風前の灯
下記のBBCの記事にあるように、英国下院は、2009年1月1日以降に生まれた人が生涯にわたってたばこ製品を買えなくする「紙たばこ・電子たばこ法案」を383対67の賛成多数で可決した。
法案は、与党である保守党スナク首相が目玉政策として主導したものなのだが、実に馬鹿げている。
なぜならば、この法案は、国家が未成年者をpaternalisticパターナリスティック(父権的。子供が自己加害をしないように厳格な父親が子供を守るが如く、本人を守るために本人の権利を制限することを意味する。)に保護するだけでなく、成人後もパターナリスティックに保護しようとするものであって、自由に対する過度の規制であるし、又2009年1月1日以降に生まれた人と2008年12月31日以前に生まれた人との間に不合理な差別を設けるものであり、法の下の平等に反するからだ。
かつてナチスドイツが「健康は義務である!」として、禁酒運動及びタバコ撲滅運動を強行したように(ロバート・N. プロクター著・宮崎尊訳『健康
帝国ナチス』草思社)、この法案が成立すれば、いずれアルコール、砂糖、ファーストフードなども、同様の規制を受けることになろう。「健康」を名目にしさえすれば、国民生活のあらゆる面を規制し、自由を侵害することが可能になる全体主義国家の誕生だ。
このような愚かな法案を提出し可決するなんて、英国の保守主義は、風前の灯だが、まだ希望の灯は消えていない。
英国下院の議員定数は、650人で、任期は、5年だ。2019年の下院選挙で、与党保守党は、365議席を獲得している。
下記の記事には記載されていないが、調べたところ、この法案の採決に際し、100人以上の保守党議員が棄権し、将来の保守党党首候補となる可能性が高いケミ・バデノック商務長官と他の5人の閣僚を含む57人の保守党議員が造反し、反対票を投じた。まだ、真の自由主義である保守主義の灯りは、消えていなかったのだ。
バデノック商務長官は、「目的が手段を正当化するとは思えません。」と述べている。※
翻って我が国を見ると、以前、このブログで触れた「子ども・子育て支援金」制度を盛り込んだ改正法案が衆議院を通過した。
この愚かな法案について、自民党議員は、誰一人反対しなかった。ましてや造反する閣僚はいなかった。
自民党には、骨のある真の自由主義者=保守主義者はいない。自民党には保守主義的な言動をする議員はいるが、所詮、政治的パフォーマンスにすぎず、エセ保守主義者だ。
英国で「紙たばこ・電子たばこ法案」が成立すれば、我が国も英国を見習えとばかりに、与野党から同様の規制法案が提出されることだろう。
英下院、たばこ販売禁止法案を可決 2009年以降生まれを対象に
※ 少し古いが、バデノック商務長官の日本へのメッセージ