたい)
☆☆☆☆☆☆
春庭千日千冊 今日の一冊No.20
(て)寺山修治『句集 花粉航海』(キーワード抽出は春庭)
花粉>十五歳抱かれて花粉撒き散らす 自らを清めたる手に花粉の罰
母 >蜂の巣の千の暗室母の情事 母とわが髪からみあう秋の櫛 出奔す母の白髪を地平とし
蝸牛>家負うて家に墜ち来ぬ蝸牛 眼の上を這う蝸牛敗北し
夏> 蟻走る患者の影を出てもなお わが夏帽どこまで転べども故郷
そこに見え遠き世にある団扇かな
そして、1983年5月に47歳の生を閉じた寺山の人生を象徴する、句集『花粉航海』冒頭の一句。
五月>目つむりてゐても吾を統ぶ五月の鷹
『花粉航海』初版は1975年深夜叢書社刊だが、2000年に角川春樹事務所から文庫が出た。
私が23歳のとき、母が死んだ。母亡きあと「母が残した俳句を句集にまとめて、三回忌法事に出版する」という目標がなかったら、私は母のあとを追っていただろう。
散逸した母の句を、新聞雑誌の投稿俳句欄に入選した句などから拾って、一句一句寄せ集めていく作業を続けて、ようやく「たとえ55年の短い生涯であっても、母にとっては、母なりの充実した人生であったのだ」と思えるようになった。
母の残した俳句のおかげで、母亡き後の人生を生きることができたのだ。
来年はその母の享年になる。
~~~~~~~~
20141202
姉の享年54歳も母の享年55歳も超えて、私はふたりが経験しなかった高齢者の人生を知ることになった。
俳句や短歌を生きがいとして晩年をすごそうとしていた母になりかわって、たまに駄句ヘボ歌をひねってみることもありますが、どうにもこうにも、コンピュータ宗匠ほどの作はかないませぬ。 ぐだぐだの駄句転がして長夜かな(春庭)
http://sogyusha.org/saijiki/01_spring/fukkatsusai.html 【復活祭(ふっかつさい)】より
「イースター」と英語をカタカナ表記にしたものも季語となっている。イエス・キリストがゴルゴタの丘で磔刑に処せられ、3日目に復活昇天したのを記念する日。誕生を祝うクリスマスと共に、キリスト教の二大祝日である。春分後の最初の満月の後の日曜日がイースターとされ、毎年日にちが変る。3月22日から4月25日までのいずれかの日曜日ということになるわけで、平成18年の今年は4月16日がイースター・サンデーである。
明治維新後、キリスト教の禁教令が解かれて日本にも信者が一挙に増え、一方、文明開化の掛け声と共に西洋の文物が怒濤の如く押し寄せ、復活祭というものも知れ渡るようになった。
俳句の世界でも大正時代あたりから西洋のものを季語に取り入れる動きが盛んになり、クリスマスと並んで復活祭もぼつぼつ詠まれるようになった。「パスハ」「パスカ」と詠まれること
もある。これはギリシャ語で言う復活祭のことである。
英語のEaster、ドイツ語のOsternはゲルマン神話の春の女神エオストレ(Eostre)から出ている。それ以外のヨーロッパ語の復活祭はすべてギリシャ語のパスカを語源にしており、その
パスカも古代ユダヤ教の過ぎ越しの祭ぺサー(Pesach)から出た言葉だという。つまり、冬を越し新しい年のめぐりを喜ぶ、春を迎える儀式と、イエス・キリストの受難が結びついた行事のようである。今日でも復活祭には彩色した卵を飾ったり食べたりするが、これは新しく生まれるものの象徴であり、春を祝う際のシンボルとされた古代の名残と言われている。多産の象徴ウサギがイースターのシンボルになっているのも、豊饒を祈る春祭の名残である。
イースター・サンデー前の40日間(神に捧げる日とされる日曜日は勘定に入れないから正確には45日前になる)を四旬節(レント)と言い、キリストが荒野を彷徨った40日間に思いを馳せて、肉断ち、禁欲、懺悔の日々を送る事になっている。
この四旬節に先立つ日月火の3日間が謝肉祭(カーニバル)で、大いに飲み食らうどんちゃん騒ぎを繰り広げる。リオのカーニバルが世界的に有名で、ニューオーリーンズのマルディグラ(謝肉祭の最終日)のパレードも名物になっている。このカーニバルはまさに春を迎える祭りで、ローマ時代の農耕神サトゥルヌスの祭礼で鯨飲馬食の乱痴気騒ぎをしたことが淵源とされている。
こうした古代からの民俗とキリスト教が結びついて、カーニバルからイースター、さらにはその後の昇天祭(復活祭後40日)に至る、キリスト教信者にとっては延々と続く春の一大イベントが出来上がっていった。
とにかくキリスト教にとっては大昔から伝えられて来た大切な行事だが、大多数の日本人にとっては輸入物のお祭りである。どうも貸衣装を着たような気分がつきまとう。ことに、俳句という日本独特の詩に取り入れようとした場合、無理が目立つようになってしまう。イースターという片仮名でなく「復活祭」という日本語に移し替えてみても、季語としてのふくらみが十分に得られない。
どの歳時記でもいい。復活祭の例句を見ると、あまりこなれた句とは言えないようなのが並んでいる。景山筍吉のような敬虔なカトリック信者は「桜草の鉢を抱へて復活祭の娘」「三女
また修女を希ひ復活祭」と、復活祭を身近に引き寄せているが、「雨粒小僧復活祭の池にはね」(平畑静塔)や「復活祭蜜蜂は蜜ささげ飛ぶ」(石田あき子)などになると、句としては面白いが復活祭が季語として働いているようには思えない。蜜蜂が蜜を捧げるように飛んでいるというのは、いかにも復活祭と似つかわしい光景だが、似つかわし過ぎて、どうも理に落ちているような感じがしてしまう。「中央寺院へ衷甸駆る木の間パスハ祭」(飯田蛇笏)となると、ルビがなければとても読めないし、句としてもエキゾチシズムに頼りすぎではなかろうか。
ただ、何でも呑み込んで栄養にしてしまう所が日本人の特徴である。都合の良いところだけを取り入れて、大いに利用する。最近の結婚式は「キリスト教風」が非常に多い。その方がカッコいいから、と若い人たちは言う。教会も最近はビジネスを十二分に心得ているから、両性とも信者でなくとも簡単に引き受ける。復活祭もカーニバルもそういう気分で取り組めばいいのかも知れない。宗教行事であることはさておいて、カーニバルは春の訪れを祝うものとして、復活祭は春たけなわの感じを表す言葉として、気軽に俳句にも取り入れればいいのだ、と考えれば気が楽になる。
仰向き歩みつ髪結ふ乙女復活祭 中村草田男
素手のまづしさ復活祭の卵つかむ 平畑静塔
復活祭妻が湯浴みの音も更く 村沢夏風
粧ひて婢が休み乞ふ復活祭 下村ひろし
復活祭手摺れ聖書に夫の文字 及川貞
なにがなし善きこと言はな復活祭 野澤節子
卵の影二重に復活祭の夜 有馬朗人
岳の日が森にあかるし復活祭 沢田緑生
かさなって仔犬ねむれり復活祭 三島隆英
たんぽぽはパスカの花よ地に充てる 山下青芝