職場環境の8つの評価軸の相互影響に関する考察
企業観や職場観は、個人の能力を企業の競争力の源泉とする「人的資本経営」の重要性が高まる今こそ、その企業をあらわす基本情報とも言えます。
OpenWorkでは、「社員・元社員の声」を8つの定量的な評価スコアと、8カテゴリの定性的な社員クチコミ、3つの実数値(年収・給与、残業時間や有給休暇消化率)を掲載しています。今回は、退職者の回答に絞り、以下の8つの評価スコアの相関関係について、過去から現在にかけてどう変化しているのかを分析し、日本のビジネスパーソンの企業観や会社・職場観の状況を見ていきたいと思います。
8つの評価スコア
- 待遇面の満足度
- 社員の士気
- 風通しの良さ
- 社員の相互尊重
- 20代成長環境
- 人材の長期育成
- 法令順守意識
- 人事評価の適正感
2021年退職者の場合
一般的にビジネスパーソンに対して職場環境の認識や心理的状況などについて質問をした場合、質問間に一定の正の関係が見られます。つまり、ある項目において評価を高く(大きく)つけた場合、他の項目でも評価は高く(大きく)つきやすい、とされていますが、もちろんその強弱には違いがあります。
それぞれの評価軸ごとに相互の関係性を「相関係数」として数値化したものが図表1です。図表1ではまず2021年に評価対象の会社を退職した回答者に限定して分析しています。直近の退職者における状況と言えるでしょう。
図表1において相関係数が一定より高い数値(ここで一定以上の相関関係がある状態として0.35を設定)を示したものに着色しています。これを見ると以下のことがわかります。
① 最も相関関係が高いのは、「20代成長環境」と「社員の士気」(差分0.47)。最も相関係数が低いのは「20代成長環境」と「法令順守意識」(差分0.07)。
② 他の項目との相関関係が多い評価軸と少ない評価軸が存在している。例えば、「人材の長期育成」は「20代成長環境」「社員の相互尊重」「社員の士気」「待遇面の満足感」「風通しの良さ」の5項目と一定以上の相関があり最多であった。「20代成長環境」も4項目と一定以上の相関がある。他方で、「法令順守意識」はどの評価軸とも一定以上の相関がなく、例えば「20代成長環境」や「人事評価の適正感」とは全く相関関係がない。
③ 相関係数0.2未満を“相関がない”とした際、それに該当するのは以下の5通り。
- 「20代成長環境」と「法令順守意識」
- 「社員の相互尊重」と「待遇面の満足度」「人事評価の適正感」
- 「社員の士気」と「法令順守意識」
- 「人事評価の適正感」と「法令順守意識」
- 「風通しの良さ」と「法令順守意識」
2016年退職者の場合
同じように、ちょうど5年前の退職者の職場環境レビュー8項目の相互関係を見てみましょう(図表2)。
こちらからは、以下のことがわかります
④ 最も相関関係が高いのは、2021年と同じく「20代成長環境」と「社員の士気」(差分0.45)。最も相関係数が低いのは「人事評価の適正感」と「法令順守意識」(差分0.06)。
⑤ 他の項目との相関関係が多い評価軸と少ない評価軸は2021年と同じく存在している。
⑥ 相関係数0.2未満を“相関がない”とした際、それに該当するのは2021年と同じく以下の5通り。
- 「20代成長環境」と「法令順守意識」
- 「社員の相互尊重」と「待遇面の満足度」「法令順守意識」
- 「社員の士気」と「法令順守意識」
- 「人事評価の適正感」と「法令順守意識」
- 「風通しの良さ」と「法令順守意識」
相関関係が最も高い項目や相関関係の強さの二極化、相関関係がない評価軸の組み合わせは2021年と2016年において通ずる点がありました。
2021年と2016年の評価スコアの変化が大きかったのは「人材の長期育成」「風通しの良さ」項目
さて、それでは2021年退職者と2016年退職者のデータから見た8つの評価軸の相互関係の変化についてみていきましょう。
まず大きな変化として見られるのは、一定以上の相関関係を持つ組み合わせが2021年の方が多いということです。
相関係数0.35以上の組み合わせは2021年では12通りある他方で、2016年では半分の6通りとなっています。相関係数の単純平均値も0.29(2021年)と0.27(2016年)となっていました。全体としては、2021年の方が評価軸同士の相互関係が強まっていると考えられます。
図表3に単純平均値の比較をしています。特に大きく他の項目との関係が強くなったのが「人材の長期育成」です。単純平均値で0.32(2016年)から0.36(2021年)となっていました。また、「風通しの良さ」も0.27(2016年)から0.31(2021年)となっています。
さらに組み合わせごとに見ていくと、以下の項目の増減幅が多いことがわかります。図表4に各項目の2016年から2021年への増減幅を表示しました。
ここで以下の増加幅が多い項目に注目してみましょう。
- 「20代成長環境」と「人材の長期育成」
- 「20代成長環境」と「風通しの良さ」
- 「人材の長期育成」と「風通しの良さ」
- 「待遇面の満足度」と「人事評価の適正感」
- 「風通しの良さ」と「法令順守意識」
この増加幅が大きい組み合わせ中に複数回出てくる、「20代成長環境」と「人材の長期育成」、そして「風通しの良さ」は他の項目にもより大きな影響を与える可能性があるファクターの可能性があります。
「人材の長期育成」と「風通しの良さ」は、他項目に与える影響も大きい
最後に、ここ5年における他の項目との相互関係の変化をポジショニングします(図表5)
図表4でも触れたとおり、「人材の長期育成」と「風通しの良さ」は他の項目へ与える影響(関係性)が強い上 、この5年間でその相関は一層強くなった(変化が大きかった)ことがわかります。
以上のことから、他の評価軸との関係性が深い、あるいはより深くなっている項目として「人材の長期育成」と「風通しの良さ」があることが明らかになりました。この2つの項目だけが重要だということを意味するものではありませんが、自社の職場環境を大きく改善したい場合にはこの2つの項目に関する手立てから着手することが効果的と言えそうです。
このレポートの著者:古屋星斗氏プロフィール大学院(教育社会学)修了後、経済産業省入省。産業人材の育成、クリエイティブビジネス振興、福島の復興支援、成長戦略の策定に携わり、アニメの制作現場から、東北の仮設住宅まで駆け回る。2017年、同省退職。現在は大学院時代からのテーマである、次世代の若者のキャリアづくりや、労働市場の見通しについて、研究者として活動する。非大卒の生徒への対話型キャリア教育を実践する、一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。