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紺碧の採掘師

第4章03

2024.04.22 16:11

 カルロスは必死に森の中の獣道を走っている。

 相手の探知を妨害しながら相手を探知するのは慣れているが、走り続けながら複数の存在に対してそれを行い、更に自分の進路も探知するというのは前代未聞の荒業で、心の中で愚痴を言う。

 (アンバーまで加わりやがって、難易度上げるなよ、全く!……あっ、黒船が動いた。この進路だと恐らく護が流された川を頼りにあの湖を目指している。流石だ上総、気づいたか。お蔭で管理も付いて来る訳だが!)


 黒船のブリッジでは操縦席の総司の左隣に立つ上総が必死に探知を続けている。

 探知エネルギーの高さに上総の身体の周囲が若干青く光り、駿河と総司はそれを見ながら上総の光、初めて見たなと思っていると、上総はイライラしたように右手を額に当てて、前髪を掻き毟って叫ぶ。

「カルロスさん……もう、どこなんだよカルロスさん!」

「あまり、無理しなくていい。アンバーも探してくれているし、航空管理の応援も何隻かこちらに向かっている」

 駿河がそう言うと上総は駿河に詰め寄るように船長席側に近寄って叫ぶ。

「嫌です!だってお前が見つけろとあの人に言われた!もし仮にあの人が護さんが流れた方へ行ったなら、川の流れに沿って湖を目指す筈、だからこの辺に絶対、いる!」

「……」

 凄まじい気迫に、駿河は黙り込む。上総は涙を浮かべて

「例えどんなに探知妨害されても絶対に見つけてやりますよ。だって、それが、あの人の望みだから!」

 そこで堪らず涙が零れ、慌てて服の袖で涙を拭う。

 (……こんな上総、初めて見た……)

 探知に集中する上総の青い光を見ながら、駿河は思う。

 それから目線を落として、密かに静かな溜息を漏らす。

 (どうして、カルロスさん、なぜ俺に何の相談も無く……。7年も一緒に居たのに、信頼、無かったんだな……)

 カルロスの言葉が脳裏に蘇る。


 『私の能力が信じられないと?!』


 (いや、信じていた、信頼していた、けど……)

 その時、上総が「あっ」と声を上げ、駿河もハッと我に返って上総を見る。

「これ、何だろう……いや、今はこんなの関係ない!」

 総司が慌てて「待て上総。何だ、何があった?」

 上総は悩みながら「んー、これ、もしかして、前にカルロスさんが言ってた遺跡かも」と首を傾げる。

 総司と駿河が同時に「遺跡?」と言い、あの時の事を思い出す。


 『かなり巨大な人工建造物らしきものが……でも人が居ない。これは何かの遺跡ですね、多分』


 駿河は「あぁ」と言ってから、ふと「いや、でも。もしかしたら彼はそこへ向かうかもしれないぞ。だって徒歩だろ?どこかで休むとしたら」

 上総が「遺跡!」と納得の顔で頷く。

 総司も頷き「なるほど、一理ある」

 駿河は上総に「とりあえず行ってみよう。何か手掛かりが掴めるかもしれない。上総、進路の指示を」

「はい!」



 管理の船の後方を飛ぶアンバーのブリッジでは、剣菱が呆れ果てたように「まーったくもう!」と天を仰ぎ「護の時は、前科があるからアンバーは来るなって言った管理が、今回は一緒に外地に来いと!しかも管理の船が何隻か応援に来るって……何なんですかねぇ?」

 そう言って左隣に立つ穣を見ると、穣は皮肉な笑みを浮かべて「大事にされてんなぁカルロス」と呟く。

 剣菱は腕組みして「それにしても。黒船さんは明言しないが、断片的に聞いた話から考えると……なにゆえ逃亡したのか」

 途端にマリアが「やっぱりそうなのかな!」と剣菱を見る。

「多分、推測だけども。……だって森の中とはいえ探知が二人いる時に片方を見失うってのはさ。しかも護も見つからないし。なにより管理さんの捜索の意気込みが護の時とは全然違うし」

 穣は顎の下に右手を当てて、うーん、と唸ってから

「でも、ちょっと信じられねぇけどな。あいつが黒船から逃亡するなんて」

 操縦席のネイビーも同意する。

「だよね。何かよっぽど嫌な事でもあったのかな……」

「つーか、そもそも一人で外地に出るのは」穣の言葉にすかさず剣菱が「そこなんだよ」と反応する。

「いくら凄い探知でも、一人で外地ってのは無謀だろ?つまり、どうしても外地に出たい理由があったんだな」

 そこへ透が「人生嫌になっちゃったとか?」

 穣が手を振って「いやアレは自殺するようなタイプじゃないな」

「思うに……」剣菱はそう言って少し間を置くと「あの人は以前、護を探知した。恐らく護が生きてるってのは嘘じゃないと思う。彼はそこに向かったんじゃないかなぁ……」

「なぜ?」透が問う。

「さぁねぇ」剣菱は溜息混じりに答える。

 穣も溜息をついて呟く。

「あいつ一体、何を探知したんだよ……」



 黒船は管理の船とその後ろのアンバーを引き連れて、遺跡へ向かって飛び続ける。

 ブリッジ前の通路には緊迫した空気が漂い、結構な人数が集っているのに誰も何も喋らず、ブリッジ内の上総が進路指示をする声と総司の返事だけが、時折沈黙を破る。

 駿河は船長席でレーダーや計器に目を向けてはいたが、頭は思考で一杯だった。答えの出ない問いが駿河の頭を駆け巡る。

 (なぜ、こんな事に。外地に一人で出るなんて、そんな無謀な事を、どうして……。あの人の事だから確証の無い事はしない筈、恐らく無事とは思うけど、しかし万が一、もしも命を落としたら……、俺は一体どうすれば)

 不安で心が潰れそうになり、無意識に右手で胸を押さえる。

 そこでふと、カルロスの言葉を思い出す。


 『……貴方は、本当にそれでいいのか。……お前は、そんな奴なのか?』


 (あれは、どういう、意味だったのか……)

 苦渋の表情で俯いて悩む。あの時のカルロスの尋常ではない気迫。なぜあんなに、と思った時。

「なんか少し、曇って来た」

 総司の声にハッとして船窓前方を見る。そして「えっ?」と目を見開く。

 同時に総司も「え?」と驚きの声を上げて「いつ雲の中に入った?一瞬で曇ったぞ!」

「大丈夫、俺が探知してる!」

 上総の強い声に、総司も駿河も唖然とする。

「なんか変な雲があるって分かってたし!それに、あの人だったらこの状態でも絶対行ける!」

 その言葉に駿河が「そう、……確かにそう言っていた……」と呟く。

 (でも、俺が止めたんだ……)

 ついに窓の外は真っ白になり、視界がゼロになる。

 レーダーを見ていた総司が「おや」と呟いて「船長、後続の奴が」

 駿河もレーダーを見ながら「うん。航空管理の船が速度を落とした」

「嫌な予感。もしかして止まるのかな」総司が言うと、駿河も

「そんな気がする。こんな状況、前にもあったな」

「ありましたね。まさか管理はまた天候悪化で捜索中止とか言わないだろうな」

 上総は「そんなの嫌です!」と叫ぶと「とにかく行ける所まで……あっ、そうだ!今回はアンバーが居るので、アンバーの探知を中継すれば、管理波が無くても黒船は遺跡の所まで行けます!」

「なるほど!」総司の叫びと同時に駿河はパンと手を叩き

「そうか!管理と黒船の間にアンバーを置いて、探知人工種同士で繋がるのか。ならば航空管理の船が止まっても」と言ってあの時の事を思い出す。

「……あの時は、行かなかった。あの人に、あれだけ懇願されても。しかし今回は、可能な限り行く」

「はい」総司は頷き「了解です、船長」と力強く答える。

「よし管理とアンバーに連絡する」

 慌てて総司が「最初にアンバーに連絡を!」

 駿河は「うん、管理は後だろ、大丈夫。……言い方が悪かった」と微笑む。



 暫く後、アンバーは管理の船を追い越して、黒船の所に飛んで来る。

 剣菱はグッタリした様子で「人工種管理と話すのはマジで疲れる……」と呟くと、天を仰いで大声で愚痴る。

「何で20分も不毛な電話交渉せにゃならん!危険だから遺跡に行くなとかアホな事ばっか言いやがって、しかも応援の船が来れねぇってどういうこっちゃあ!」

 ネイビーが操縦しながら「船長落ち着いてー」と言い「管理と、ブルーの満さんと、どっちが面倒なのかな」

「どっちもだ!本気でカルロスさんを探したいならとっとと許可出せや、管理め!こっちが突っ込んだ質問したら、のらりくらりと逃げやがって、一体何を隠してやがる!」

 そこへ穣が「船長、ひとつ提案があるんですが」

「ん?」

「その遺跡って所に黒船の連中だけ行かせるのは心配なんで、俺も行かせてくれませんか。黒船に打診して欲しいんです。何か役に立つかもしれんから、バリア職人を一緒に連れてってくれと」


 数分後。

 黒船は雲の中で停止している。船体上部の甲板ハッチが開いて風使いのメリッサと夏樹が甲板上に出て来ると、風を操って周囲の雲を薙ぎ払う。すると船の後方、斜め上に茶色い船体がうっすら見えて、徐々に黒船の上に近づいて来る。

 メリッサが「もうちょっと視界を取りたいけど、雲が厚くて無理か」と言うと夏樹も「ですね」と同意し「すぐ曇ってしまう。でもまぁ一応見えるし」

 アンバーは船底の採掘口を開けて黒船の甲板に接近し、停止する。採掘口から穣が黒船の甲板に飛び降りると、メリッサと夏樹と、甲板ハッチで待機していたレンブラントが出迎える。

 穣は「いやーすまんねぇ突然。ちょいとお邪魔しますわ」と言いレンブラントに続いて甲板ハッチの中に入り、背後の夏樹を見て「レンブラント君は出身が同じだから知ってるけど貴方、名前は?」

「夏樹です。風使いの紫剣(しづるぎ)夏樹」

「ほぅ。製造師は紫剣先生か。貴方は?」と夏樹の後ろで甲板ハッチを閉じているメリッサを指差す。

「周防メリッサ、風使い」

 すると穣はなぜか少し焦り気味に「そ、そうですか」と言いレンブラントを追ってハッチ内の階段を降りる。

 レンブラントは穣を食堂へ案内して「目的地に着くまでここで待機です」

 食堂の中に入るとジェッソや昴達が居る。穣はつかつかと歩いてジェッソの斜め向かいの席に座ると脚を組んで腕組みをして言う。

「お久しぶりでござんすなぁジェッソ君!何やら黒船もお困りのようなのでアンバーから助っ人に参りました!」

「まぁ黒船はアンバーがお困りの時に助けてやったからな」

「単刀直入に。あのカルロスが黒船から逃亡した理由って何なの」

「逃亡かどうかは」

 穣は右手でパンとテーブルを叩き「あのカルロスなら普通は何がどうでも黒船に戻ろうとする筈だ。なのにこっちが探しても音沙汰無いって事は、黒船に戻りたくねぇって事だろ」

 ジェッソは暫し黙ってから「理由は本人に聞かなければ分からない」

「でもまぁ凄いわな。自らこんな事態を起こす、その意志が」

「それは言える」

「無事だといいっすねぇ!」



 黒船はアンバーから離れて真っ白な雲の中を飛ぶ。

 ブリッジでは上総が探知しながら「この遺跡、なんか凄いな……」と呟く。

 駿河が「凄い?」と聞き返す。

「うん。カルロスさんの気配は無いけど、凄いもの見つけた。……総司さん、この辺りで一時停止して下さい」

「了解」

 上総は目を閉じたまま「どこに着陸しようかな」と悩み顔で自分のおでこを指で叩く。

 駿河が若干、心配気に「視界ゼロで着陸か……」

 その時、総司が船窓を見つつ「あ、霧が若干晴れて……」そこで言葉を切る。

 駿河も船窓から見える景色に目を見開く。

「建物が!」総司が叫んで前方を指差す。

 ボンヤリと、大きなビルや舗装された道路といった都市のようなものが見える。

「これ、遺跡……?」駿河が呟く。

 上総も目を開けてそれを見ながら「凄いですよね!」

「うん、まるで、どこかの都市……あそこに行っていいのだろうか」駿河はそう言ってから慌てて「いや、行かねばならない。どこに着陸する?」


 黒船は大きなビルのような建物の上に着陸する。船底の採掘口が開いてタラップが下ろされ、上総を先頭に採掘メンバー達がタラップから建物の屋上に降りてくる。

「なんだここは……」

 レンブラントが周囲を見回しながら呟く。

 ジェッソも「これはかなり予想外だった」と言い、上総を見て「人の気配は無いのか?」と聞く。

「はい。なんか全く人がいないって、不気味ですね。あんまり詳しく探知したくない」

「確かに不気味だな。そこまで古くも無いし」ジェッソの言葉にレンブラントが

「建物が無事って事は戦争や自然災害ではなさそうだし、疫病とか、何かヤバイものが発生したとか」

 思わず上総が「ええ」と嫌そうな顔をしてレンブラントを見る。

「んでも死体っぽいのは無いです」

「そこまで探知してたのか」

「うん。だって気になったし。あと、んー……」と唸って何か考えてから「ここ、そんな危険じゃないです。よく採掘場所が洞窟とかだと危険かどうかチェックするけど、危険だと真っ赤なイメージが来るけど、ここはそれが無い」

「ほぉ」レンブラントは感心して「キチンと仕事してんな」

 上総は「だってカルロスさんなら……」そこで言葉を切ると、俯いて黙る。

 するとその時、再び霧が出てきてジワジワとメンバーを包み始める。

 ジェッソは「霧が出て来た。長居は出来ないな」と言い一同を見て叫ぶ。

「とりあえず周りの様子をザッと見て、戻ろう」

 既に屋上の端の方へ行っていた昴がスマホを掲げて叫ぶ。

「記録写真、撮っといたー!」

 穣は「なにぃ。こんな事なら俺もアンバーからスマホ持ってくるんだった」と言いつつ昴の方へ走り寄る。

「昴君」

「写真あげないよ」

「そんなー」と言って穣は「あれ?」と昴の左斜め後ろの何かに気づく。

 更に「あれぇ?」と昴を通り越して屋上の柵の所へ走る。

「あ、カメラ!こっち来て、あれ撮って!早く!」と何かを指差す。

「なになに」

 昴は穣の所に駆け寄りスマホのカメラをその方向に向けて「どれ?」

「壁の字だ!」とやや斜め下の大きな建物を指差す。

「え!」昴も気づいて驚く。

「御剣(みつるぎ)人工種研究所?!」

 その言葉に皆が驚き、穣たちの所に来る。同時に霧が濃くなり視界が悪くなってくる。

 ジェッソが慌てて「待った、霧が濃くなってきた。上総、あの建物は」

 上総は探知しつつ「確かにあの建物の中、なんとなく人工種製造所っぽいような」

「なるほど。行って調査してみたいが、この霧がどうなるか」

 穣は昴に「写真撮れた?」

「勿論。でもあげないよ」

「発見したの俺なのにー!」

「じゃあ1枚だけあげるから、後で穣のメルアド教えて」

「よし」

 そこへメリッサが怪訝な顔をして言う。

「この霧、なんか変よね。湿っぽくない」

 夏樹も「言われてみれば。あまり湿気が無い」

 ジェッソが叫ぶ。

「とにかく全員、一旦船の中へ!」

 一同はとりあえずタラップを上がり、採掘準備室へ戻る。

「どうする上総、霧が晴れるのを待って再び行くか?」ジェッソの問いに

「行きたいんですが、ずっと探知してるから、ちょっと疲れが」と上総はやや疲れた顔で答える。

「あまり無理するな」

「でも……うん、そうですね。じゃあアンバーの所に戻ります」

「では採掘口を閉める」ジェッソは壁の操作盤の所へ歩く。

 上総も「カルロスさん、どこ行ったんだろう……」と溜息をついて「ブリッジ行きます」とトボトボと階段室の方へ。

 その時、穣が「ちょい待った!」と上総を呼び止めると「ここって管理波が届かない場所なんだよな。って事は、管理はこの遺跡を知ってんのかな?」

「知らないと思います」

「って事はだよ。もし仮にこの遺跡に人が住んでたらさ、航空管理の把握してない街があるって事になるやん」

「う、うん」

「そしたらカルロスが居なくなるのも納得なんだけど」

「どうして?」

「どうして、って……」

「護さんは知りませんが、カルロスさんは戻って来て、皆に『こんな街があった』とか教えてくれてもいいじゃないですか」

 穣は「んー……」と困り顔をしつつ「だって管理が把握してないって事はそこに住んでる人間は、管理と関係無い筈なんよ。それを管理に報告するってのはさ……」と言い、悩んで「うーん、この遺跡の事を管理に報告して良いのかなぁ」

「報告します。だって、研究所の事とか言わないと」

「それ!」穣は上総を指差すと「もし仮に。その御剣人工種研究所の事を、管理も誰も知らなかったら、どうする?」

「え?」

「仮にあそこで人工種が作られたとして、生まれた奴はどこへ行ったのか!」

 その言葉に、話を聞いていた皆がハッ!と衝撃を受けた顔になる。

 上総も暫し呆然としてから「あっ!」と声をあげて「そういえば、初めて感じる、って……カルロスさんが、あの時に」


 『誰かが、いる……。わからない。これは、初めて感じる……』

 『護さんの近くに、人が……?』


「カルロスさんは、人間が居る、とは全く言ってない……。皆が勝手に人間だと思い込んだ。じゃあ、カルロスさんが、あの時あんなに強引に、護さんの所へ行こうとしたのは」

「何だよそんな事があったのか。やっぱ本人に聞かねぇとワカランもんだな」

「その、謎の存在を、確かめたかったから……?」

 上総は穣を見つめる。

 ジェッソも穣を見て「その為に、今、黒船から逃亡したと……?」

 穣はニヤリと笑って「まぁ真偽はともかく、話の筋は一本通るわな!」

 ジェッソは神妙な顔で「確かにこれは、管理に報告すべきかどうか」

「報告してみよう。管理がどんな反応するか気になる」

「だが……まぁ、そうだな。反応を見てみないと」

「もしそれで管理がカルロスまで捜索打ち切りにするようなら、ビンゴって事だ」

 上総が「何が?」と問うと穣は意味深な顔で言い切る。

「管理が隠しておきたい何かをカルロスが探知し、護がそこに関係するって事さ!」

「そっか……」溜息混じりに上総が呟く「あの時カルロスさんは、一体何を探知したんだろう……」

「それを知る為に全てを捨てて飛び出したんだ、行かせてやろうぜ」

「え」上総は驚き「行かせる?」

「だってあいつ、自己意志で自ら行ったんだぜ?」

「そんな!あの人が居なくなったら誰が黒船の探知を」

 穣はバシッと上総を指差す。

「お、俺はまだ全然」

「嫌ならあいつみたいに黒船から逃げちまえ」

 すると上総は激昂して「そんな事はしません!だって、俺は、あの人の弟子ですから!ブリッジ行きます!」と言い放ち、ツカツカと階段室の方へ歩き出す。

 その後ろ姿を見ながら穣は微笑みコソッと呟く。

「カワイイねぇ……」

 ジェッソが小声で釘を刺す。

「あんまりイジメるなよ?」

 穣、ニヤリ。


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