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早期離職した新卒社員は企業をどう評価しているのか

2023.04.27 05:00

新卒の早期離職、すなわち3年未満での離職率は、直近の統計では大卒で31.2%となっています。長年、およそ3割で推移してきた新卒の離職率ですが、かつては「3年はいないとモノにならない」「新卒で入った会社を1〜2年で退職した人は採用しづらい」などと言われたこともありましたが、現在では「(むしろ)転職が早いほど次のキャリアが描きやすくなる」「合わない会社で無理に働くよりも決断力があって良い」といった声も聞かれるようになりました。また、新卒社員に入社年の6月下旬に聞いたところ28.3%が3年以内に離職する意向があるという調査もあり、若手は自身が所属する企業としてふさわしいかどうか、見切りをつけるのが早くなっているという意見も出ています。


さて、今回はこの新卒社員の早期離職というテーマについて、OpenWorkの「社員クチコミデータ」を分析することで離職者が会社に対しどのように考えていたか、その特徴や近年の変化について明らかにしていきます。


「客観的な企業観」と「自分的な企業観」

一般的に早期離職は「リアリティショック」という言葉がある通り、就職前のイメージとのミスマッチが原因であるとよく言われますが、近年の早期離職者はどのような点にミスマッチと感じ離職しているのでしょうか。また、早期離職者は会社に対してどのような点の不満が多いのでしょうか。


そこで、OpenWorkに投稿されたデータから、2010年入社以降の若手社会人の回答者を早期離職の有無別に分け、OpenWork上の各スコアの平均値を抽出しました。(図表1)

図表1を見ると、2010年入社以降の若手社員における早期離職者の特徴として以下の点が挙げられるでしょう。


① 早期離職者は客観と主観で分けて総合的に評価している

早期離職者の評価を見ると、総合評価の差よりも「知人や家族にその会社で働くことを推奨できるか」を示すNPSスコアの差が著しく大きい結果になりました。「客観的にみてこの会社としては悪くない評価だが、個人的には他人にはおすすめはできない・愛着の持てない会社だった」といった客観と主観で分けた企業評価を持っている可能性があります。


②「20代成長環境」「社員の相互尊重」は、早期離職有無による差がほぼない


③「人材の長期育成」「待遇面の満足度」「風通しの良さ」「法令順守意識」は、早期離職者が比較的低く評価する傾向に

特に継続者と離職者間での「法令順守意識」の差は0.57ポイント(pt)と著しい結果となりました。法令重視の世間の動きに変わるなかで急速に日本社会全体のコンプライアンス意識が高まったが、この動きに対応していない会社に対する若手社員の評価がシビアになっていることが考えられます。


④「社員の士気」「人事評価の適正感」

早期離職者が比較的高く評価する傾向に驚くべきことに、早期離職者の方が高いスコア項目もありました。「士気は高いが自分には合わなかった」「会社の評価は適正だと思うが自分はその評価尺度にいる限り高く評価はされない」という理由で退職した若手社員が一定数いることが考えられます。この2項目については、ほかの項目と比較して特に企業の組織面を俯瞰する視点が強く、士気が高かったり人事評価が適正であったりすることによって直接自分自身が得するわけではない、という考えが背景にあるのかもしれません。


さて、上記のように両者を比較したうえでわかるのは、若手社員のキャリア選択においては「自分的には」という主観・感覚を大事にする傾向があると言えそうです。他人に自社を推奨するかを測るNPSスコアは早期離職者の方が低い一方で、「社員の士気」や「人事評価の適正感」は早期離職者の方が高いということを踏まえれば、「世間的には士気が高く評価も適正でいい会社なのかもしれないが、自分的には合わない・愛着が沸かなかった」という感覚を持っている可能性があるということです。


自分の“今”の成長にとって有効か、という視点を重視する傾向が強まる

では、早期離職者の会社評価は年代によって変化しているのでしょうか。2010年入社の早期離職者と2017年入社(3年未満離職者を検討するため執筆時点で最新年)の早期離職者の各評価スコアを比較します。(図表2)

2017年入社の早期離職者の方が、「風通しの良さ」「法令順守意識」の項目を高く評価する傾向が見受けられます。その一方で、「20代成長環境」は2010年入社の早期離職者の方が高い結果となりました。全体的には法令を重視し風通しもよくなったが、自分の成長にとって有効ではないと判断した場合は早いタイミングで離れる動きが活発になっていることが浮き彫りになっています。


また、両者間で特に大きな差分があったのが、「残業時間」と「有給休暇取得率」でした。この7年で月平均残業時間は10時間以上減少し、有給休暇取得率は153%増となっていることがわかります。残業時間は短くなり有給取得率は高まったが、早期離職者ほど「20代成長環境」の評価が低くなったというのが、近年の変化と捉えられるでしょう。


残業時間と有給取得率は早期離職者の方が改善

最後に、「残業時間」と「有給取得率」の変化について興味深い点があったので取り上げたいと思います。(図表3)

2010年入社の早期離職者は月平均残業時間が40.2時間でしたが、2017年入社の早期離職者は29.6時間と大幅に差がありました。その一方で、就業継続者は同30.0時間から25.2時間と、両者で10時間以上あった差が4時間強になり、大幅に縮小しているのは明らかです。


同様に有給休暇取得率についても早期離職者が同35.0%から53.5%、就業継続者が同49.4%から62.2%となっており、2010年入社者では15%ほどもついていた両者の差が、8%ほどに縮減しました。


表面的に労働環境の差を端的に図る残業時間と有給休暇取得率ですが、早期離職の有無による差は今後縮小していくことは間違いないでしょう。つまり、今後は表面的な労働環境の改善では早期離職を十分に抑制できないことが予想されます。その際に重要なのは、若手から「自分的に良い」企業といかに感じて貰うか、なのではないでしょうか。


このレポートの著者:古屋星斗氏プロフィール
大学院(教育社会学)修了後、経済産業省入省。産業人材の育成、クリエイティブビジネス振興、福島の復興支援、成長戦略の策定に携わり、アニメの制作現場から、東北の仮設住宅まで駆け回る。2017年、同省退職。現在は大学院時代からのテーマである、次世代の若者のキャリアづくりや、労働市場の見通しについて、研究者として活動する。非大卒の生徒への対話型キャリア教育を実践する、一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。