ポスト・ヒューマン誕生 [コンピュータが人類の知性を超えるとき]
みなさんは、アニメ映画「銀河鉄道999」(1979年公開)とか映画「ターミネーター」(1984年公開)シリーズとかご覧になったことがあると思います。どちらの作品も「人間は、機械技術の進歩とどう向かい合っていくのか?」そして、その葛藤が作品のテーマの根底にあったと思います。
どちらの作品をご覧になった方も、どこか心の片隅に「やがて機械のイノベーションが進み、機械は人間の体力を超え、遂には知能的にも人類を凌駕してしまうのでは?」という懸念を感じたのではないでしょうか?
映画の世界を離れた現実でも、最近ではいろいろな機械(電子機械が)我々の身近に日常的に存在します。代表的なものに、パソコンがありますが、この機械の中には半導体(集積回路とかトランジスタ等の部品自体を指すこともある)が内蔵されてます。この半導体の性能について「半導体の集積密度は18-24ヶ月で倍増する」と提唱したのが、インテルの元会長ゴードン・ムーア氏です。この「ムーアの法則」はすでに産業界の定説になっていますが、この法則によれば半導体の性能は指数関数的に向上していくことになります。そして、今後も、更なるイノベーションやナノテクノロジーなどがこの「ムーアの法則」をサポートしていくことが予想されます。
この流れにより、チップの小型化とそれにより 電子が移動する距離が短くなっていくので、回路の速度は速くなり(処理能力が向上し)、コンピューティング能力も全体的に高まり、その結果、コンピューティングのコストパフォーマンスが指数関数的に成長していきます。一方、AI(人工知能)の性能も最近成長著しいことはみなさんもご存じのとおりです。 (また、AI に関しては、最近ディープラーニングなどの機械学習法の発達も話題になっています。)
このように、コンピューティングや AI の指数関数的な進歩を考えていくと、機械の知能が人類の知能を超える日は、2030年頃だと言われているのです。。。。なんか映画の世界が現実に近づいてきましたね。。。
さて、ここでやっと本題に入ります。本書の紹介です。(お待たせしました!)
本書はですね、、、ズバリ、「機械(AI) が人類の知能を超える日」 ついて論じています。
ただし、著者のカーツワイル氏は 「機械(AI) が人類の知能を超える日」 を「特異点」(Singularity)と呼んでいます。そして、「特異点」とはどういうことか?を具体的に詳しく説明しています。
まず、特異点がいつ訪れるか?ですが、さきほど「2030年」と書きましたが、正確には、カーツワイル氏によると2030年は、「非生物(AIのこと)的な計算能力の生産(量)が全人類の生物的な知能の容量として見積もった値に等しくなる」年で、この時のコンピューティングの状況は未だ、我々人類の知能を根底から拡大するには至っていないので、特異点ではないのです。
特異年が訪れるのは、「一年間に創出される知能が、今日の全ての知能より約10億倍も強力になり」、「抜本的な変化が起き人間の能力が根底から覆り変容する」 2045年頃、と著者は考えています。
さらに筆者は、「(特異点に人類が至ると)甚大な影響がもたらされ、人間の生活が後戻りできないほどに変容してしまう。それは理想郷でも地獄でもないが、ビジネスモデルや、死をも含めた人間のライフスタイルといった、人生の意味を考えるうえで、よりどころとしている概念がすっかり変容する。」と述べています。
そして、「「特異点」を迎えた人間文明は、指数級数的な進化の過程に入り、(この時点ですでに、人間の脳はリバースエンジニアリングによる解析が終了していて)生物としての人間を超える強い AI が誕生する。人体は拡張され、ナノボットが体内を駆けめぐり、われわれは不死の体を手に入れるのである。」(この「我々」にはもちろんAIも含まれるのでしょう。)
さらに、本書ではその「特異点」至るまでの過程として人類が歩む第1から第6までのエポック(段階)や、人間の脳のリバースエンジニアリングやそれを可能にする技術「GNR」(遺伝学、ナノテクノロジー、ロボット工学)の進歩にも言及しています。(ちなみに、現代は「エポック4」に相当します。)
では、この衝撃的な「特異点」という概念を考えたレイ・カーツワイルとはどんな人なんでしょう? 最後にカーツワイル氏の略歴を書きます。
著者のレイ・カーツワイル氏は1947年ニューヨーク生まれで、世界屈指の発明家、思想家、未来学者。Inc.magazineはカーツワイルを世界トップの起業家のひとりに選び、「トマス・エジソンの正統な相続人」と呼んだ。また、PBS(公共放送サービス)は彼を「過去2世紀においてアメリカに革命を起こした16人の発明家」のひとりとしている。アメリカの「発明家の殿堂」に名を連ね、「ナショナル・メダル・オブ・テクノロジー」「レメルソン‐MIT賞」など優れた発明に贈られる世界最高峰の賞を数々受賞、12の名誉博士号をもち、3人の米大統領から賞を贈られている。
(注意:「特異点」および「著者略歴」は本書出版社の解説文なども参照しています。)