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Evidence Based Physical Therapy - 理学療法士 倉形裕史のページ

脳卒中患者の運転再開へのリハビリ専門職の関りについて考えたこと②

2018.11.26 16:32

おはようございます。University College London (UCL)の理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。 


 前回から、脳卒中患者の運転再開へのリハビリに関して書いています。 


前回は、

① 運転再開に関しては、セミナーを開催する方も、受講される方も慎重な姿勢であって欲しいです

② 2016年のAHAのガイドラインからアメリカの現状

について書きました。 


今日はこの続きです。 

・運転再開に関する評価バッテリーでスタンダードとなっているものはないそうです。 

神経学的な検査で、路上での運転検査の結果を予測しうる検査が一つだけ挙げられていて、『Trail Making Test B』というモノらしいです。 私は聞いたことがありませんが、きっと詳しい先生はおわかりになると思います。


私見:この検査はあくまで、路上の運転検査の結果を予測できるだけで、実際に運転を再開した後の事故の確率に関しては何も言ってない点に注意が必要であると思います。 



ドライビングシミュレーターや路上での運転検査などを行うことの必要性が言われていますが、あまり大規模な研究がないため、カットオフ値のような、説得力のある結論は出せていないようです。  


また、運転再開の適性検査に合格しなかった方に対するトレーニング効果に関しても書かれています。認識、視覚機能の訓練、片麻痺がある場合は片手での運転技術、シミュレーターでの練習、路上での練習を必要に応じて組み合わせて行うようです。 


・視覚に関する障害がある方に対する視覚トレーニングが運転スキルの向上に繋がるかは一致した見解がないようです。  

この項目も非常に歯切れが悪いです。

適性検査に合格しなかった方にリハを行うことで、運転再開させていいかに関しても結論らしいものは出ていません。 


このように、 

・どうやって評価するか? 

・評価結果が悪い場合に運転を禁止すべきか? 

・リハを行った結果、運転の再開を許可していいのか? 

など結論を引き出すのは難しいようです。 


このガイドラインの引用文献リストをざっとみたところ2015年の論文の引用は確認できました。2016年に発表されたガイドラインなので、この後に新しい知見が出た可能性は否定しません。


運転再開の問題が難しいのは、患者個人だけでなく、他者にも影響にする可能性があるからです。

・歩行などの日常生活動作のこと(例えば杖を使うとか使わないとか)や、

・一人暮らしを続けるか?

などは最終的には個人で決めればいいことだと思います。それによって他人の命が係わるとかではないからです。無理そうだな~と医療従事者が思っても、起こり得るリスクを説明して、それでもしたいということであれば、私たちが止める筋合いはありません。

一方で、公道を運転すると事故によって他人の生命や財産を破壊してしまうこともあり得ます。 このガイドラインの中にありましたが、患者個人と社会全体の利益を天秤にかけて、意思決定する必要があります。 


脳卒中になってしまったからと言って、『病気の程度に関係なく全患者に運転を禁止する』というのは交通事故のリスクはゼロになりますが、患者の利益を大きく損ないます。生活習慣病の影響はあるとはいえ、脳卒中になってしまうのは最終的に患者個人では変えることのできない運のようなものです。なので、不運と言うだけで利益が大きく損なわれるのは、平等な社会とは言えないと思います。


一方で、もし、運転再開を希望する脳卒中患者全員に許可してしまったら、今度は社会全体の利益を損なってしまう可能性があります。中には視覚や注意機能などの高次脳機能障害があったり、運動機能の問題があまりに大きかったりなど、他のドライバーと比較して事故を起こしてしまう可能性が極端に高い方もいらっしゃるからです。また、運転再開を無差別に許可してしまうことによって利益が損なわれてしまう人たちの中には患者さん自身も含まれます。事故を起こして人を傷つけてしまう、最悪の場合は命を奪ってしまうということを望む人はいないでしょうから、こういう形で悲しい目にあう人の数も最小にする必要があります。 


ですので、医療関係者だけでなく、政策を決定する人や一般の方や患者さん達も含めたうえで議論されていく必要のある問題だと私は思います。



長くなりましたので次回に続きます。 


今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございます。

 理学療法士 倉形裕史 







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