退職者が選ぶ「辞めたけど良い会社ランキング」【外資日系別】(vol.111)
外資系企業、日系企業、それぞれの退職者評価の違いは?
要旨:
- 外資系企業の1位はマッキンゼー・アンド・カンパニー、2位はグーグル、3位P&Gジャパンという結果に
- 日系企業の1位はリクルートマネジメントソリューションズ、2位は特許庁、3位リクルートという結果に
- 外資系企業TOP30のうち、コンサルティング業界企業が8社、Sler関連企業が5社、航空業界企業が4社と多くランクイン
- 日系企業は半導体・インターネット・冠婚葬祭・食品飲料と多種多様な業界がランクイン、リクルートグループから5社がランクインという結果に
- 「社員の士気」「20代成長環境」スコアは、外資日系の両者とも差が少なく高スコア傾向
- 外資系企業は「フラットで成果主義」かつ「そもそも長く勤務予定ではなかった」と入社時から「卒業」が前提の企業文化
- 日系企業は「若手の育成環境としては良かった」と“ゆるくない職場”を評価する声が特徴
近年の転職者数は増加(※1)しつつある中、企業の中途採用比率も過去最高の37.6%となりました。これは7年前と比べ2倍(※2)にあたる伸びとなっており、転職市場は活況であると言えます。終身雇用が終わりを迎えつつある中、生産年齢人口の減少といった変化も生じており、労働力確保という企業課題を解決すべく中途採用活動は今後も活況であることが予測されます。
転職者は言い換えれば、どこかの企業にとっての「退職者」です。「転職をする=今の会社を退職する」人が今後ますます増えていくことが予測できるからこそ、企業経営において「社員はいつか退職をする」という前提で、人材の定着・育成支援の他、退職を決めた後の円満な関係性構築への重要性が高まっていくのではないでしょうか。
今回の調査レポートでは、OpenWorkに投稿された社員クチコミのうち「退職者」による評価に着目し、退職者からの評価が高い企業を集計しました。日本と比べて転職が一般的な外資系企業では、文化や人材育成の仕組み・制度が大きく異なると考えられることから、外資系/日系企業で分けてランキングを作成しました。退職者にとって「良い会社だった」と感じる点にはどのような特徴があるのか、また外資系と日系企業で「退職」に対する文化や考え方に違いはあるのか。OpenWorkに寄せられた社員の声を見ていきます。
(※1)総務省「労働力調査2022」より、転職者数は303万人と前年(2021)に比べ13万人の増加
(※2)日本経済新聞 2023年4月19日記事より、日本経済新聞社がまとめた採用計画調査(最終集計)数値
退職者が選ぶ「辞めたけど良い会社ランキング」【外資日系別】
外資系企業ランキングはコンサルティング業界が多く占め、日系企業ランキングはリクルートグループが5社ランクイン。共通点は「卒業文化」
退職者が高く評価している企業を、外資・日系別に集計した今回のランキング。外資系の1位はマッキンゼー・アンド・カンパニー、2位はグーグル、3位P&Gジャパン、日系の1位はリクルートマネジメントソリューションズ、2位は特許庁、3位リクルート、という結果になりました。外資系では、上位30社中8社がコンサルティング業界企業、5社がSler関連企業、4社が航空業界企業となりました。業界に傾向が見受けられた外資系ランキングに対して、日系ランキングでは半導体・インターネット・冠婚葬祭・食品飲料・証券・官公庁…と多種多様な業界がランクインしました。また、リクルートグループから5社がランクインという特徴が見受けられました。
会社を評価しているにも関わらず、辞めるのにはどのような理由があるのでしょうか。ランクインしたコンサルティング企業とリクルートグループ各社に寄せられた「退職検討理由」を見てみると、「次のステップに進むため」「起業・独立のため」と、前向きな退職であることが伺える声が多数あがりました。「いつかは退職をする」というマインドセットとともに入社し、望んだ経験やスキルが得られたことに対して自社を高評価し、「卒業」をする様子がうかがえます。
OpenWorkに投稿された外資系コンサルティング企業の退職者による「退職検討理由」の社員クチコミ
「他にやりたいことができたために退職をした。ただこの会社で時間を過ごしたことには一切後悔していない。(コンサルタント、男性、マッキンゼー・アンド・カンパニー)」
「2年半ほど在籍し、当初の目標であった起業をやってみたいという思いが強くなったので。BCG自体には何の不満もなかったし、今でもアルムナイ(卒業生)の集まりなどには顔を出させてもらっている。(コンサルタント、男性、ボストン・コンサルティング)」
「この先パートナーを目指しコンサルタントを極めるか、かねてからの夢である自分の事業を運営するかの二択を検討し、後者に惹かれたためです。(コンサルタント、男性、
ローランド・ベルガー)」
OpenWorkに投稿されたリクルートグループの退職者による「退職検討理由」の社員クチコミ
「これまでの法人営業・営業企画の能力が最大限活かせると思ったため。新しい環境でチャレンジしたいという前向きな転職で、不満があって辞めたわけではない。(営業、女性、リクルートマネジメントソリューションズ)」
「30代までにスキルを身につけて起業、転職することが前提の若手中心のベンチャー企業体質。社員も40代以上になると激減し、50代は全体の1%程度。私もそろそろ次のステップに進む時期だと感じて30代半ばで転職をした。(営業事務、女性、リクルート)」
「独立のため。そもそも将来独立を視野に入れていた。ここでの経験が独立に生きると考えていた。実際その通りになった。(求人広告、男性、リクルート)」
外資系企業の退職者は職場を「そもそも長くいる場所ではない」とみる傾向
外資系・日系企業別で退職者が高く評価したTOP30企業を、各項目評価スコア平均で比較分析します。
「総合評価点」「社員の士気」「20代成長環境」のスコアは両者で差が少ない結果となりました。外資/日系共通で、若手の内から成長ができ社員に士気が感じられる環境は退職者から評価されやすいと言えそうです。
外資系企業は日系企業と比較し、「風通しの良さ」「人事評価の適正感」「法令順守意識」「NPS※」のスコアが高い結果となりました。社員クチコミにも成果主義でフラットな文化を称える声は多くあがっていました。その一方で、そもそもの人材流動性の高さや社内環境変化の速さを踏まえ「入社時点で長く働くことを前提としていない」といった声も散見されました。先述の通り、「卒業文化」は外資系企業の特徴のひとつであると言えそうです。
(※)ネットプロモータースコア:あなたはこの企業に就職・転職することを親しい友人や家族にどの程度すすめたいと思いますか?」という質問に0~10点で回答するもの
OpenWorkに投稿された外資系企業の退職者による「成果主義でフラット」な文化を評価する社員クチコミ
「外資特有の風通しの良い企業です。基本的にテレワークでしたが、チームメンバー全員がいつでも相談して欲しいとオープンで仕事がしやすかったです。ただし、徹底した成果主義なためインプットもアウトプットも、自分から能動的に動いて物事を進めていける人で無いと厳しいと思います。(営業、男性、グーグル)」
「自由ではあるが、成果などがしっかり求められている。個人的な裁量で仕事を進められる。(エンジニア、男性、日本ナショナルインスツルメンツ)」
「実力主義。女性も男性も関係なく活躍できます。外国籍社員も多いため、日本文化を通じてお互いを知り合うといったような、部門や国籍が違ってもお互いを知り合えるような、そんなイベントも多々あります。(機関投資家営業、女性、ゴールドマン・サックス証券)」
「失敗を絶対責めないポリシーがあり、誰もがのびのびチャレンジして成長していけた。自分の意見を忌憚なく発言でき、話し合いも建設的。(客室乗務員、女性、KLMオランダ航空)」
OpenWorkに投稿された外資系企業の退職者による「退職検討理由」の社員クチコミ
「習得したいスキルを一通り経験できたので、今後のキャリアとして違う業界に挑戦したいと思ったから(アドバイザリー、男性、KPMG FAS)」
「転職したいから。外資に居れば転職をするのが普通。転職を重ねることによりキャリアを作るのが外資でのやりかた。(事務、男性、日本マイクロソフト)」
「元々この会社は定年まで居れる会社ではないので、自分の目標の「20年在籍」が達成できた事で、ステップアップの為に転職を考えていた所、会社の方から希望退職者募集があったので、ちょうどいい機会だと思い、転職を決心しました。(スーパーバイザー、男性、ナイキジャパン)」
「大きなプロジェクトがひと段落ついたタイミングでヘッドハンティングがあり次のステージを考え始めたから。良い会社なのでそれがなければまだ働いていたと思う。(アカウントマネージャー、男性、シスコシステムズ)」
日系企業の退職者は「若手時代を過ごすのに適した、ゆるくない職場」と振り返る
日系企業は、「待遇面の満足度」「社員の相互尊重」「人材の長期育成」のスコアが高い結果となりました。リクルートグループを除くと、退職検討理由に「退職・卒業前提」といったワードをあげる声は少なく、実際に「人材の長期育成」に対する評価スコアは外資と比べ高い結果となっています。社員クチコミには、「若手のうちに鍛えてもらうことができた」「(新卒の)職場として申し分なかった」といった声が見られました。
若手の期待と能力に対して業務負荷が適切でなかったり、成長機会が乏しい職場を指す「ゆるい職場」というキーワードが昨今注目されていますが、今回の分析を通して、日系企業の退職者が評価する企業はその逆である「ゆるくない職場」であると言えそうです。
OpenWorkに投稿された日系企業の退職者による「ゆるくない職場」環境を評価する社員クチコミ
「若手は数年で圧倒的成長ができる教育研修制度があります。勉強は大変でしたが、同期メンバーで協力して乗り切りました。良かった経験でした。(審査官、男性、特許庁)」
「社会のインフラを支えている意識があり、その点では非常にやり甲斐がある。また、そう言った意識を持つ社員が揃っており働く環境としては申し分ない。(DXC、男性、日鉄エンジニアリング)」
「若手に多くの裁量が任されるので、多くの経験を積むことができ成長が期待できる。ジョブローテーションを厳密に実施している点は人材育成に力を入れている証。上司が部下を育てる意識も非常に強い。(営業、男性、商船三井)」
「新卒で入社するにはいい会社だと思います。サラリーマンとして基本的な技能は身につきますし、今後事業会社に転職したとしても、身につけた基本スキル・金融知識は無駄になりません。(営業、男性、大和證券グループ本社)」
「若手を育てる文化がある。研修等はかなり充実している。営業であれば、テレアポから社長クラスの方との折衝力を一年目から高めることができる。(営業、男性、キーエンス)」
「営業や事業管理の実務から、事業・プロジェクト・組織のマネジメントまで、それも国内外で経験できたことは本当に自分の糧になった。良い上司や先輩にも恵まれた上、優秀な同僚と部下との協働は自分を鍛えてくれた。(事業マネジメント、男性、味の素)」
「とても良い会社でした。目標やビジョンも明確ですし、ここで働くためのプライドを意識させるような仕組みもたくさんありました。例えば年収も国内ナンバーワンを目指すに相応しい設計をしています。(MR、女性、第一三共)」
新卒一括採用・終身雇用が前提だった時代には、「退職者=裏切り者」といった言葉を投げかける企業もありました。しかし、昨今では一部の企業で退職者を再雇用する「アルムナイ(卒業生)採用」を活用する動きもあり退職者とのつながりを重視する企業が増えています。長い時間をかけて育てた社員や苦労して採用した社員が辞めてしまうことは企業にとって大きな損失ですが、今後ますます人材の流動性が高まることが予測されるなか、他社への転職を避けて通ることはできません。自社で培った経験を糧に他社でも活躍できる人材を育成し、送り出すことができる企業文化を構築することは、長い目で見れば自社にとってプラスに還元するのではないでしょうか。
対象データ
2020年以降、OpenWorkに退職者からの投稿が10件以上ある4,085社307,458件のクチコミを対象データとしています。