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砕け散ったプライドを拾い集めて

ませたガキ

2018.11.26 12:54

━━疑わずトラック駆けてくる一人すでにテープのないゴールまで

(俵万智;『かぜのてのひら』)

又吉直樹は俵万智の歌集『かぜのてのひら』のなかのこの歌の「無垢な情景」が鮮烈でなかなか次の歌に進めなかったという。

 冒頭の「疑わず」という断定と相まって、健気な走者がまぶしく、美しいと。
この歌にこれほど惹かれる理由は、自分自身に「無垢な心」が一切ないからだと思うとして、自分の事例を掲げている。

  *   *   *   *   *   *   *   *

私の人生においてなにかを疑わなかったことがあっただろうか。保育所に通っていた時、おもちゃの消防車を手で動かしながら、先生達が立ち話をしていた場所へ移動すると、私に気づいた先生が、こちらに背を向けていた先生に、「静かに!直樹は理解できるから」と言った。おもちゃの消防車をカムフラージュして先生の話を聞こうとしていたことを、見抜かれていたのだ。私はいつまでも消防車を動かす手を止めることはできなかった。

 (『文藝別冊』)

※小学校に入る前の記憶がほとんどない我が方としては、又吉直樹の達者ぶりには大いに驚愕する。そんな幼き頃より頭脳戦を展開していたんだね。