輝いて見えるのは
【詳細】
比率:男1:女1
現代・ヒューマンドラマ
時間:約10分
【あらすじ】
稽古場の裏手の階段。
今回の公演でダブルキャストのAチームの主役を演じることになった園田。
でも、彼女には悩みがあって……
【登場人物】
園田:(そのだ)
今回の公演で初めて主役を演じることになった役者。
高橋:(たかはし)
今回の公演でもキーパーソンを演じるベテラン役者。
●稽古場の裏の階段
台本片手にぶつぶつと台詞を繰り返す園田。
園田:「だから私たちはここから一歩を踏み出さなくてはいけないの!」……なんてね……
(ため息をつき)……なんなんだろう……
高橋:おうおう、どうしたどうした?
園田:っ! 高橋先輩!
高橋:お疲れ
園田:お疲れ様です
高橋:隣いい?
園田:どうぞ
高橋、園田の隣に座る。
園田:……
高橋:で?
園田:え?
高橋:どうした?
園田:え?
高橋:今日のうちのチームの稽古はもう終わったぞ?
園田:そういう先輩だって……
高橋:俺は大場待ち。稽古終わったら飲みに行こうってうるさいんだよ
園田:明日から小屋入りなのに元気ですね
高橋:小屋入りだからなんだろうさ。景気づけ的な?
まぁ、いつも同じ座組になると付き合わされるから俺は慣れてるけど
他に被害者を出さないためにも、抑止力は必要だろ?
園田:(苦笑して)それは確かに……
高橋:んで、お前は?
園田:あ~
高橋:俺は理由話したんだ。次はお前の番
園田:……
高橋:ほれほれ、吐いちまえ吐いちまえ
園田:ちょっ、圧
高橋:(得意げに微笑み)こういう時じゃねぇと使えないからな。今回、そういう役じゃねぇしな
園田:いつもは圧な役どころなのに
高橋:言い方よ。まぁ、俺は幅が広いからな
園田:確かに
高橋:だから、ほれほれ、そんな大きくて寛大で包容力に溢れる先輩に悩みを話してみな
園田:自分で言っちゃうんですね
高橋:言う分にはタダだからな
園田:……その優しい先輩は見逃してはくれないんですか?
高橋:見逃していいもんなら見逃すが? お前は本当に見逃してほしい?
園田:……
高橋:ほれほれ。吐いちまったら楽になるぞ
園田:……ちょっと凹んでたんです
高橋:ん?
園田:最後の通しであんな失敗しちゃって……
高橋:あぁ、あれか
園田:はい
高橋:あんなん気にするな気にするな。誰だってやらかす事あるだろ
園田:……でも、よりによって最後の通しで……
高橋:あぁ、それで凹んでるのか
園田:……はい……
高橋:でも、よかったんじゃねぇの?
園田:え?
高橋:今日失敗したんだから本番ではもうやらかさないだろ
園田:……ですかね……
高橋:そうだよ。それともなんだ? お前は同じ失敗を繰り返すやつだったか?
園田:そんなことはしないです!
高橋:だろ
園田:……
高橋:ん? なんだ~? 不服そうな顔だな?
園田:別に……
高橋:当ててやろうか? だまし討ちにあったって思ってるだろ?
園田:っ!
高橋:いつも通り分かりやすいな
園田:……
高橋:真面目な所はお前の長所だが、短所でもあるよな
園田:……自覚してます……
高橋:そうかそうか。そりゃよかった
園田:……先輩
高橋:ん?
園田:……
高橋:どうした? 何か言いたいことがあるんだろ? 吐け吐け
園田:……本当に私でよかったんでしょうか?
高橋:は?
園田:この前、Bチームの通し稽古を見学させてもらったんです
高橋:おう
園田:えっちゃん、凄く輝いてました
高橋:えっちゃん? あぁ、草津ちゃんか。確かにキラッキラしてたな
園田:……同じ主役なのに……私とは大違いで……
高橋:……お前、それ本気で言ってんの?
園田:え?
高橋:草津ちゃんは輝いてんのに、自分はそんなことないって本気で言ってんのかって聞いてんの
園田:……思ってます……
高橋:(大きくため息をつき)お前さ、俺たちのこと舐めてんの?
園田:え?
高橋:だから、俺たちのこと舐めてんのかって聞いてんだよ
園田:先輩たちを舐めるなんてしません!
高橋:いいや、舐めてるね
園田:そんなこと!
高橋:俺たちのチームの主役が輝いてないとか、馬鹿にすんのも大概にしろよ!
園田:っ!
高橋:俺たちは俺たちのチームの座長を信じて芝居してんだよ。それを否定するなんて馬鹿なことするな
園田:……先輩……
高橋:確かに、草津ちゃんはお前には輝いて見えるだろうさ。それはなんでかわかるか?
園田:……今回の役に適任だから……じゃないんですか?
高橋:ば~か、違ぇよ。彼女にあの役を演じる適性があるのは確かだけどな
それよりももっとはっきりとした理由があるんだよ
園田:はっきりとした理由……
高橋:知りたいか?
園田:知りたいです
高橋:そうかそうか。でもなぁ、これは俺も長年芝居をやってきて気が付いたことだからなぁ
そんな簡単に教えるのもなぁ
園田:先輩!
高橋:おうおう、そんなに怒んなよ
園田:だって!
高橋:必死だな
園田:当たり前です!
高橋:じゃあ、その必死さに免じて教えてやるよ
園田:はい!
高橋:それはな……
園田:それは……
高橋:お前が外から見てるからだよ
園田:……は?
高橋:隣の芝生は青く見えるってよく言うだろ? まさにそれだよ
草津ちゃんのことは別のチームで客観的に見られるから輝いて見えるんだ
中に居たら見えないことが多い。自分のことなら尚更な
園田:そんな……
高橋:(遮って)ことないって言えないだろ?
事実、お前は今、草津ちゃんと自分を比べて落ち込んでる
園田:……
高橋:なぁ、園田
園田:……はい
高橋:安心しろ。お前はよくやってるよ
園田:っ!
高橋:稽古中、通しでお前何回もフォローしてただろ
あれは台本を理解して、自分の立ち位置と物語を理解していないとできないことだ
園田:それは、動けるのは私の役だけだから、当たり前で……
高橋:その「当たり前」が大事なんだよ。「当たり前」と「努力」をいっぱい積み重ねて芝居は出来てるんだ
園田:あっ……
高橋:だろ?
園田:はい
高橋:だから、お前は自分を、そしてチームの皆を信じろ
園田:信じる……
高橋:あぁ、信じるのは甘えるのとは違う。大事な事だぞ
園田:……肝に銘じます
高橋:まぁ、そんな堅苦しく考えるな考えるな。いつものお前でいいんだよ
園田:……はい!
高橋:どうだ? 少しは元気が出たか?
園田:はい。ご心配をおかけしました
高橋:別に心配はしてねぇよ
園田:え?
高橋:(ニカッと笑い)俺はお前がいい役者だって知ってるからな
園田:先輩……
高橋:さてと……もうちょいしたらあっちのチームも稽古終わるな。お前も飲みに来るか?
園田:小屋入り前なんですから、羽目外しすぎないでくださいね?
高橋:はいはい。我らが座長の仰せのままに
園田:先輩!
高橋:わかってるよ。お小言の園田
園田:ちょっ!
高橋:ほれ、置いてくぞ。あ、その前に……
園田:なんですか?
高橋:その泣いた跡だけ拭いてこい
園田:っ! 先輩!
高橋:先に行ってるわ~
高橋、園田を置いて去る。
高橋:うちの主役は何を心配してるんだか……
お前はうちの座組で一番輝いてるよ
なんてったって、俺らが全力で支えたいって思ってる奴なんだからな
ー幕ー
2024.04.15 HP投稿
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