第2話 ばいばい退屈
今日も今日とて退屈な授業。
「という訳で、ダンジョンは現在国の管理下に置かれてダンジョン探索登録を行った者と国民防衛隊、旧自衛隊にのみ調査という名目で探索を認められているのは当たり前の事だと思う。だが、どうしてそうなったのか。それには……」
自分としてはそもそも動乱とも呼べるあの経験があるからこそ、今のダンジョン探索は少し制約が多くて息苦しい。そう思う。しかし、事実として効率的に経験を踏むために、そして経験という可視化出来ないはずの物を可視化した種族の発明品がある以上私は今の状況を受け入れないといけない。
理不尽も、得られる恩恵も、両方を享受してダンジョンに挑むんだ。
「久しぶりだなロロカに連絡とるのも」
そう言って、私は端末のチャット機能で連絡を取る。
「ふふ、相変わらず連絡が早くって助かるわ」
いつも通り駅前のモニュメントで待ち合わせとのことなので、私はそちらに向かう事にした。
「あの! お時間大丈夫ですか!」
「は?」
「あの! この間ダンジョンで助けていただいた方ですよね!」
知らない木偶人形が……いや、どうやらあの大男らしい。名前は知らないが、そいつが話しかけて来たみたいだ。
「あんた、何しに来たのよ」
「お名前は分かりませんが、あなたの戦い方に感銘を受けました! 弟子にしてください!」
「はぁ?」
「お願いします! 俺強くなりたいんです!」
「いや、私別に弟子とか取っていないから」
「そこを何とか! お願いします!」
「で、結局ついてこられたと」
「ごめん蘆花」
「俺もすみません。まさか待ち合わせをされていたなんて」
「構いませんわ。どの道市役所にも用事はありますし、行きましょう」
そう言って、私たちは若干拗ねた蘆花に大男を連れて市役所に向かう。
「お名前お伺いしてもよろしいですか。そちらの殿方」
「おれですか」
「ええ。殿方はあなたしかいないじゃないですか」
「俺は的場拝司って言います」
「拝司さんですか。だとするとグレートグレイですか。登録名は」
「あ、それです」
「はあ……お姉さまに変な事をしていようものなら殺すところでしたわ」
「え」
「注意しなよ。蘆花はこれでもA級、それこそS級の昇格審査の打診も来るほどの強い魔法使いだからね」
「A級⁉」
「そうですわ。B級のあなたにとっては一応上の階級という事になりますわね」
「そ、そこまで知られているんですか」
「お姉さまを危険な目に遭わせたあの配信はしっかり見ましたから」
本当にこの子は私の事になると怖いが、まあこれでこの大男を牽制できるなら良いか。そう思って、市役所のダンジョン管理部に向かう。
そしてしばらく待機をした後、私は討伐証明とポイントの発行を行う。
「どうでした」
「品質も良いから少し高めにポイント貰えた。それに、A級だから危険な状況になる前の未然の討伐って事でそっちでも」
「あのモンスターは死体を細切れにしてしまいますから、絶対に被害は既にあったと思うのですけれどね」
「まあ、そこには目を瞑ってポイント弾むからこれからも贔屓にしてねって事でしょう」
私たちがそう話していると、拝司はおずおずと聞いてきた。
「あの、それってこの間の砂漠のモンスターの話ですよね」
「ええ、あなたが殺されかけたモンスターの話ですわ」
「やっぱりポイント多いんですか」
「まあ、正直私の目的からすれば安いけれど。それでも数ヶ月分の銃弾と装備新調できるって考えれば普通の人なら喜ぶ位のポイントではあるかな」
「お姉さまは装備を中々新しくされないから心配ですわよ。基本国民隊のお下がりの装備品しか使わないのも怖いですし。もう少し奮発してくれても良いんですわ」
なんかお小言を言われたが、自分としては国民隊の装備は普通に使用感も悪くないので愛用しているのだが。それにお下がりの品だと冒険者用の装備品のショップで買うより安上がりだし。
「まあ良いですわ。それに、お姉さまどうせ区役所ではなく市役所に来たって事は」
「うん、そいつの実力見たい。付き合ってもらえる」
「私が行きますわ」
不思議そうにしている拝司を置いて、私たちは意思疎通をした。
「えっと、本当に良いんですか」
「使用武器は支給品の武器で同条件。殺しや致命的な損傷を与えなければ他は大丈夫。何も問題無しですわ」
地下の演習場で、私は蘆花と拝司を向き合わせていた。
「あの、ですが俺だって一応B級。この勝負では……」
「身の程教えてやりますわ」
拝司はともかく、今の言葉で蘆花の方がやる気になったようである。
「ほら、行くわよ」
はじめ! その一言で、いきなり蘆花が疾駆した。
「!」
「注意散漫ですわ」
そう言いながら、蘆花の蹴りが拝司の左肩に直撃をする。
「くそが!」
そう言いながら、大ぶりの斧の攻撃が振られるが蘆花はそれを打撃でかわす。というよりいなした。
「は⁉」
「弱い振りだからただのパンチではじき返されるのですわよ」
「くそ!」
「駄目ですわよ。大ぶりの攻撃が一切として意味をなしていないですわ」
そう言いながら、蘆花は相手の攻撃を何度も何度も躱していく。
「これ以上は意味無いですわ」
そう言って、蘆花はもう一度斧に攻撃をする。そして、斧を粉砕する。
「お前! 魔法使いじゃなかったのか!」
「別に魔法使いが武器破壊をしては駄目だなんて法律は無いですわよ。それに、魔法使いが魔法しか出来ないと思っているからそんな」
「五月蠅い!」
「! あなた、今の攻撃は」
「何だよ! お前! どうして攻撃防がれるんだ!」
「私に防御魔法を使わせる意味が分かっての発言ですの」
蘆花は確かに防御魔法を展開した。速攻魔法だから防御力は低いが、だとしてもB級が使わせるのか。あの大男、武器持った攻撃よりもむしろ……。
「くそ! くそ!」
「申し訳ありませんわ」
「ぐあ!」
攻撃力上昇魔法の乗った蘆花の攻撃が命中する。鈍い音と起き上がれない大男を見ながら、私は宣言した。
「勝者、蘆花」
その上で、私は確認をした。
「本当に私の弟子になるの? 私、蘆花みたいに手加減できないよ」