第5章04
次の日の朝。
ターさんは護とカルロスと妖精が入った木箱を吊り下げて、晴れた空を飛んでいる。
護は無精ひげとボサボサ頭で眠そうなカルロスを見てちょっと笑うと
「起きぬけに強制連行されてるし。目、覚めてる?」
「んー」カルロスは唸って「気づいたらソファで寝ていて朝だった。いつ寝たんだ……」と欠伸をする。
「眠そうだけど、俺達仕事あるし、家に貴方一人だけ置いとく訳にもいかないんで、頑張って付き合って」
「うん」目をこすりながら頷く。それから「ん?」と怪訝な顔をすると「なんだそれ」と護の隣に置いてある黒石剣を指差す。護はそれを手に取って
「これは黒石剣っていう石で、採掘道具の一つだよ。アンバーで俺が採掘中に川に落ちたのは、この石が原因」
「あぁ変な動物が石を持って行こうとしたのを追いかけて、誤って川に落ちたとか」
「正確には妖精がこれを耳に挟んで持って行こうとしたんだよ」と丸い妖精の耳を掴んで持ち上げる。
カルロスは、またプッと笑って「耳か!」と言うと「でも良かったな、流されて」
「まぁね!」
その時、前方に浮島が見えて来る。
護はそれを指差して「なぁあれ、何だと思う?」と相手がビックリするのを期待してカルロスに聞く。
「うん、島が浮いてる」
思わずガクッとした護は若干怒って「もうちょっとビックリしようよ!」
「だって探知したら分かる!」
「んな四六時中探知しなくってもー!」
「職業病なんです!」
二人の会話にターさんが爆笑する。
浮島上空に到着すると、ターさんはケテル石の柱のある場所に降下し、着地する。護とカルロスは木箱から出る。
「護君、今日は俺、違う石を採るから、カルロスさんと一緒にケテルを頼むよ」
「ほい」
ターさんは斧と布袋を持って、やや離れた場所へ飛んでいく。
護は斧を持って近くのケテルの柱をコンコンと叩き始める。
カルロスは柱をしげしげと見ながら
「こんな大きなケテル、向こうに持っていったら幾らの値がつくか」
「でもここではメジャーな石材なので、上手く採らないと、売れない」護はそう言い「これ、いいかも。この辺か」と切り所の目星を付けて、カルロスに「ちょい離れてて」と下がるように手で指示する。
カルロスが離れたのを確認すると、護は斧でガンと石柱を切り、柱をゴロンと地面に倒す。それを見て
「なんか採掘というよりは伐採のような」とカルロスが呟くと、護は「まぁね」と頷き
「有翼種の採掘船の採掘みたらもっとビックリするよ」と言いつつケテルの柱を木箱に入れる。
「ところで探知のカルロスさん。売れそうな石を探してくれませんか」
「売れそう……というと、それなら……」
少し歩いた所に生えている、大きめのケテル鉱石柱を指差す。
「あれだ」
護はその柱の所に行くと、コンコンと指で叩いて
「これはちょっと違うと思うなぁ」
途端にカルロスの表情が変わって「なに?」と怒ったような声を出す。
同時に妖精達が二人の周りに集まって来て、ポコポコと跳ね回る。
護が「なぁ、売れそうな石ってどれかな」と聞くと、一匹の妖精がポンと大きく跳ねてからトコトコ歩いて一本の小ぶりな石柱の元へ。
「これか」護は柱をコンコンと叩いて「おお!確かに!」と目を輝かせる。
「ちょっと待て」続いてやってきたカルロスも柱をコンコン叩く。それからさっきの柱へ走り戻ってコンコン、再び小さい柱に来てコンコン。
「うーむ」難しい顔で腕組みしたカルロスは「エネルギーの強い石が売れるんじゃないのか?」
「ちょっと、離れてて」
護はカルロスを避けさせると、斧でカンカンと側面を少し切る。
石が輝くと同時にカルロスが驚いて「さっきとエネルギーが全く違う!」
「うん、これ『活かし切り』って言うんだけど、あっちの石は、切ってもあんまり光らないと思う」とカルロスが選んだ柱を指差す。
「そうかな」納得できない表情のカルロス。
「何本も切ってると直感的にわかるようになってくる。この柱、切るよ」
カルロスが離れると、護は斧を構えて一気にガンと柱を切る、が。
「うぁ!切り方失敗した!」護が叫ぶと同時にカルロスが
「エネルギーが大きく変わった!面白いな、これ!」
護はカルロスを見て「だろ?」と言うと「でもせっかくの良い石がぁ勿体ないー!」と天を仰ぐ。
「これは探知が非常に難しい!何を基準に観ればいいんだ!」
「妖精に聞いてみれば」
「え」
カルロスは何となく妖精達を見る。
妖精はカルロスを見て頭にハテナマークを浮かべる。
「不思議そうな顔されても!」カルロスはそう言うと、護に
「私も石を切ってみたい。ちょっと斧を貸してくれ」
「あ、黒石剣でも切れるから、あれ使ったらいいよ」
ダッと木箱へ駆け戻ったカルロスは、中から黒石剣を取り出すと、再び護の所へ戻ってくる。
黒石剣を構え、ちょっと何か考えると、護が切ったケテル石柱の残った根元部分を指差して
「これ切っていいか」
「うん」
カルロスは黒石剣の刃先をケテル石の端に当てる。そのまま少し待ってから石を削るように黒石剣を動かす。
途端にピンッと弾けるような音がしてその部分が割れ、地面に落ちる。
「お」
驚いた顔をして「これはまた面白い石だな。力を入れずに石が切れる」
そう言ってカルロスは更に黒石剣の刃先をケテル石の別の部分に当てると、またピンッと弾ける音がしてその部分が割れる。
「エネルギーを流した方向に石が切れる。これは良い」
護は不思議そうな顔をして「俺は普通に力を入れて切ってたけど」
「お前は怪力だからな。でもこれ多分、本来はエネルギーを流して使うもんだぞ。お前より非力な私でもこうして石が切れる」
黒石剣でケテル石を割るカルロス。
「どうやって切ってんの?」護は首を傾げる。
「だからこの黒石剣に自分のエネルギーを流すんだよ」
「それってどういう事」
「つまり探知の時のように……って怪力のお前にはワカランな」
「分かる説明して」
カルロスは面倒になって「とにかく切れるんだからそれでいいだろう!さて探知するから色々切るぞ!」
ターさんが採った石を入れた布袋を担いで二人の所に飛んで戻って来ると、木箱がケテル石で一杯になっていた。
「うわ。結構採ったねぇ!」
護は「この人の探知の練習やってたら、こんななった」とカルロスを指差す。
カルロスは笑顔で「ケテル石の探知は、イェソド鉱石の探知より、よっぽど面白い!」
ターさんはカルロスの元気ぶりに若干驚いて「そうなの?」
「うん。イェソド鉱石は、とにかくエネルギーの強い所を探知して突っ込んで行けばいいだけだった」
ターさんは更に驚いて「なんて大雑把な。石によってはそれでもいいけどケテルだと荒すぎてダメだよ。石の性質とか感じてる?」
「性質?」カルロスがキョトンとする。
「個性と言うか、本質的な所を感じる。護君は最近それが上手くなったよね」
途端にカルロスが「お前、探知じゃないだろう……」と不機嫌そうに護を見る。
「護君ね、石を観るセンスだけはいいから」
「だけ、って!」
ターさんはカルロスに「ところでその黒石剣、使ってみてどう?」
「凄く使いやすい」
「だと思った。ちなみにその黒石剣を使いこなせるようになれば、有翼種の採掘船で相当、重宝される」
「しかし私は探知がメインで」
「うん、そうなんだけどね。もしここで採掘師をするなら黒石剣を使える事が必須だよ。貴方に白石斧は合わないから」
護が意外な顔をして「そうなの?」とターさんに聞く。
「うん。逆に、護君に黒石剣はあんまり合わない」
カルロスが納得して「そうだな」と頷く。
「……でね、個人採掘師って沢山いるから最初は石屋になかなか顔を覚えてもらえないんだけど、君たちは人工種だから、ちょっと有利な訳だよ」
すると護が「うん。既に『ヘッポコな石しか採って来ない』って有名になった」とションボリする。
「今はね!」ターさんは護にそう言うと「ともかく有翼種でも扱いが難しい黒石剣を使える人工種って、凄いと思うんだ。ここでは飛べないのはネックだけど活かせるスキルを活かして人工種ならではの事をやったらいいんだよ。せっかく人工種なんだし」
カルロスは「うーむ」と思案気な顔をする。
護は「まぁねぇ。ところでハラ減った」と言い、ターさんが地面に置いたままの布袋を担いで木箱に積み込む。
「戻ってお昼にしよう!」
護が木箱の中のケテル石の上に乗ると、カルロスも木箱に入って石に腰掛ける。ターさんは木箱のワイヤーを持って木箱を引き上げつつ飛び上がると「ちょっと重いな」と呟く。そんなターさんを見ながらカルロスが
「ターさん、相当な怪力だな……」
「いやこれ、翼の力なんだよ。地上で物を持ち上げる時の力とはちょっと違うんだー」
「ほぅ」
「んでも翼から力を出す為には鍛えなきゃならないから、重い物を吊り上げるのはいい鍛錬になる。しかし午前中だけでこんなに採れるなんて。流石に採掘師3人だと採れる量が違うね」
護が元気よく「だってターさんにお世話になってるからさ、頑張らないと!」
「ところで」カルロスは護を見ると「やっとハラが減った。昼飯は私も食べたい」
護とターさんが同時に「おお!」と言いターさんは安堵したように「良かった!」
護はなぜか楽し気に「よし、不味いもの食わせよう!」
「何でだ!」