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紅く色づく季節

輝いて見えるのは

2024.04.14 16:51

【詳細】

比率:男1:女1

現代・ヒューマンドラマ

時間:約10分


【あらすじ】

稽古場の裏手の階段。

今回の公演でダブルキャストのAチームの主役を演じることになった園田。

でも、彼女には悩みがあって……



【登場人物】

園田:(そのだ)

   今回の公演で初めて主役を演じることになった役者。

   

高橋:(たかはし)

   今回の公演でもキーパーソンを演じるベテラン役者。




●稽古場の裏の階段

   台本片手にぶつぶつと台詞を繰り返す園田。


園田:「だから私たちはここから一歩を踏み出さなくてはいけないの!」……なんてね……

   (ため息をつき)……なんなんだろう……

高橋:おうおう、どうしたどうした?

園田:っ! 高橋先輩!

高橋:お疲れ

園田:お疲れ様です

高橋:隣いい?

園田:どうぞ


   高橋、園田の隣に座る。


園田:……

高橋:で?

園田:え?

高橋:どうした?

園田:え?

高橋:今日のうちのチームの稽古はもう終わったぞ?

園田:そういう先輩だって……

高橋:俺は大場待ち。稽古終わったら飲みに行こうってうるさいんだよ

園田:明日から小屋入りなのに元気ですね

高橋:小屋入りだからなんだろうさ。景気づけ的な?

   まぁ、いつも同じ座組になると付き合わされるから俺は慣れてるけど

   他に被害者を出さないためにも、抑止力は必要だろ?

園田:(苦笑して)それは確かに……

高橋:んで、お前は?

園田:あ~

高橋:俺は理由話したんだ。次はお前の番

園田:……

高橋:ほれほれ、吐いちまえ吐いちまえ

園田:ちょっ、圧

高橋:(得意げに微笑み)こういう時じゃねぇと使えないからな。今回、そういう役じゃねぇしな

園田:いつもは圧な役どころなのに

高橋:言い方よ。まぁ、俺は幅が広いからな

園田:確かに

高橋:だから、ほれほれ、そんな大きくて寛大で包容力に溢れる先輩に悩みを話してみな

園田:自分で言っちゃうんですね

高橋:言う分にはタダだからな

園田:……その優しい先輩は見逃してはくれないんですか?

高橋:見逃していいもんなら見逃すが? お前は本当に見逃してほしい?

園田:……

高橋:ほれほれ。吐いちまったら楽になるぞ

園田:……ちょっと凹んでたんです

高橋:ん?

園田:最後の通しであんな失敗しちゃって……

高橋:あぁ、あれか

園田:はい

高橋:あんなん気にするな気にするな。誰だってやらかす事あるだろ

園田:……でも、よりによって最後の通しで……

高橋:あぁ、それで凹んでるのか

園田:……はい……

高橋:でも、よかったんじゃねぇの?

園田:え?

高橋:今日失敗したんだから本番ではもうやらかさないだろ

園田:……ですかね……

高橋:そうだよ。それともなんだ? お前は同じ失敗を繰り返すやつだったか?

園田:そんなことはしないです!

高橋:だろ

園田:……

高橋:ん? なんだ~? 不服そうな顔だな?

園田:別に……

高橋:当ててやろうか? だまし討ちにあったって思ってるだろ?

園田:っ!

高橋:いつも通り分かりやすいな

園田:……

高橋:真面目な所はお前の長所だが、短所でもあるよな

園田:……自覚してます……

高橋:そうかそうか。そりゃよかった

園田:……先輩

高橋:ん?

園田:……

高橋:どうした? 何か言いたいことがあるんだろ? 吐け吐け

園田:……本当に私でよかったんでしょうか?

高橋:は?

園田:この前、Bチームの通し稽古を見学させてもらったんです

高橋:おう

園田:えっちゃん、凄く輝いてました

高橋:えっちゃん? あぁ、草津ちゃんか。確かにキラッキラしてたな

園田:……同じ主役なのに……私とは大違いで……

高橋:……お前、それ本気で言ってんの?

園田:え?

高橋:草津ちゃんは輝いてんのに、自分はそんなことないって本気で言ってんのかって聞いてんの

園田:……思ってます……

高橋:(大きくため息をつき)お前さ、俺たちのこと舐めてんの?

園田:え?

高橋:だから、俺たちのこと舐めてんのかって聞いてんだよ

園田:先輩たちを舐めるなんてしません!

高橋:いいや、舐めてるね

園田:そんなこと!

高橋:俺たちのチームの主役が輝いてないとか、馬鹿にすんのも大概にしろよ!

園田:っ!

高橋:俺たちは俺たちのチームの座長を信じて芝居してんだよ。それを否定するなんて馬鹿なことするな

園田:……先輩……

高橋:確かに、草津ちゃんはお前には輝いて見えるだろうさ。それはなんでかわかるか?

園田:……今回の役に適任だから……じゃないんですか?

高橋:ば~か、違ぇよ。彼女にあの役を演じる適性があるのは確かだけどな

   それよりももっとはっきりとした理由があるんだよ

園田:はっきりとした理由……

高橋:知りたいか?

園田:知りたいです

高橋:そうかそうか。でもなぁ、これは俺も長年芝居をやってきて気が付いたことだからなぁ

   そんな簡単に教えるのもなぁ

園田:先輩!

高橋:おうおう、そんなに怒んなよ

園田:だって!

高橋:必死だな

園田:当たり前です!

高橋:じゃあ、その必死さに免じて教えてやるよ

園田:はい!

高橋:それはな……

園田:それは……

高橋:お前が外から見てるからだよ

園田:……は?

高橋:隣の芝生は青く見えるってよく言うだろ? まさにそれだよ

   草津ちゃんのことは別のチームで客観的に見られるから輝いて見えるんだ

   中に居たら見えないことが多い。自分のことなら尚更な

園田:そんな……

高橋:(遮って)ことないって言えないだろ? 

   事実、お前は今、草津ちゃんと自分を比べて落ち込んでる

園田:……

高橋:なぁ、園田

園田:……はい

高橋:安心しろ。お前はよくやってるよ

園田:っ!

高橋:稽古中、通しでお前何回もフォローしてただろ

   あれは台本を理解して、自分の立ち位置と物語を理解していないとできないことだ

園田:それは、動けるのは私の役だけだから、当たり前で……

高橋:その「当たり前」が大事なんだよ。「当たり前」と「努力」をいっぱい積み重ねて芝居は出来てるんだ

園田:あっ……

高橋:だろ?

園田:はい

高橋:だから、お前は自分を、そしてチームの皆を信じろ

園田:信じる……

高橋:あぁ、信じるのは甘えるのとは違う。大事な事だぞ

園田:……肝に銘じます

高橋:まぁ、そんな堅苦しく考えるな考えるな。いつものお前でいいんだよ

園田:……はい!

高橋:どうだ? 少しは元気が出たか?

園田:はい。ご心配をおかけしました

高橋:別に心配はしてねぇよ

園田:え?

高橋:(ニカッと笑い)俺はお前がいい役者だって知ってるからな

園田:先輩……

高橋:さてと……もうちょいしたらあっちのチームも稽古終わるな。お前も飲みに来るか?

園田:小屋入り前なんですから、羽目外しすぎないでくださいね?

高橋:はいはい。我らが座長の仰せのままに

園田:先輩!

高橋:わかってるよ。お小言の園田

園田:ちょっ!

高橋:ほれ、置いてくぞ。あ、その前に……

園田:なんですか?

高橋:その泣いた跡だけ拭いてこい

園田:っ! 先輩!

高橋:先に行ってるわ~


   高橋、園田を置いて去る。


高橋:うちの主役は何を心配してるんだか……

   お前はうちの座組で一番輝いてるよ

   なんてったって、俺らが全力で支えたいって思ってる奴なんだからな



ー幕ー


2024.04.15 HP投稿

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