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紺碧の採掘師

第9章02

2024.06.14 12:53

 アンバーのブリッジではカルロスが至極恥ずかしいと言った様子でブツクサ呟く。

「やれやれ全く。何だか知らんが色々喋ってしまった」

 護が「そんな照れなくても」と言うと、「ウルサイ」と腕組みして護に背を向ける。

「良かったやん、黒船と話できてー」

「あっ、ところで!」カルロスはバッと振り向き、ネイビーに「電話してる間に黒船を追い越しましたよ!」

 ネイビーは「えっ」と少し驚いた顔をしてから「あぁはい知ってます。近距離だとレーダーに出るから」

 カルロスは更に恥ずかし気に赤くなって「そうかレーダーに出る距離だったかマリアさんも居るし大丈夫だな、うん」と一息で言い、また腕組みして窓の方を向く。

 そんなカルロスに、ネイビーがクスッと笑って「カワイイ」と小声で呟く。

 穣は「おい、カルさんよ」と呼び掛けると「アンタ色々と悩んで来たんだなー。今初めて知ったわ」

「私だって悩みはある!」カルロスはチョビッと穣の方を見て、怒る。

「知っとるわい。昔、凄いイライラしてたしな」

 護が「イライラしてたの?」と聞くと

「不機嫌の権化っすよこの人」穣はカルロスを指差して「んで俺も満の事でイライラしてたから、同じ船室にイライラが2人で大変な事に」

 カルロスが「地獄だった」と呟く。

 そこへ剣菱がしみじみと「まぁしかしアンタ、護のとこに逃げて、ほんっとに良かったな……」と溜息混じりに呟き、カルロスは少し怪訝そうに剣菱を見る。

 (なんか予想外な反応ばっかりで、一体どうしたらいいんだ!)

 内心困惑しながら一応「は、はぁ……」と照れ臭げに返事をする。

 穣は護を見て「ドンブラコして良かったな、護」

「違うよ、ターさんが助けてくれて良かったんだよ」

「そっか」

 何はともあれ話題を変えようと思ったカルロスは剣菱に質問する。

「それより船の事ですが、免許取るのにどの位かかるんですか」

「ん?……えーと、第三種だと航空船舶学校の短期集中コースで1か月かな。あ、第三種ってのは定員8名までの小型個人船免許の事だが、ただ人工種は第三種免許を取れない事にはなってる」

「まぁ何とかして取ります」

 護は何となく興味を持ってネイビーに聞く。

「ちなみにネイビーさんが持ってる免許ってどんなの?」

「私のは第二種2級航空船舶免許って奴で、これ人間だと船長免許も同時に取得可能なのよ。人工種は一等操縦士、つまり副長までだけどね」

「ほぉ」

「採掘船操縦士を目指すなら、最低でも航空船舶大学に2年間入らないとね!」とニッコリ笑う。

 剣菱はカルロスを見て「お急ぎでなければ採掘船でバイトしながら教習所に通って3か月位で小型船免許を取る事も出来るが」

「バイトと言いますと?」

「1週間のうち、黒船かウチの船に3日位乗って、残りの日は教習所とか」

 護が目を見開いて「いいんですか、船長!」と大声を出す。

「勿論。そうするとウチの船もイェソド行けるし、アンタらも稼げる」

「カルさん!」護がカルロスを見る。

 カルロスは「うーん。でもな」と考えて「私は短期集中で1か月みっちり頑張る方がいい」

「あらま。じゃあそうしよう」

「ってお前はいいのか?」

「うん、一緒に航空船舶学校に入ろう」

 ネイビーが口を挟む。

「マルクトに大規模な学校あるから、そこがいいかも」

「なるほ!……よし、あとは管理を納得させるだけだな!」

 護が言うと、カルロスが

「丁度それが近づいて来たところだ。そろそろ管理波が来る」

「おお!頑張るぞー管理さんと交渉だ!」

 拳を握って気合を入れる護に、穣が少し心配気な顔で聞く。

「ま、護よ。首にタグリング付いてんだけど、大丈夫か?」

 護はキョトンとして、それから「ああ!」と自分のタグリングを指差すと「そういえば、あったなこんなの!」

 カルロスも「すっかり忘れていた。まぁこんなのどーでもいい」と面倒くさそうに言う。

 途端に「えええ!!」とアンバーの人工種達が驚愕の大声を上げる。

 穣は皮肉な笑みを浮かべて二人を指差し「すげぇわコイツら全く気にしてねぇ!」

 マゼンタも「すっげぇ!そうだ、どうでもいいんだ!」

 悠斗も笑って「そうだそうだ、どうでもいい!」

 透も「うん、どうでもいい!」と手を叩いてアハハと笑い、マリアも「流石!凄い凄い!」と拍手する。

 護とカルロスは訳が分からず皆を見たまま「???」

 頭にハテナマークを浮かべて立つ二人を見て、穣は「お前らマジ最高!」と笑いながら、昔ラメッシュに言われた言葉を思い出す。

 『全部、わからないにしてしまえばいいのさ』

 『未知こそ可能性の宝庫』

 (今、まさに実感するよ、ラメッシュさん。人は変わる。人生、何がどうなるやらだ。だから決め付けてはならない!)

 そこへ警告音が鳴り『管理区域外警告』の表示が出て緊急電話のコールも鳴る。

 ネイビーと剣菱が同時に「レーダー復活!」と叫び、剣菱が「早速、管理様からのお電話ですな」と受話器を取る。

「はいアンバー剣菱です。……ああー申し訳ありません実は有翼種に妨害されて通信が出来なかったのです。……はいそうです有翼種です!実在したんですよ!驚きました!」

 剣菱の口調にネイビーが苦笑して「わざとらし過ぎる!」と小声で呟く。剣菱は続けて

「行方不明になった二人はその有翼種に保護されておりまして。先程、実際に彼らと会って今、二人を連れて戻って来ました。……はい、ここにおりますよ。元気でピンピンしております。は?……はぁ、了解しました」

 剣菱は受話器を置く。

「管理が二人に会いに来る。霧が晴れるまで停船して待ってろと」

「じゃあこっちから行きます。行くぞ護」

 カルロスの言葉に剣菱と穣が「え」と驚いた顔をする。

「ほい」と返事した護は「あっ、ちょい待ったカルさん、あの事を言ってない!イェソドにもう一人、人工種が」

「待て護。それは今はまだ、言わないでおこう」

「あ、そう?んじゃ後にする」

 穣が怪訝そうに「人工種がもう一人?」と聞き返す。

 カルロスは「まぁこれは皆がイェソドに行った時のお楽しみという事で」と言い「行こう護」とブリッジ入り口へ歩き始める。

「ほい。まず採掘準備室に置いといた斧を取って来ないと」

 途端に剣菱が慌てて「ちょ、ちょい待った。荒っぽい事はアカン!」

 護は笑顔で剣菱に「大丈夫です」と言い、カルロスに続いてブリッジから出る。

 穣も剣菱に「俺も行ってきます」と言ってブリッジから出ながら「あいつら、何をやらかすんだ」

 更に透やマゼンタ達も野次馬として後に続く。



 白石斧を持った護と黒石剣を背負ったカルロスは甲板のハッチを開けて甲板上に出る。辺り一面、霧で真っ白。

 その後から野次馬の穣やマゼンタ達も甲板に出て来る。カルロスは船体後方へ歩いて行くと立ち止まり

「後ろに黒船がいる。まずはこっちから」と言ってホルダーから黒石剣を抜くと、その切っ先を後方に向ける。護も白石斧の保護カバーを外して斧を後方に向けて構える。

 二人の背後では、穣が「真っ白で周囲が見えねぇのに何すんだ」と呟き、マゼンタは「なんかカッコイイ事はじめたぞ!」そして悠斗も「何をやらかすんかいな?」と興味深々。

 皆がワクワク顔で二人を見つめる中、カルロスが叫ぶ。

「行くぞ護!」

「ほいさ!」

「3、2、1、GO!」

 同時にバッと雲海を切ると、周囲が拓けて後方を飛ぶ黒船の小さな船影が見える。

 野次馬達はビックリ仰天して叫ぶ。

「ど、ど、どういう事?!」


 黒船のブリッジでも総司が驚いて「えっ。なんか突然霧が晴れた、アンバーが見える!」

 続いて駿河が「というか、なんか、アンバーに向かって晴れてないか……?」

 更に上総も「確かに、なんか変なエネルギーが、アンバーから来たんですよ、突然……」と首を傾げる。

 総司が「待った、それってアンバーが、霧を晴らしたって事?」と聞くと上総は「うん」と頷いて

「アンバーなんだけど……」と口籠り、悩み顔で「甲板に皆が居るから、誰かが何かしたのかなぁ……?」と頭に大きなハテナマークを浮かべる。


 アンバーの甲板では、一同が船首側へ走って移動しつつ、護が説明をしている。

「今のが雲海切り!有翼種の採掘ではこれがカルさんの役目!」

「ええ?!」驚く野次馬メンバー達。

 マゼンタが「それって、どんな採掘!」と叫ぶと穣も「マジどんな採掘よ、それ!興味あるわ」

 一同は甲板のブリッジ手前に集まる。カルロスはニヤニヤ笑って

「さーて管理の船が来たぞ。ガッツリ雲海切りしてやろう」と黒石剣を構える。

「おっしゃー!」護も白石斧を構える。

「3、2、1、GO!」

 二人の雲海切りで周囲が拓け、遠方に航空管理の船の船影が現れる。

 パチパチと拍手する野次馬メンバー。

「何かワカランけど凄いなぁ」悠斗が言うと、透も頷いて「ワカランけど面白い」

 カルロスは黒石剣をホルダーに仕舞うと、それを身体から外して

「これ、預かっててくれ。管理に取られると取り返すのが面倒だ。……護も」と言いつつ穣にホルダーごと黒石剣を渡す。

 穣はそれをしっかりと受け取り「確かに預かった」

 護は白石斧に保護カバーを着けて、透に「頼む」と言って渡す。

「うん。任せろ」

 航空管理の船が近づいて来て、アンバーは速度を緩めて停船する。続いて黒船もアンバーの後方に停船する。

 アンバー上空に来た航空管理の船はゆっくりと甲板に接近し、下部を開けてアンバーの甲板にタラップを降ろす。

 三人の人工種管理の男がタラップを降りて来て、先頭に立つ男が護とカルロスを見ながら言う。

「ロストした人工種だな。MF SU MA1023とALF IZ ALAd454」

「はい」

 二人が返事をすると「事情聴取とタグリングのメンテをするのでこちらへ」とタラップの方へ手招きする。

 カルロスはその場に留まったまま相手に聞く。

「誰が我々のメンテをするんです?」

「SSFだ」

 途端に顔を顰めたカルロスは、物凄く嫌そうに「って事は周防か。なんてこった」と呟く。

 護は自分を指差しながら「あのー、俺、ALF出身なんですが」

 すると管理の男は淡々と「あぁ十六夜先生に連絡した所、都合が悪いのでALF以外の所でメンテして欲しいと」

 護、穣、透のみならず他のメンバーも目を丸くする。

「えええ?!」

 マゼンタが「せっかく息子が戻って来たのに!」と大声を出す。

 透は護を気遣って「気にするな護!」と護の肩を掴む。穣も護に声を掛けようとするが

「別にいいよ。俺も会いたくなかったし!」

 ニッコリ笑って言い放つ護に、穣と透は思わず「ほぇ?!」と声を発して目を丸くする。

 (以前は製造師の為に、って言いまくってた奴が……)

 そこへ管理の男が「ちなみに十六夜先生が、管理の方に大変なご迷惑をかけて申し訳ないと謝っておられた」

 思わずガクッとして苦笑いし、「はぁ」と適当な返事を返す護。

 透は自分のタグリングを指差しながら

「ってか基本的にコレ付けられてる事自体が傍迷惑なんですけど!」

 穣も「だよなぁ!」と大きく頷く。

 管理の男は少し苛立ったように「さっさと中へ入れ。行くぞ」と二人をタラップへ促す。

 護は「よし行こう、SSFでカルさんの製造師に会うの、楽しみだなー!」とニッコリ。

「何でだ……」至極嫌そうな顔で護を見るカルロス。

「行ってきまぁーす!」皆に手を振り、楽し気にタラップを上がる護。

 続いてカルロスも「行ってくる」とタラップを上がる。

 野次馬メンバー達は手を振って二人を見送る。

「行って来いー!」「行ってらっさーい!」

 二人が船内に入り、管理の男達も船内に戻ってタラップが上げられる。それを見ながら透が穣に言う。

「……護、まるで別人になったよね。人ってあんなに変われるんだな……」

「そもそもカルロスと護が一緒に居るのが不思議でタマラン。何がどうなったんだ一体!」

 上昇する航空管理の船。見送る一同が風に煽られないように透は風を操って安定させつつ

「イェソド行きたいなぁ……」

 穣も頷いて言う。

「どんな所なんだろうな。マジで行きてぇ……」



 航空管理の船の中では護とカルロスが狭い部屋で、人工種管理の二人の男から事情聴取を受けている。

 男はタブレット型の小型端末を見ながら護に問う。

「動物を追いかけて川に落ちたというのは本当?」

「はい。とにかく原因は自分のミスです。他のメンバーは関係ありません!」

 カルロスが「ったく採掘監督の癖に!」と突っ込む。

「しょうがないやん!」

 男はやや大きな声で先を促す。

「で、それからどうなった?」

「流されてどこかの川岸に辿り着き、歩き疲れて倒れた所を有翼種に助けて頂きました」

「いやその前に妖精だろ!命の恩人を忘れるな!」カルロスがまた突っ込む。

 男は怪訝そうに「妖精?」

 護はニッコリ「はい」と頷き「丸くて長い耳の、カワイイ奴とか」

 カルロスは仏頂面で「私の場合はゴツゴツした、かわいくない妖精でした」

「え、あれカワイイよ!」

「いやあいつ、人に頭突きしたりキックしたり全然かわいくない」

「あの足でキックとかカワイイやん!」

 管理の男は、はぁーと大きな溜息をついて「君達、真面目に答えてくれるかな」

「真面目です!」護とカルロスが同時に言うと、もう一人の管理の男が

「言葉だと説明不足で分かり難い。その妖精という存在の図を描いてくれ」と自分の持つタブレット端末を二人の前に差し出す。

「どっちが描く?」護がカルロスを見て言うと、カルロスは護を指差す。

 護は管理の男からタブレット端末とペンを受け取り、真面目な顔でササッと図を描くと「こんなかな」とカルロスに見せる。

「バッチリだな」頷くカルロス。

「描けたか。見せろ」

 男に言われて護はタブレットとペンを返す。

 人工種管理の二人の男はタブレットに描かれた妖精の図を見て言葉を失う。

「……」

 奇妙な長い沈黙の後、片方の男が拳を握り締めて「ふざけるな!」と怒鳴る。

 慌てて護が「いやふざけてませんって!」

 もう片方の男も肩を怒らせ「いい歳をして、こんな落書きをするんじゃない!」と二人を叱る。

「ふざけていません!」カルロスは管理達の怒りに負けず劣らずな気迫で言うと「私も41歳になって、まさかそんな落書きのような奇妙なかわいくない存在に命を救われるとは思いもしませんでしたが、厳然たる事実なのです!」